工藤 直 院長の独自取材記事
犬と猫の病院ぴーす
(板橋区/小竹向原駅)
最終更新日: 2023/01/22
有楽町線・副都心線の小竹向原駅、3番出口から徒歩14分。商店街のなかにある「犬と猫の病院ぴーす」のガラス張りの明るい待合室は、ピンク色が多く使われ、かわいらしい雰囲気。動物病院というよりも小児科のようだと伝えると「動物病院の診療はまさに小児科と同じですから」と院長の工藤直先生は話す。動物看護士の妻と2人で動物たちの診療に日々あたっている。柔和な笑みで話す工藤院長だが、志には芯の通ったところがある。「決して妥協せず、ごまかさず、真摯に取り組むことを約束いたします」とホームページに宣言しているとおり、心から動物を思いやる気持ちが伝わる温かさに満ちた取材となった。 (取材日2017年4月17日)
動物には誠実な診療を、飼い主には丁寧な問診と説明を
開院までの経緯を教えてください。
東京農工大学を卒業後、じつは3年ほど臨床を経験したら大学に戻り研究の道に進むことも視野に入れていました。それで都内の動物病院に勤めはじめたのですが、そちらで学ばせていただいた診療方針に感銘を受け、この治療をもっと多くの患者さんに受けてもらいたいと思い、開業を決意しました。あちこちの物件を探したのですが、最終的に板橋区大谷口に開院したのは、以前勤めていた動物病院の患者さんの中に不動産屋がいらして声をかけてくださり、その方に交渉もしていただいたご縁からです。実際に開院してみて、この辺りは想像していた以上に動物と共に過ごしている方が多いですね。また、狂犬病予防の意識が高い地域だと感じました。これまで板橋区の獣医師会の方々が頑張ってこられた成果だと思います。
どんな診療方針ですか?
動物に対しては、処置、検査、治療など、どんなことも決して妥協せず、ごまかさず、誠実な診療を心がけています。ワクチン接種や定期健診をするだけでなく、動物たちそれぞれの性格や生活習慣を把握して、飼い主さんに適切なアドバイスをすることで生涯にわたり、寄り添う診療を行うかかりつけ医でありたいと思っています。飼い主さんに対しては、自宅での動物の様子を丁寧にお伺いした上で診断し、納得していただけるよう時間をかけてしっかり説明します。もしかしたら早く済ませようという飼い主さんには合わないかもしれませんね。実際、僕の説明がこまかすぎると怒ってしまった方もいらっしゃいました。時間がかかってもいいから、しっかり診てほしいという方に通っていただければと思っています。
予約制ではないそうですね。
当院では、来られた方から順番に診察しています。予約制にしてしまうと診療時間が限られるので、疑問を解決できないまま終わってしまいかねません。いらした飼い主さんの不安や疑問を全部クリアにできてお帰りいただくようなスタンスを取りたいので、どうしても一人ひとりの診療時間が長くなってしまいます。予約をしたのに長くお待ちいただくのでは、予約する意味がありませんよね。だから、当院では予約制にしていないのです。しばらくお待ちいただいても、その方にも他の方と同じように時間をかけて丁寧に診療するので、そこは許してくださいね、と思ってやっています。万が一、長時間お待ちいただく場合は、動物のストレスの一因となることもあるので、ご自宅やお車で待機していただいて、順番になったらお呼びする体制をとることもできます。僕は、ちゃんとしたことを、ただ当たり前に続けていきたいのです。
ペットは家族のかけがえのないぴーすという思いで命名
病院名の由来は?
