森谷孝雄 院長の独自取材記事
モリヤ動物病院 中町センター病院
(町田市/町田駅)
最終更新日: 2023/01/22
町田市近辺に中町センター病院、木曽病院、つきみ野病院、相模大野病院と4つの病院を持つ、「モリヤ動物病院」。院長である森谷孝雄先生はご家族共に動物好きで、病院では、奥さんはトリマーとして、娘さんは獣医師として一緒に活躍している。花柄の壁紙や犬の置物など可愛いい雰囲気の中町センター病院で、笑顔で出迎えてくれた森谷孝雄院長。「ペットを"動物として飼う"のではなく、家族の一員として共存すべきではないでしょうか。飼主さんが幸せになると同時に、ペットも幸せを感じられるような関係を築いて欲しい」と、ターミナルケアにも力を入れている。そんな思いやり溢れる院長が、動物医療にかける熱い思いを語ってくれた。(取材日2010年12月20日)
困っている飼い主さんのために、いろんな動物を診ることができる獣医師に
ペンションのような可愛いい雰囲気ですね。
当院のコンセプトとして、病院が病院らしくない場所になるよう心掛けました。誰か知り合いの家にお茶を飲みに立ち寄るような、そんな気軽な気持ちで足を運べる雰囲気にしたかったんです。なぜなら、病院は病院ということだけで、緊張してしまうところがあると思うんです。でも、当院に来るペットや飼い主さんには緊張して欲しくない。だから、固さが出ないように内装にもこだわりました。壁紙もあえて白ではなく、温かみのある色合いを選びました。ポスターもなるべく貼らないようにしていますが、飼い主さんにとって必要な情報は貼ることにしています。
なぜ、獣医師になろうと思ったのですか?
開業して33年経ちましたが、実は当時の獣医学部出身者は、あまり臨床獣医師という道には進みませんでした。ほとんどの人が公務員や研究所に行く時代で、開業者は1〜2割程でした。「なぜ、開業?」という雰囲気のなか、私がこの道を選んだのは、1匹の犬との出会いがきっかけでした。中学校1年生の時、ちょうど東京オリンピックの時でしたね。はじめて、マルチーズを飼いました。可愛くて仕方なかったのですが、病気になった時何もしてあげられなかったんですね。獣医さんに「今夜が山ですよ」と言われ、ずっと膝の上で抱いていました。ただ傍にいることしかできなかったけど、ペットが愛おしい存在だと感じました。その時の気持ちが忘れられず、獣医師の道を選びました。誰かに使われるのが得意ではない、ということもありましたね(笑)。
どのような動物を診察されているのですか?
犬と猫が多く、犬が7割、猫が3割です。そのほかには、フェレットなどの小動物も来ますね。また、エキゾチックでは、イグアナなどの爬虫類を診ています。エキゾチックアニマルの診療は書物もあまりなく、血液検査など検査に限界があり、経験が必要な分野とされています。開業した当時は、エキゾチックの診断方法が学問的にもまだ確立されていない時代でした。当然、私自身もエキゾチックに関しての経験や知識が浅かったため、3年間無料で診断をしていました。そうやって、長い年月をかけて経験を積んできたのです。ただ診るのではなく、飼い主さんとお茶を飲みながら話しをすることで、診療するための感覚だけではなく、飼い主さんがペットに対して何を心配するのかについても学びました。はじめは子どもの飼い主さんがハムスターを連れてくることが多かったのですが、だんだんと大人の飼い主さんが増えてきて、診察料を取って欲しいといっていただけるようになりました。それで、盲導犬の募金箱に、お気持ちだけ寄付して頂く形を何年かやっていました。現在は診察料を頂いていますが、「味がある仕事だな」と思い、エキゾチックの診療もしています。
アメリカの研修で学び、そして生かす
アメリカに研修に行っていますね。
アメリカのオクラホマ州立大学や大学病院で卒業後も研修を受けました。現在、大学病院に週一回研修に行って、スキルアップを目指しています。アメリカの技術・学問レベルは、日本との差はあまりないのですが、教育がきちんとしています。例えば、椎間板ヘルニアの犬の麻酔が覚めた後、手術で痛い思いをしているためスタッフが交替してずっと抱きながらケアします。はじめて見た時、欧米の動物愛護の意識の高さには叶わないと思いましたね。動物を、動物として見ていないんです。また、大学病院では、退院するペットにはシャンプーをしてきれいにしてあげてから帰すのです。これが、当院のトリミングにも繋がりました。事前に飼い主さんにお伺いしますが、治療にいらっしゃった患者さんをきれいにして帰してあげたいという思いから、トリミングもお勧めしています。
院内勉強会も行っているそうですが、これはどのようなものですか?
