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斉藤光徳 院長の独自取材記事

サイトウ動物病院

(品川区/新馬場駅)

最終更新日: 2023/01/22

京急線新馬場駅から徒歩1分、「サイトウ動物病院」の扉を開けるとびっくりする。待合室からカウンター越しに、診療室が丸ごと見える超オープンな造りなのだ。「連れてきた子を奥の見えない場所に連れて行かれると、飼い主さんも動物も不安じゃないですか?うちは正直に診療したいから、飼い主さんに全部見てもらえる設計にしたんです。それに小さな病院でスタッフも少人数、私も壁がない方が動きやすいんですよ(笑)」と言うのは、優しい笑顔とひげが似合う斉藤光徳院長。1985年、実家に近いこの場所に動物病院を開業して、ずっと近隣の動物たちの健康を支えてきた。「当院がめざすのは、気軽に受診ができるホームドクター。動物たちの日々の様子を診て、早めに病気を見つけられる相談窓口になりたいんです」。病院にいるマスコット犬“ばう”君は、近くのお寺に捨てられていた犬を預かった。「飼い始めはたいへんでしたが、手のかかる子ほどかわいくて」と、ブログで写真を更新中。第一京浜沿いのビル1階、少し雑然とした、それでいて心休まるオアシスのような診療室で、動物たちを愛する気持ちにあふれる斉藤院長に話を聞いた。 (取材日2012年8月20日)

全部が見える診療室は、正直に診療をするという約束

入口から診療室が全部見える造りで、驚きました。

機器の管理が必要なレントゲン室は奥に別室を設けましたが、それ以外はほぼオープン。採血の様子もお薬をあげるのも、丸見えです。だって自分で面倒見ている子を奥に連れて行かれて、はい終わりましたと戻されるのは、何だか不安でしょう?もちろんきちんと診療してくれたのでしょうが、それなら診療の様子も見えた方が、飼い主さんはもっと安心なはず。だから当院は開業当初からこのスタイルです。入口すぐに小さな待合スペースを設けて、カウンター越しの診療室が丸ごと仕切りなしで見えます。まあ以前は私1人でしたから、こうした壁のない設計が動きやすかったんです(笑)。当院では一頭ごとに声かけて、触って、できる限り安心させてから診療しています。飼い主さんからも診療を見てもらえるので、押さえつけたり、叱ったりして、無理に治療するとすぐわかりますよね。それに無理に診療すると、動物たちは次回は本気で嫌がって絶対に診療させてくれません。診療中、飼い主さんは基本的に診療室に入って様子を見守っていただきます。しかし興奮している子は、少し離れていただくと落ち着く場合もあるので、そんなときは待合スペースのカウンター越しに見てもらうようお願いしています。

全て見えるなら、飼い主の皆さんの不安も減りますね。

ええ、そうあってほしいと思います。それにこうしたオープンな造りだと、飼い主さんとの距離も近くなるんです。飼い主さんが待合スペースで待っている時、先に受診している方と私が「このわんちゃんが、おなかを壊した理由はね……」と話している内容が自然に聞こえてきます。すると「うちも以前そんなことがあったな。気をつけないと」と、日常で気づいてほしいこと、病気のサインなどがわかるかも知れません。また受診時に「そういえば、うちの子はこんなことがあって」とお話しいただくきっかけにもなるでしょう。初めてお見えになった方は、私が診療している様子も丸ごと見えます。「これからこういう感じで治療をするんだな」と、納得してから受診してもらえると思います。

オープンな診療にしようと思われたのはなぜでしょうか?

とにかく正直に話して、全て飼い主さんに見てもらうことが、信頼される診療には必要だと思っているからです。私は自分でわからないことは、わからないと正直に言います。知っているような振りをすると、治療する子にも失礼ですし、結局は自分にもそれが跳ね返ってきますから。飼い主さんとは、命とお金が関わる大事なやりとりをしているのです。動物たちの病気を治すと同時に、飼い主さんに信頼され、納得していただくことも獣医師の務めです。特に開業してからは正直に診療して、信頼していただく大切さを実感していますね。

文系志望から獣医師に。今では約30年続く地域密着の病院

先生は何歳くらいに、獣医師をめざそうと思われましたか?

昔から動物、特に大型犬は好きでしたが、獣医師になろうと思ったのは高校卒業後でした。もともと実家はこの病院の近くなんですが、父親は銀行員で転勤の連続。私も家族と一緒に全国を転々としました。でもそのおかげで、東京や大阪では自然が豊かな場所で暮らせて、動物たちとも一緒に遊べたんです。高校時代はちょうど東京に戻っていて、大学は文系学部を受験して失敗。一浪して同じ学部を卒業しても就職が厳しそうだし、父親のような転勤生活も向かないと思いました。そこで以前から好きだった動物たちと一緒に暮らしたいと考えて、獣医師をめざしたんです。といっても文系から理系に方向転換ですから結局二浪して(笑)、北里大学に入学しました。獣医畜産学部は2年生からキャンパスが青森県十和田市になるのですが、初めて親と離れて独り暮らしをしたので、とても楽しかったですね。

卒業してから、どのような病院での経験をお持ちですか?

