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小林充子 院長の独自取材記事

CaFelier(キャフェリエ)

(目黒区/東北沢駅)

最終更新日: 2023/01/22

目黒区東北沢駅近く。2010年11月に開業したばかりの動物病院「CaFelier」はトリミングサロン、ペットショップグッズを兼ねた新しいスタイルのクリニックだ。病院らしくない一風変わったクリニック名はCanine(犬)とFeline(猫)とSommelier(専門家)をミックスした造語だという。一面ガラス張りの広々とした待合室には、カラフルなペットグッズやペットウェアがならび、まるでおしゃれな雑貨ショップのような雰囲気だ。インタビューに応えてくれた院長の小林充子先生は、ほんわかとした笑顔とやさしい語り口の癒し系の女性。あまりにも動物が好きなため一度は獣医師になる夢を諦めたが、ある出来事をきっかけに会社員から獣医師に転進したという経歴のドクターである。そんな小林先生に、獣医師を志したきっかけや、クリニックの特色ある診療についてお話を伺った。 (取材日2010年1月31日)

自分の家族を守ってあげたい。強い思いを抱き獣医師の道へ

獣医師を志した動機をお聞かせ下さい。

実は獣医師になる前に、獣医師とは全く関係のない経営学部に進み、就職もしました。小さい頃から動物が大好きで、獣医師になる夢も持っていましたが、あまりに思いが強すぎるためか病気の動物たちを見るとかわいそうという気持ちが先に立ってしまって・・・。それでも獣医師を目指すべきか悩み、色々な方に相談したのですが、そういう気持ちが強過ぎるなら、獣医師という仕事は難しいかもしれないと言われ、その時は自分でも納得し別の道を選択しました。それでも、なにかしら動物のためになる仕事をしようと、大学では環境保護を学びその知識が生かせる企業に就職しました。そんな私が獣医師に転向したきっかけは、ずっと実家で飼っていたサンボという名のヨークシャー・テリアです。まだ社会人になって間もない頃、ひどい膀胱炎になって腎不全を起こし、入院先の病院で亡くしてしまいました。家族の誰も立ち会えず、病院で死なせてしまったことを本当に後悔しました。サンボが最後に入院する時、いつになく嫌がったのを今でも憶えています・・・・・・。そして、その時思いました。ただかわいいとペットを飼うのではなく、専門的な知識を持って、具合の悪い時にもちゃんと自分で手当てができるようになりたいと。それが再度獣医師を目指そうとした理由です。獣医師になって多くの動物たちを診たいというより、少しでも長く一緒にいられるよう、自分の家族をちゃんと見てあげたいという、一人の飼い主目線でした。

そして会社を辞め麻布大学獣医学部へ。熱心に学んだ分野はありますか?

2年生からの編入だったので大学には5年間通いました。獣医師になるんだという強い思いがあったので、授業はとても面白かったです。ただ、とてもハードでした。科目数も多いですし、最終的に国家試験があるので、いい加減に終わらせるわけにもいかず、かなり大変でした。専門課程は、卒業して獣医師の仕事を始めたら絶対にしないようなことをしようと、動物と接する臨床系ではなく公衆衛生学の研究室を選びました。もともと獣医学部に入る前もまったく関係のないことをやってきた私ですが、その経験がふとした時に役立つ瞬間があるんです。「やっていてよかった」「知っていてよかった」と。どんな経験でも少しずつ積み重ねていけば決して無駄になることはありません。ウイルスを勉強すれば、今後なにか役に立つかもしれないと思ったのです。5年生から卒業するまでは、ほとんどの時間を目白にある公衆衛生院(現・公衆衛生研究センター)でウイルスの研究に費やしました。そして、大学を卒業後は都内の病院で勤務医に。ようやく獣医師としてスタートを切りました。