院内勉強会は、週1回開いており、10年程続いています。ここでも、アメリカ研修の経験が生きています。なぜなら、私たちが提供するのは医療だけじゃないということを学んだからですね。アメリカの病院では、食事に関しては医師ではなく、栄養士さんが直接患者さんと話合います。その姿勢を見て、それぞれの分野がそれぞれに仕事を持っていることを再確認しました。なので、当院では、医者も看護師もトリマーも同等であると考えています。最終的な責任は医者がとるべきであると思っていますが、看護師やトリマーが助手であるとは思っていません。それぞれの得意分野を生かせるよう、意見が言いやすい環境を目指すという意味でも院内勉強会はとても役に立っています。
とてもお忙しそうですが、ご趣味などはありますか?
まず、休みがないんですね(笑)。当院は、元旦から診察をしているんです。自分の時間が欲しいなと思いつつ、個人的な休みはとれません。以前、ゴルフのお誘いを頂いたことがありましたが、飼い主さんから連絡がきて、すぐに病院に戻りました。それ以来、なかなか休みをとることができなくて。けれども、夜の時間を使って、三味線を15年習っていたこともあるんですよ。今はやっていませんが、夜10時から教えてもらい、年に1回の発表会にも参加させて頂いていました。趣味とは少し異なりますが、実は現在、週に1度研修医という形で大学に通っているんです(笑)。日本の大学病院でどのようなことを教えているのか興味があり、学生に交じって大学病院の手術を見せてもらっています。また、働くことが好きなので、仕事で忙しいからとストレスを抱えることはありませんね。
生涯、現役でいたい
ここの医院ならではの治療はありますか。
当院では、ターミナルケアにも力を入れています。その一環で、ペットと飼い主さんが24時間一緒にいられる、入院設備を作りました。昔、待合室で寝ている飼い主さんを見て、必要性を感じました。入院したペットと飼い主さんが一緒に泊まれる部屋があればどちらも安心感が高まるはずです。もちろん、より良い医療も大切です。しかし、医療に必要なのは技術だけではないと感じています。なぜなら、ターミナルケアとは、最後の医療なんですね。しかし、言いかえれば、治療の限界を示していることにもなります。そして、獣医師が獣医師ではなくなる瞬間でもあります。けれども、この最後の場面こそ獣医師の本領が試される場。それまでの経験や人生観を生かしながら、飼い主さんの拠り所にならなければいけません。別れは辛いですが、自分の経験も通し、飼い主さんとペットを見守っています。
飼い主さんと、ペットとのエピソードについてお聞かせ下さい。
当院では、ペットが入院中付き添っている飼い主さんに、コーヒーをよくお出ししているんです。それをきっかけに、話しにくいことも話せるかもしれないと思ったんですね。その中でも、印象深い飼い主さんがいます。危篤状態での手術後、痙攣が続いていた犬が術後も2週間入院していたのです。その間ずっと飼い主さんが付き添っていました。そして、毎日熱心に愛犬の写真を撮り、お茶を出しに行く度に「先生。今日ね、少し後ろ足がぴくっと動いたの。」と症状を話してくれました。おかげで私も、その度に観察のポイントをアドバイスすることができたのです。深刻な状態だったのですが、その犬が奇跡的に元気になったんです。飼い主さんがとても喜んでいましたが、自分もとても嬉しかったですね。
今後の展望をお聞かせ下さい。
今年で還暦だったのですが、実は、61歳で引退をしておまんじゅう屋さんでもやろうと思っていました(笑)。しかし、50歳になった時、自分が何を求めて生きてきたのだろうと振り返りました。そして、人の役に立つことが自分の幸せであると気がついたんです。仕事は楽しいですが、決して楽ではない。正直、続けていくことは大変ですよね。でも、長く生きたからこそできることを考えた時、獣医師として後輩の育成をすることこそが、自分の存在理由であると感じました。教えることで自分も勉強になるし、何より、本にはない実践的なことを若い先生達に伝えたいと思っています。最後まで、自分を必要としてくれる人がいる限り、獣医師の仕事を続けていきたいですね。