松下光浩 院長の独自取材記事
アーバン動物病院
(新宿区/西早稲田駅)
最終更新日: 2023/01/22
西早稲田駅から徒歩3分の便利な場所に「アーバン動物病院」はある。新宿区で生まれ育った松下光浩院長が1994年に開業。20年以上にわたって地域の動物たちの健康を支え続けている。比較眼科学会、日本獣医皮膚科学会、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会、日本小動物歯科研究会などに参加し、近年新たにエキゾチックペット研究会にも所属。「自分自身に向上心がなくなったら引退しようと思っています」とストイックに語る松下先生はベテラン獣医師でありながら、向上心にあふれ、確かな医療のためさらなるステップアップを目指している。動物好きの少年が、そのまま獣医師になったような魅力あふれる松下先生にじっくりとお話を伺った。 (取材日2015年10月15日)
あらゆる疾患に対応する動物のホームドクター
獣医師になるきっかけは何でしたか?
父がシェパードをずっと飼っていましたので、父の影響が大きいですね。犬や猫以外に爬虫類や魚、昆虫など動物全般に興味を持っていましたので自分で飼い、積極的に世話をしていました。セキセイインコ、十姉妹、キンカチョウ、文鳥などいろいろな鳥を飼い、キンカチョウの卵を十姉妹に抱かせたこともあります。鳥を日光浴のため屋外に出していると文鳥が飛んできて、いつの間にか家に入ってきたこともあったんですよ。多分、どこかで飼われていた文鳥が逃げて飛んできたのでしょうね。生き物の飼い方の本をいつも読んでいる子どもで、医学にも興味があったので、中学生の頃には獣医師になろうと決めていました。その思いあってか学生の頃には動物園や水族館でアルバイトもしました。大学卒業時には有名商社を教授に推薦していただける機会もありましたが、自分にとって進む道は小動物の臨床獣医師以外全く考えられませんでしたね。
診療の際、心がけておられることは何ですか。
動物と接する時には、優しく静かに接しリラックスさせるよう気をつけています。飼い主さんに対しては、単に診断結果や治療方法を説明するだけではなく、飼い主さんが治療の果てにどのようなことを望んでいるのかを考えながら会話をたくさんしています。動物の日々の食事やご家庭での習慣が病気の治療に大きく影響しますので、飼い主さんとの信頼関係が大切になります。自分の意見を押しつけるのではなく、治療の選択肢を説明し、一緒に考え、飼い主さんに選んでもらうことが結果的に動物にとってもいいのではないでしょうか。
動物の診療はどのように行われるのですか。
まず飼い主さんへの問診で動物の病歴や主訴などを確認します。その後、視診や触診など身体検査を行い、考えられる疾患をピックアップし、とりあえず薬の処方だけで対処できる病気なのか、もっと検査を行って病気の特定をすべきなのかを見極めます。例えば、目がしょぼしょぼして腫れている場合、飼い主さんは目か皮膚の病気を疑うのですが、歯の根元が膿んで穴が空く根尖膿瘍(こんせんのうよう)も疑われます。腰のふらつきが実は脳の病気だったということもありえます。違う場所の重要な病気が隠れている可能性を考慮しながら、手で触り、目で見て、正確かつ「素早く」判断できるよう心がけています。というのも、根拠なく長期間治療を続けることは飼い主さんに経済的な負担をかけますし、動物の身体にも負担をかけてしまうからです。より専門的な検査や治療が必要な際には適切な医療機関をすぐさま紹介するのも当院の役目です。
高性能機器を導入するほか、歯科・皮膚科などこだわりの医療を提供
動物の歯科に力を入れているそうですね。
「人間と同じで犬も歯磨きや手入れが必要です」とよく飼い主さんに話しています。犬は子犬のうちから口腔ケアを行い、歯磨きをしていれば、「気づいたら歯がボロボロで抜くしかない」といった状況を回避することができます。とはいっても、ご家庭で飼い主さんが歯磨きしてあげるのは簡単なことではありません。まずは口元を触られることに慣らしていき、その後、指で歯に触れることに慣れてもらう…根気よく段階を踏む必要があるので、しつけと同じくらい時間がかかります。ですので、一番はしつけのしやすい子犬の頃から歯磨きをやってあげることなんです。猫は犬と違ってなかなか磨かせてくれないので、歯磨き効果があるチュアブルやスナックを与えるなどの工夫が必要です。猫の歯は小さくて修復が難しいので、注意をしてあげて欲しいですね。
他に力を入れている診療はありますか?