当時の獣医畜産学部は、家畜など大動物の診療を主体とした勉強。しかし私は犬や猫など小動物の命を助けたいという考えで、大学の目的とはかなり違っていました。そこで卒業後に大学病院で1年間研修医を務めた後、先輩の紹介で東京の動物病院に就職したんです。そこは都心の住宅街でしたから、犬なら小型犬や中型犬が中心でした。私は地方に住んでいた期間が長く、大型犬を飼っていたので、最初はギャップに戸惑いましたね。また動物たちを治すという医療面の問題に加え、飼い主の皆さんとどう接するか、どう納得していただくかといった人間関係の部分も難しさを感じました。

この場所で開業をお決めになった理由をお聞かせください。

父親のように転勤ばかりの仕事より、もともと自分で開業するつもりでした。都内の病院で経験を積み、そろそろ開業のタイミングだと思って場所を探したんです。ここは実家にも近く、比較的にぎやかで昔からの住宅地もあったので、動物を飼っている方も多いと考えて選びました。高齢の方が動物を診せに来られて、そこからクチコミで紹介が広がるなど、以前は地域の人同士のつながりで受診される方が増えていきましたね。最近はマンションにお住まいで、30、40代くらいの方がお見えになることも多いんです。特にそうした場合には、説明の大切さを実感します。動物はおなかを壊しているようでも、飼い主さんの中には「腫瘍は大丈夫だろう?」と最悪の事態も想定される方も多いのです。ですからご希望に応じてレントゲンを撮り、「この症状からAとBとCのケースが考えられます。ただ一番可能性が高いのはAだと思います」と、いくつか候補を挙げた後で自分の意見を述べるなど、納得していただける説明のやり方を工夫しています。また飼い主さんご自身も、ご自分の思い込みで忘れている事実も多いのです。何度か質問内容や聞き方を変えて尋ねると、「そういえば、この子が吐く数日前に、こんなもの食べさせたかも……」と思い出していただけることもあります。1度の質問では原因がわからないですから、詳しいご説明と合わせて診療の時間はどうしても長くなりがちですね。

休日のツーリングと、マスコット犬“ばう”君に癒やされる

病院前にバイクがありますが、ふだんからご利用ですか?

ええ大学時代からバイクに乗り始めて、ふだんの通勤手段として、休日の趣味として定着しています。大学2年から学ぶ十和田市のキャンパスは、車があると移動に便利な場所。しかし私は二浪していたので、さすがに車を買う余裕はありませんでした。そんなときに友達が古いバイクをくれたので、自分で何とかバイクの免許を取ったんですよ。そして十和田湖や八甲田山にツーリングに行ったら、すごく気持ちよくてハマッたんですね。東京に戻ってすぐ大型免許を取り、今でも休診日の午前中には箱根などに走りに行きます。それと、だいぶ体格が良くなってきたので、ウオーキングとジョギングで体調管理をしています。ただ夕方には飲んでしまうので、体重を減らすより、何とか現状を維持に役立っている感じですね(笑)。

病院には、ブログで人気のマスコット犬もいますね。

あの子は2011年4月に保護しました。当院に近くのお寺の方がよくお見えになるのですが、ある日「境内に犬がいるから捕まえてくれないか」と連絡があったんです。犬は首輪とリードを付けたまま、とても狭いところに逃げ込んでいました。その後は警察に届けましたが誰からも連絡がなく、ちょうど私も犬を亡くして数年たっていたので、“ばう”と名付けて当院で飼うことにしました。しばらくして人には慣れたのですが、ある夜に病院内で放したまま帰宅したら、翌朝は機材が倒されるなど院内はたいへんな状態に。捨てられていたときの寂しさか、独りにすると駄目なところが出てしまうようです。またほかの犬とも仲が良くできないことがあるので、仕事中は放せないですね。前に飼っていた犬たちは、とてもお行儀良くみんなを迎えてくれていたので、てっきり犬はそういうものだと思っていたのですが……。でも手がかかる子ほどかわいいというか、よく“ばう”の写真を撮ってブログに載せています。

ちなみに都会で犬を飼うとき、何か注意点はあるでしょうか?

集合住宅なら7、8、9月は熱中症が一番の問題ですね。犬だけで留守番させる時などは要注意です。高層階などは西日で予想以上に室温が上昇することがありますから。エアコンできちんと室温を管理してください。特に大型犬は寒いところに住んでいた犬種がほとんど。人間の感覚よりも、犬の感覚で考えて、室温を調整してあげた方がいいと思います。

お子さんで、同じ道に進まれた方はいないのでしょうか?

私には娘が3人いますが、長女と三女は別の道を選びました。しかし次女だけ高校に入ってから、私が卒業した大学の獣医学部に行きたいと言い出して驚きました。3人全員、獣医師には興味がないと思っていましたからね。結果的には生き物を扱う学部の中でも、方向が違う水産学部を選びましたが、「そんなふうに私の仕事を考えていたのか」と娘の違う面を見たように感じました。

最後に、読者にメッセージをお願いします。

患者である動物たちに安全、安心な診療をしたいので、飼い主さんとは、じっくり話をしたいです。なので、どんな些細な事でも気になることがあれば相談に来て欲しいですね。インターネットで、様々な情報がありますが、人間と同じように、動物もそれぞれに症状や治療法が違ってきます。病気にならないように、予防のお話もさせていただきますし、ワクチンや薬の服用には、飼い主さんが納得していただけるようにわかりやすくお話できればと思っています。普段、一緒に生活しているのは飼い主さんですし、細かい日常の変化を把握するのは、獣医師にはできません。家族として可愛がられている方がほとんどだと思いますので、私も家族に治療する気持ちで患者さんと向き合っていこうと思っています。

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