稲葉 健一 院長の独自取材記事
名古屋みなみ動物病院・どうぶつ呼吸器クリニック
(名古屋市南区/桜本町駅)
最終更新日: 2025/01/28
桜本町駅に程近い場所に「名古屋みなみ動物病院・どうぶつ呼吸器クリニック」はある。開業した稲葉健一院長は、動物医療に対して深い情熱を持ち、特に呼吸器疾患の分野において豊富な経験と知識を持つ。「教科書どおりの治療を提供すれば多くの病気は改善が見込めますが、私たちは病気だけを診るのではありません。だからこそ、飼い主さんのお話を丁寧に聞くことを大切にしています」と稲葉院長。「話の中に症状の答えがある」と飼い主とのコミュニケーションに重きを置くその姿勢は、稲葉院長の誠実さを物語っている。飼い主の背景にもしっかりと寄り添った診療を提供するため今も学び続け、より質の高い医療を提供するための努力も惜しまない稲葉院長に、同院のポリシーや専門である呼吸器のことなど、時間が許す限り話を聞いた。(取材日2024年11月7日)
呼吸器疾患で苦しんでいる動物を一匹でも多く救いたい
この地に開業された経緯を教えてください。
一つはやはり地元であることが大きいですね。そして、当院は一般診療と呼吸器の専門的な診療を行っていますが、呼吸器を専門とする動物病院は関東や都内にはいくつか存在しているものの、中部地区にはほとんどないんですね。全国を見渡しても少ない状況です。ですので、需要があり、困っている方がいるという点においても、やはりこの地が良いと思い、開業に至りました。
同院ではどんな動物が多く来院しますか?
当院が対応しているのは犬・猫のみで、割合としては犬が6割、猫が4割というところですね。主訴は呼吸器関連が多いですが、呼吸器に関しては紹介で来院されるケースがほとんどで、愛知県内はもちろん、遠方からも多くの方がお越しくださっています。例えば静岡県、岐阜県、三重県ですとか、京都府、大阪府からお越しくださることもあります。あとは、この地域の方がかかりつけとして一般診療でお越しいただいていますね。診療の件数としては、例えば1日30件あるうちの5件は呼吸器、25件は一般診療という感じです。呼吸器の初診は問診から検査に1時間ほど、結果のご説明に30分から1時間ほどかかり、かなりお時間をいただくので、完全予約制で、基本的に初診は1日につき1件の対応としています。
そもそも、稲葉院長が呼吸器を専門とされたきっかけは何だったのでしょうか?
私は大学卒業後、一般診療の傍ら救急専門の動物病院や夜間救急専門の動物病院にも非常勤として働き研鑽を積んでいましたが、救急症例では呼吸困難な動物を目の当たりにすることが頻繁にありました。しかし助けられないことが多く、歯がゆい思いをしていました。専門にしようと決意したきっかけの中で、特に鮮明に覚えているのが、あるラブラドール・レトリーバーの症例です。その子は来院時呼吸がとても苦しそうでしたが、自分の力ではどうすることもできず、呼吸器専門の動物病院を紹介したんですね。そうして適切な治療につなげることができたのですが、私も助けてあげられるようになりたいと強く思うようになったのです。
飼い主の背景にも寄り添い、最善の治療を一緒に考える
これまでの経験の中で、印象に残っていることはありますか?
私の師匠からいただいた、とても感銘を受けた言葉があります。それは、「一般診療を行う獣医師は動物たちの一生に寄り添う存在であるべきだけども、専門的な診療を行う獣医師は一生に一度だけでいい存在でなければならない」というもの。つまり専門的な診療を行う獣医師は、一期一会をより大切にして、その場でしっかりと治療してあげることが重要だということです。呼吸器は原因がわからないために何度も通院して、それでもわからない、良くならないということが非常に多いので、なおさらこの考えはとても重要だと痛感しています。苦しんでいる動物の症状ときちんと向き合って、今まで蓄積してきた知識や経験をもって尽力するということを、私も貫いていきたいですね。
こちらで大切にしているポリシーは何でしょうか?