皮膚科がそうですね。獣医学と検査技術の進歩によってきちんと診断をつけることが可能になり、治療方法も明確化してきました。犬の皮膚疾患で多いのはアレルギーやアトピーですが、現在は血液検査で食事アレルギーの有無や原因がわかることもあります。フードを変えることによって症状が改善されることもあるため、アレルゲンや添加物が入っていないフードも増えています。当院ではフードメーカーの講師に当院に来ていただき、セミナーを開いてスタッフにも受講してもらっています。また、全てのメーカーのサンプルフードを医院に置いていて、アレルギーだけでなく例えば腎臓病であれば10〜20種類の中から、ペットが好むフードを選べるように配慮しています。
検査機器も高性能のものを導入されています。
しっかりとした診断をつけるために必要な機器を揃えました。歯科用および一般用のデジタルレントゲン装置、血液検査装置、超音波診断装置(エコー)、自動解析心電図計などがあります。経営のことを考えると設備投資に熱を上げすぎるのは良くないのかもしれませんが、超音波診断装置などは実際に精度の高い機器を使うと、それよりも精度の悪い機器では不鮮明であることにストレスを感じてしまうんです。正しい診断を下すための大切な機器ですので、できる限り妥協せず、良いものを導入しています。
獣医師は天職。日々進歩する獣医学を謙虚に学び続け診療に生かす
動物の魅力とは何でしょうか。
「癒し」つまり温かさではないでしょうか。今飼っているのは、15歳の猫なんですが、毎年検診していたにも関わらず今年の検診では腎臓が悪くなっていました。その経験もふまえ、猫の飼い主さんたちには10歳以上になったら半年に1度は検診することをおすすめしているんです。定期的に行っている検診キャンペーンでは料金も通常より安く設定し、気軽に検診していただけるようにしています。これまで診てきた中で忘れられないのは、重度の尿毒症に苦しんでいた猫でしょうか。手の施しようがないほどの重体だったのですが、飼い主さんが「これまで見過ごしてきた自分の責任」と一生懸命ケアをされたんです。1〜2週間入院して、退院後も通院治療およびホームケアを続けた結果、それから1年半ほど生き延びたんです。諦めずに愛情を注ぎ続ける姿に、飼い主さんの深い愛を感じましたね。実はそのような事例は他にも何件もあるため、私は飼い主さんが望む間、絶対に治療を諦めないことを心に決めています。
今後の展望についてお聞かせください。
今後もステップアップを続けたいです。休診日は勉強会に参加することが多いのですが、これは惰性で診療をしないよう自分を戒めるためでもあります。獣医学は日々進歩しており新しい技術・知識を絶えず身に付ける努力を怠ってはいけません。自分自身に向上心がなくなったら引退しようと思っています。そして、ある専門分野だけに特化した獣医師ではなく、あらゆる病気に対応できるホームドクターでありたいと願っています。得意分野だけではなく、自分の弱い科こそセミナーで学び、補うようにしているんです。年齢を重ねると記憶力などは弱くなります。しかし、常に本を手元に置き、学ぶ姿勢があれば新しい情報を吸収することは可能だと思っています。
学ぶことが正確な診療にもつながりますね。
さまざまな症例の動物が来院するので、固定観念に縛られた思い込みの診療は禁物だと考えています。正しい診断をつけるには、知識を習得することが重要です。また、謙虚さを失ったらおしまいだと思っているので、人の話を聞くのが大好きなんですよ。セミナーでも率先して質問します。この先、若い先生に「この先生まだ来てるの?」と思われる年齢になってもセミナーに参加して学び続けたいですね(笑)。そのためにも、食事や運動に気を配り健康を維持するようにしています。天職というのもおこがましいのですが、獣医師になってよかったと思っています。日々新しい出会いがある素晴らしい仕事です。20年以上、獣医師として働いているのですが一度もこの仕事に飽きたことはないです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
動物は話をすることができませんよね。ですから飼い主さんが愛情を持って毎日気にかけることが必要です。具体的には、1日1回はしっかりと全身を触ること、口の中を見て歯をきちんとケアしてあげること。例えば、犬は散歩時にブラッシングするとか、猫は抱っこするなどして全身をチェックしてください。これが長生きさせる秘訣です。早めに察知して対処することで治り方も違ってきます。細めに健診を受けさせてあげたり、ワクチンなどで病気を未然に防いであげた方が、万が一のことがあったときよりも経済的な負担も軽く済みます。いつもと違う様子だと思ったら迷わず相談してください。