2007年にはアニマルスペシャリストセンター(以下ASC)で研修を受けられていますね。

ASCは難治性の皮膚病にかかった動物たちのための二次診療病院です。ここでは獣医の皮膚科で有名な永田雅彦先生の指導のもと、皮膚病の診断の基礎を学びました。皮膚病というのは、飼い主の方の目にも明らかで患者数も多く、しかも治療は長期にわたることが多いというのが現状です。しかし、ここで研修するまで、なぜ皮膚に異常が起こっているのか、その根本の原因を探るところまできちんと診断できていなかったことに気づき、愕然としました。普段来院される患者さんのかなり大きなパーセンテージを占めるのが皮膚病であるにも関わらず、「皮膚病は完治しないもの」・・・そういう奢りがあったのだと思います。私自身、小学生以来ひどいアトピーに悩まされてきましたが、今もって完治には至らず、この自身の経験が悪影響を与えていたのかもしれません。しかし、今は皮膚病も完治する時代です。ただ、その場しのぎの対症療法では完治どころか再発は防ぐことすらできません。皮膚病を根治するには、その原因を追求し、たとえ時間がかかっても、根本の原因を除去しなければならないのです。そして、このASCでの得た経験は、今の診療の基礎となっています。

リスクの少ない無麻酔の歯石除去が評判に

こちらではどのような方法で皮膚病の治療にあたっていますか?

まず食事から変えていきます。例えば鶏肉、牛肉、豚肉などのお肉や、米、小麦などでアレルギーを起こす子が多いのですが、その子にとってのアレルゲンを除去した手作り食に変えるだけで、症状はずいぶん改善します。アメリカではその治療法が主流となっていて、実際に除去食によって症状が改善したというデータもあります。ただ、手作り食はどうしても栄養の偏りが出てしまうので、クリニックでは一週間のレシピを考え、栄養指導もしています。この治療はなんといっても飼い主の方の協力が不可欠です。きちんと理解をしていただいて、治療に積極的に参加していただかないと、皮膚病の根治はすごく難しいと言ってもいいでしょう。手作り食は飼い主さんにとって手間もかかり大変ですが、みなさんとても頑張ってくださいます。やはり大切な家族のためですから・・・。その他、ここ数年アトピー性皮膚炎の治療法として非常に注目を集めている「アトレー検査」というのも行っております。日本大学の桑原正人先生が提唱されている方法なのですが、今までのアレルギー検査とは考え方が全く違い、今までに1000頭の犬ちゃんが治験して治癒率99%という驚異の治療法です。アトピー性皮膚炎で悩んでいらっしゃる犬ちゃんなら、一度ためしてみる価値は十分にあると思います。

「水素水浴」という治療メニューがありますが、これも皮膚病治療の一環ですか?

はい。選択肢の一つとして治療に取り入れています。水素は細胞がもとの状態に戻るのを助ける働きをすると言われています。皮膚にダイレクトに水素を当てることで皮膚表面の細胞が水素を吸収し、失われていたバリア機能がもとに戻ると言われています。クリニックではほかにも、ホリスティックカウンセラーやアロマセラピストによるケアも選択肢としてご用意し、飼い主の方が望まれるのであれば治療に取り入れています。今の飼い主の方たちは、大事な犬ちゃん、猫ちゃんになにをしてあげられるのか、どんな治療が合っているのかをすごく考えられていて、東洋医学や代替医療についても、熱心に勉強されています。西洋医学と東洋医学のいい部分を上手に取り入れていくことで治療の効果が上げられると考えています。

アレルギー性皮膚炎のほか、クリニックで力を入れている特色のある治療はありますか?

無麻酔で行う歯石の除去です。麻酔なしで歯石を取ってくれるところはまだ少ないため、この治療を受けたいという方は多いです。歯石を取るために使う超音波スケーラーという器具はキーンという音や、先端から出る勢いのよい水のため、犬ちゃんたちが嫌がって、通常麻酔をかけないと処置が難しいのです。でもその麻酔というのは全身麻酔なので、老齢犬や心臓に持病がある子にはリスクがあります。歯石を取る時間自体はわずか15分くらいなのに、麻酔をかけるために血液検査をしたり、レントゲンやエコーの検査も必要となって、すごく大掛かりになってしまいます。色々なところに負担がかかることを考えると、麻酔をかけた時のように完璧には取れないですが、無麻酔でもかなりきれいになるので、クリニックでは無麻酔で行っています。とくに秘密兵器があるわけではないんです。クリニックには犬を扱うのは非常に上手なベテラン看護師さんがおりまして、彼女の助けを借りながら、嫌がる犬ちゃんには一気に処置せず休み休みゆっくり時間をかけて行います。ですが、歯石を取った後の研磨・フッ素コートまでしっかり行います。歯石というのは、実は様々な病気を起こす原因にもなるので、今後も気軽に定期的に除去できる機会を提供していきたいと思っています。そして、歯石を取った後のご自宅でのケアも大切ですので、クリニックでは無理なく続けられるデンタルケアグッズも豊富に用意しています。