飼い主さんに寄り添うこと、これに尽きますね。教科書上の治療を提供すれば多くの病気は改善が見込めますが、それだけを行うのが正解では決してありません。動物は言葉を話せませんから、最後に治療をどうするか決めるのは飼い主さんになります。薬を飲ませる、ご飯をあげるといったことや、最期のケアも含めて、どれだけサポートできるかはその家庭ごとに異なってきます。ですので、例えば金銭的な問題や、お世話できる時間をどれだけ確保できるかなど、可能な限り各家庭の事情に寄り添って、いろいろな選択肢を提示し、かつその中で最善の治療を一緒に考えていくことを大切にしています。一つ一つの症例から知識や経験を増やしていき、またそれを次の症例に還元していく。その意味においては、飼い主さんに教えていただくこともとても多いです。
診療時はどういったことに心がけていますか?
まず飼い主さんのお話を聞くことは何よりも大切にしています。特に呼吸器では経過の長い動物が多いので、その経過をじっくりとお聞きします。飼い主さんがお話しされることには、基本的に間違いはないと思っています。私たち獣医師がぱっと見て何も違わないと思うことでも、飼い主さんが違和感を覚えるということは、きっとそれは正しいんです。そこにちゃんと寄り添うために、私は呼吸器の問診に30分以上は時間をかけて話を聞きます。すると、その話の中に、一つ一つの症状に対しての答えが必ずあるんですよね。その動物がなぜその行動をしたのかといった原因を必ず突き止めて、治療によって改善が期待できるとわかれば、飼い主さんも安心してくださいます。
より質の高い医療を提供するための努力は惜しまない
設備が充実されていますね。
はい。当院の一番の強みは内視鏡です。鼻や喉、気道の中を見るには細い幅のものが必要になることが多いのですが、当院では最も細いもので2.7mmの細径内視鏡など各種取りそろえています。今は犬・猫とも小型な動物がはやっているので、細い内視鏡でないと、特に呼吸器では診断がつかない病気もあります。また、呼吸器に特化したエックス線装置や、血液ガス分析装置など、精密で専門的な機器も配備しています。
呼吸器ではどういった範囲が対応可能なのでしょうか?
呼吸器では、人の場合ですと内科、外科、そして耳鼻咽喉科も含まれると思います。動物の場合、耳は皮膚科の領域になりますので、呼吸器の診療範囲は鼻から肺までになります。私は手術も行いますので、呼吸器に関わることでしたら、内科から外科まで一通り対応可能です。また、呼吸器の病気を抱えた動物を保定しなければならない場合、どうしてあげれば苦痛が少ないか、当院のスタッフは熟知しています。ですので、安心して受診していただけたらと思います。
どういった症状で受診していいか迷う飼い主さんも多いと思いますが、具体的な例があれば教えてください。
例えば、最近飼育頭数が急増しているパグやフレンチ・ブルドッグでは、ブーブーとかズーズーと鳴くのが普通だと思っている飼い主さんは非常に多いんですね。ですが、実は異常なんです。 治療が必要ない場合もありますが、大きな病気が隠れている可能性もあるということを知っていただきたいですね。あとは咳。異常のサインですが、咳かどうかの見分けがつかない場合は、その場面をぜひ動画に撮ってください。撮れなくても、当院にストックしてある症例の動画をお見せしたり、鳴き声を真似てみたりして、一つ一つ症状を照らし合わせていきます。動物は話せませんので、大げさに捉えるくらいでいいと思います。診させていただいて、たとえ何も問題なかったとしても、それがわかれば良いですからね。
最後に今後の目標と、読者にメッセージをお願いします。
苦しんでいる動物を救うというポリシーは、今後も変わることはありません。その上で、設備をさらにクオリティーの高いものにして、今以上に質の高い医療を提供したいです。また、呼吸器を専門とする獣医師はまだ少ないので、私が持っている知識や技術を伝えて、後続の教育をしていきたいですね。呼吸器はスピード感が大事ですので、当院のスタッフ教育もして、全員が高い専門性を持って診療ができる体制を整えて、より早く、より多くの苦しんでいる動物を救いたいです。呼吸器に関わることでしたら、一通りのことは対応できるよう研鑽を積んできています。なかなか改善しないといった症状があれば、当院をぜひ頼ってください。