長井洋史 院長の独自取材記事
アルバーロ動物病院
(町田市/古淵駅)
最終更新日: 2023/01/22
町田駅からバスで約5分のところにある「アルバーロ動物病院」。その名は、エスペラント語で「森」という意味。森野、鵜野森という周辺地域にちなんだ名を付けることで、地域に根ざしたホームドクターになりたいという想いが込められている。生命を育み癒す「森」のように、ペットと飼い主の癒しの場になれればと朗らかに語るのは、院長の長井洋史先生。インフォームド・コンセントを重視し、飼い主とペット、双方にとってベストな治療法を提示してくれる。小学生の頃から獣医師を目指していたという長井院長に、診察の際に気をつけていること、印象に残っているエピソードなど、さまざまなことを伺った。 (取材日2012年9月18日)
飼い主と動物にとってよりよい選択をすることが大切
診療の際に心がけていることはありますか?
まずは、ペットを驚かせないこと。そして、しっかりとした説明ですね。治療は飼い主さんとの二人三脚です。十分にコミュニケーションをとった上で、飼い主さんが伝えたいことをくみ取り、動物との関係性を見極めるようにしています。それによって、治療内容も出来ること、出来ないことが分かれるんですよ。例えば、慢性の腎臓病になると、入院するよりも通院による継続的な治療が一般的ですが、それが難しい飼い主さんもいる。物理的な理由や、「心配で家では見ていられない」「やせて行く状況を見ていたくない」など、精神的な理由もあるのです。飼い主さんが入院させたいと思っていても、病院にいること自体が動物にとってストレスだと判断されれば、その旨を説明して家での治療をお薦めする場合もあります。飼い主さんの意向もくみつつ、ペットにとってもより良い選択を提示していけるよう日々努力していますが、動物は言葉を話せません。丁寧な説明を心がけていると同時に、難しいことだと痛感していますね。
先生のご専門の分野と、こちらのクリニックの特徴をお聞かせ下さい。
獣医師の場合、幅広くどんな症状でも診れなければならないので、クリニックとしての専門性はうたっていませんが、しいて言えば眼科に関しては専門の先生に指導を受けていました。けれどまずは、一次診療が基本。気になることがあれば相談いただき、ここで出来ること、出来ないことをしっかりとお伝えします。ここで対応できない場合は以前勤務していたクリニックや、大学病院を紹介しています。そういった場合でも、「今後こういった治療をして、こう治っていくよ」と、飼い主さんに安心してもらえるレベルのことは伝えていきたいですね。例えば、角膜に白濁が残る病気があります。それは2、3年のスパンで治っていく病気なのですが、飼い主さんとしては、なかなか良くならないと思う方も多い。その場合は絵などを用いて、なるべく分かりやすく説明するようにしています。「この病気は、人間だったらこうだよ」などとお話しすることもありますね。主訴としては、皮膚病やヘルニアが比較的多いでしょうか。ヘルニアのレーザー治療は積極的に行っています。また、飼い主さんによっては投薬治療を好まない方もいるので、より負担の少ない漢方も取り入れています。
どういった飼い主の方が多いですか?
昔ながらの「犬は犬、猫は猫」という飼い方をしている方もいますし、伴侶動物といって、動物を家族の一員として飼っている方もいますね。また、町田は自然が多いので屋外で飼っている人も多いです。大型犬は一日に必要な運動量も多く、散歩の時間も長いほうがいいですし、庭に放せるなら放せたほうがいい。都心では豪邸でもなければ難しい環境ですが(笑)、この地域ならそれも出来る。大型犬にとっては住みやすい環境だと言えるでしょうね。
動物を飼うことが負担になることは避けたい
獣医師を目指したきっかけは?
小さい頃、飼っていた犬や猫が病気になることがありました。私としては出来る限りのことをして治してあげたいと思っていたのですが、父親は「動物なんだから、ここまででいいんだ」という典型的な古い考えの持ち主だったんです。自分では何も出来ないという歯がゆい思いから、自分にも何かできることがあったのではないか、病気にならないようにも出来たんじゃないかと意識するようになったのです。いろいろな動物を飼ってきたけれど、何も出来ないというのはつらいことです。そうした経験から獣医師を目指しました。小学校の卒業文集にはすでに、「将来の夢は獣医さん」と、書いていましたね。
実際に獣医師になられて、考えが変わったことなどはありますか?
子どもの頃に思っていたように、獣医師になり立ての頃も、出来る限り治療をすることが犬や猫にとっての幸せなのだと思っていました。なので、そういう治療を望まない飼い主さんには不信感を持つこともあったんです。しかし、治療をしていくうちに段々と考えが変わっていきましたね。飼い主さんと動物、双方が幸せでなければ、治療は成り立たないと気づいたんです。例えば「病気の動物を家で診たくない」という人もいますが、「それは飼い主さんの責任です」と言うことはできないんですよね。こちらが理想とする関係を強要するのは、押しつけかな……と。動物と飼い主さん、どちらにとっても負担の少ない、より良い治療をすることが今は大切だと感じています。そして、ベストな関係を続けていくお手伝いができるよう、さまざまな治療法を提示していきたいと思っています。
少しでも不安に思ったら相談して欲しい
印象深いエピソードをお聞かせください。
飼い犬の容態が大変厳しい状況の中、どうしても飼い主さんが出張に行かなければならない、ということがありました。お預かりし、どうにか生きているうちに飼い主さんともう一度会わせてやりたいと一生懸命看病をし、何とか頑張ってくれて、飼い主さんが迎えにくるまで持ちこたえてくれたんです。後から聞くと、家に帰って1時間ほどで亡くなったとのことでした。悲しい最期ではあるんですが、お家で飼い主さんと一緒に過ごせて本当によかったなと思いました。動物の生命力に少しでも応えることが出来たのかな、と。また、子宮蓄膿症といって、子宮に膿が溜まり、敗血症を起こして来院した犬がいました。虚脱状態にあり、飼い主さんも半ばあきらめかけていたのですが、その犬には生命力が残っていたんです。手術をして一命を取り留め、飼い主さんが面会に来る度に、どんどん元気になっていきました。うれしかったですね。この仕事をやっていて、本当によかったと思いました。
お忙しいなか、休日はどう過ごされているのでしょう?
休診日も入院している動物の様子を見に来ていますので、頻繁には行けませんが、学生時代からスノーボードをやっているんです。たまに、屋内ゲレンデへ滑りに行ったりしますよ。連休はとれないので旅行などには行けませんが、基本的に体を動かすのは好きなんです。子どもの頃はよく虫を追いかけていました(笑)だから、毎年夏に家族旅行で山梨に行くのが楽しみで。山梨には虫がいっぱいいましたね。うちの息子も私に似て、虫が大好きです。この辺りでも、カブトムシやクワガタムシが普通に採れたりするので楽しいですよ。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。
動物と飼い主さんが、ずっと良好な関係を保ち続けていられるようにお手伝いをすること。それが出来る環境作りを維持していくことですね。診療の技術はもちろん、分かりやすい説明の技術も磨いていきたいと思っています。人間の子育てと一緒で、ペットとの生活に悩むのは当たり前のことです。今は情報が多すぎて、どうしたらいいか分からない、という方も多いでしょう。「病院に行ったほうがいいのか」「放っておいても大丈夫なのか」と迷うなら、とにかく一度相談してほしい。例え小さなことでも、気になることがあれば、気軽に連れてきてください。