動物の生命力を引き出すのは、獣医師ではなく飼い主の方

クリニックの診療方針をお聞かせください。

今私は、2匹の猫の飼い主です。その子たちを大切に思う1人の飼い主としての気持ちはいつも持ち続けています。ですので、クリニックでは基本的に通院治療をおすすめしています。場合によってはもちろん入院をすすめることもありますが、出来る限り通院して頂くようお願いしています。これは、先ほどもお話したとおり、私自身が大事な家族を病院で死なせてしまい後悔した経験があるということと、勤務医の時にもつらい状況を何度も見てきているからなんです。面会に来られた飼い主の方が帰ろうとした時、状態の悪い動物たちほど胸が締め付けられるような声で鳴くんです。今まで普通に鳴いていたのとは明らかに違う鳴き方で、その声はまるで「今一緒に連れて帰ってくれないと、もう会えないよ!」と言っているよう・・・。敏感な動物たちはきっと自分たちに残されている時間をわかっているのだと思います。今もその時の悲しげな鳴き声や表情が脳裏に焼き付いています。動物たちにそういう思いを絶対にさせたくない・・・、そのためクリニックでは入院をおすすめしていないんです。それに、診療をしていて日々痛感することがあります。それは動物たちの生命力を引き出せるのは飼い主の方だということ。例えば検査の数値上では元気でいること自体奇跡のような状態でも、飼い主の方と一緒にお散歩していたりするんです。でもそういう子を病院で預かって、飼い主の方と離した途端、かくっと力尽きてしまうことがある。なので、飼い主の方の役割はとても大きいんです。飼い主の方がその子の生命力を引き出して、治してあげる・・・。私たちはそれをお手伝いする。それが、クリニックの方針です。

そのために先生が心掛けていることはどんなことでしょう。

私たち獣医師の役割は、飼い主の方に病気や健康に関する必要な情報を提供し、薬や治療法の選択肢を提示することです。なにがその子にとって一番いい方法なのか飼い主の方と一緒に考え、協力しながら治療を行っていきます。ただ選択肢のなかから最終的になにを選ぶか、決めるのは飼い主の方です。クリニックでは検査や診療を無理に強いることはしません。飼い主の方に選択権があるインフォームドチョイスを重視しています。なので、私が心掛けているのは、提示できる情報を日々増やしていくこと。選択肢の多さが獣医師の価値を決めるのかもしれないと、最近感じています。

開業してまだ間もないクリニック。今後どのように育てていきたいですか?

身近なホームドクターとして利用していただきたいです。ペットのことでなにか困ったことがあればいつでも気軽に立ち寄れる場所として、このクリニックを育てていきたいですね。このクリニックの内装やデザイン、シンボルマークの外の植木もですが、実はインテリアやエクステリアの仕事をしている私の主人の手によるものです。コサージュがついたワンちゃんの洋服はベビー服をデザインしている友人の作品。皮膚病の子でも着られるよう細かい工夫がしてあります。アレルギーのある犬ちゃんたちでも食べられるように、原材料にとことんこだわった無添加のお菓子も友人の作品です。色々な方に助けられて誕生したこのクリニックは、まるでこれまでの私の人生の結晶みたいですね。やっぱり人生に無駄な経験はない、たとえ遠回りしても、最終的には全て生きてくる・・・そう思います。今までの様々な経験が色々な形で動物たちに少しでも生かしていける・・・そんなクリニックにしていきたいと考えています。

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