動物病院は、動物の全体をしっかり診られる総合診療をしなければいけません。外科でも内科でも、基本的にどんな症状にも対応しなければいけないので、私の能力ではなかなかエキゾチックアニマルまで手を広げることができません。そこで開院に当たり、まず犬と猫だけを診る病院にしようと決めました。それがはっきりわかるよう、病院名にも「犬と猫の病院」とつけました。病院名の側にイラストも入れ、外国の方にもわかりやすくしています。「ぴーす」のほうは、犬や猫は大切な家族の一員、一つのかけがえのないピースなんだという意味合いからです。
内装のこだわりを教えてください。
内装は幼稚園や小児科をイメージしています。小児科では、うまく説明できない小さいお子さんに代わってご両親にお子さんの症状を話していただき、それを参考にしながら診断していきますよね。動物病院の診療もまったく同じです。動物にとってはどんな内装でも大差ないと思うのですが、飼い主さんには小児科のイメージがいいかな、と考えました。ほかの動物が苦手な子や、小さいお子さん連れの方でも気兼ねなくお待ちいただけるよう、個室の待合室も設けています。診察室にはとてもこだわりました。動物は飼い主さんがいると甘えてしまい、本来できることもできなくなることがあるので、当院では動物をお預かりして診療します。基本的に飼い主さんには診察室に入っていただきません。でも、見えなくなるのは不安でしょうから、診察室の壁をガラス張りにして、飼い主さんは検査や処置をガラス越しにご覧になりながらお待ちいただけるようになっています。
印象に残るエピソードはありますか?
ある日、飼い主さんだけでご相談に来られた方がいらっしゃいました。その方のお話をお伺いしたところ、お家の猫の体調が悪そうに見えるのだけれど、以前、動物病院に連れて行った際に、その猫がすごく怒ってしまったようで、先生や看護師さんに迷惑をかけてしまうのではないかと心配で来院を躊躇してしまっていたとのことでした。病院を怖がってしまうことは当然のことで、いい子に我慢できるほうがすごいことだと思います。当院では、動物看護士のスタッフが保定しますので、問題なく診察を行えますよとお伝えし、連れてきていただきました。その子は怒っていられることがびっくりしてしまうほどの体調の悪さでした。僕には、飼い主さんが動物病院にいらっしゃることを躊躇してしまうような状況にした動物病院業界側の責任だと感じられ、申し訳ない気持ちになってしまいました。病院に遠慮はいりませんので、心配なことがあれば連れていらしてください。
優先すべきは動物のこと。遠慮も心配も必要なし
獣医師になろうと思ったきっかけと、休日の過ごし方を教えてください。
動物が好きで、小学生の頃から、将来は動物に関わる仕事につきたいと考えていました。テレビや周りの大人に話を聞くと、どうやら獣医師免許がなければできない仕事がたくさんあることを知り、とりあえず獣医師免許を取ろうと思ったので獣医学科のある大学に進学しました。研究者になろうと考えた時期もありましたが、卒業後に最初に勤めた動物病院をきっかけに、開院することを決意しました。休日というのは、仕事のストレスをリフレッシュしたり体を休めたりするためにあると思うのですが、僕の場合、仕事のストレスがないんです。だから半分寝ながら教科書を読んだり、家で休んだりしていることがほとんどです。僕と妻の2人だけのスタッフですから、どちらかが体調を崩してもいけないので、休日はできるだけ体を休めるようにしています。
今後の展望をお聞かせください。
この病院を飼い主さんにより安心感を与えられるよう徐々に規模を大きくしていきたいですね。より良い診療内容を提供できるようにしていき、それと同時にスタッフを充実させて診療の幅を広げていきたいと思っています。そのスタッフや後輩の先生にも当院と同じような当たり前の診療ができるような病院をいつか開業してくれるとうれしいですよね。少し大きい話になってしまいますが、どこに住んでいても近くに安心して任せられるような動物病院が増えていってくれたら理想的だなと思っています。
ドクターズ・ファイル読者にメッセージをお願いします。
まず動物との生活を楽しんでいただきたいです。その楽しみ方やトレーニング、生活の仕方に絶対という方法があるわけではありません。動物行動学というものがありますが、それがどの家族のどの子にも当てはまるわけではないですからね。一般的な学問を学ぶ姿勢はすごく大切ですが、それにこだわり過ぎない方がいいときもあります。もう1つ、情報を正しく選択していただきたい。インターネットにはさまざまな情報があふれています。動物病院選びも正しい情報選択が大切です。怒って迷惑かける子だからとか、子どもが騒いで迷惑かけるからとか、遠慮する必要はありません。動物病院で優先すべきは動物のことなので、飼い主さんには納得できるまで信頼できる動物病院を選んでいただきたいですね。