小野祐新 院長の独自取材記事
プーアル動物病院
(文京区/本駒込駅)
最終更新日: 2023/01/22
東京メトロ南北線本駒込駅から徒歩6分、東京メトロ千代田線千駄木駅から徒歩8分、都営地下鉄三田線白山駅から徒歩8分。閑静な住宅街に、茶色と緑色をテーマカラーとするあたたかいたたずまいが溶け込む「プーアル動物病院」。落ち着いた雰囲気の院内は清潔に保たれ、薬品やアルコールの匂いが鼻をつくこともない。「動物とたくさん触れ合い、飼い主さんとたくさん話しながら関係を築きたい」と語る小野祐新院長による丁寧でわかりやすい診療が特徴だ。大学で野生動物を研究した経験を生かし、エキゾチックアニマルの診療も行っている。高齢者の多い周辺地域の特性に合わせた診療を心がけているという院長。やわらかい語り口調や動物へのまなざしから窺える温和な人柄が印象的な取材だった。 (取材日2015年3月20日)
動物と触れ合える環境を求めて
獣医師を志したきっかけを教えてください。
私は高知県生まれなのですが、家の近くに畜産牧場があったんです。小さい頃、そこにいるウシやブタと触れ合っていました。その後、小学校3年生の時に家で犬を飼い始めたことや、小学校5年生の時にケガをして入院した病院で、敷地内に居ついていた病気の野良猫を世話したことなどが私の原点です。高校卒業後、酪農学園大学獣医学部に進学して獣医師免許を取得しました。大学では北海道の野生動物に起きる中毒などの研究をして、そちらの道も考えましたが、最終的には臨床医として動物病院での勤務を選びました。
大学卒業後はどのようにキャリアを積まれましたか?
最初に就職した動物病院はとても忙しく、技術や経験は身に付いたのですが、動物や飼い主さんと触れ合うことがほとんどできなかったんです。激務で体を壊しかけたこともあって、私には病院勤務は合わないと感じ、1年ほどで辞めてしまったんです。その後、果たして病院での勤務を続けるのか、それとも研究者の方が良いのかをもう一度よく考える時間を求めて、バックパッカーとして半年ほど、一人で世界中を旅しました。アジアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、中東などを訪れ、その土地の動物との関わり方を知ることもできましたし、飛び込みで研修させてくれたところもあったんです。このような経験によって、英語力が身についたことも、その後の自信につながったと思っています。帰国後、大学院で研究職や、専門学校の講師などをするうちに、もう一度動物病院に勤めたいと思うようになりました。動物と触れ合うのが好きですし、人と話すのも好きなので、臨床の現場に戻りたくなったんです。
プーアル動物病院の開院はどんな経緯だったのですか?
いくつかの動物病院でキャリアを積みながら独立を考えている時に、この場所にあった動物病院が事業承継先を探していることを知り、手を挙げました。前の院長先生が体を悪くされ、後継者をさがしていたのです。何人かの中から私を選んでいただき、半年ほどの引き継ぎ期間を経て、2012年に当院を開院しました。名前もプーアル動物病院と改め、外装・内装など全面的にリニューアルしました。
しっかり触り、しっかり話す
クリニックの特徴はどんなところでしょうか?
この地域は、寺社や大学が多く、緑が豊かでとても住みやすい町です。戦争の空襲で一度も焼けなかった古い町ということもあり、比較的お年寄りが多く、ペットも高齢であることが多いですね。当然、私が引き継ぐ前から通っている方もいらっしゃいます。診療にあたっては、飼い主さんも動物も高齢で、長く通い続ける方が多いため、そんな特徴に合わせた対応を心がけています。開業して3年目を迎えますが、この地域を好きになれたことが、この場所で開院していちばん良かったことかも知れません。私はやはり、動物とたくさん触れ合い、飼い主さんともたくさん話をしたいので、この地域はとても合っていると感じています。
地域性に合わせた診療とは、具体的にはどのようなものですか?
飼い主さんには平易な言葉で簡潔に説明したり、高齢の動物には負担のかかる治療は行わない提案をしたりと、丁寧にケースバイケースの対応をしています。「先生にお任せします」とおっしゃられる飼い主さんが多いので、最低限の説明をしながら、動物の年齢や体調を考えて、その動物や飼い主さんにもっとも相応しい治療を提案します。飼い主さんの経済状況や体調なども考慮して通院ペースを考えるとか、検査も必要以上に多くしないとか。当然、必要であれば検査を行いますが、慢性期の動物には検査を次々と行って、経済的な負担を増やすようなことはなるべく避けたいと考えています。ほかには、必要に応じて往診に伺うことや、ペットを亡くして次を欲しがっている飼い主さんに対して、引き取り手を探している動物を仲介することもあります。ペットに関する相談に乗ったり、じっくりお話を聞いてあげたりすることも多く、利益度外視の部分もありますが、単に治療をして終わりではなくて、地元に根ざして飼い主さんと長く関係を続けられるような獣医師でありたいですね。単に数をこなすことがいいわけではないですから。
得意とする診療について教えてください。
私は腫瘍外科や形成外科といった分野が得意なのですが、術後の傷口を小さく、きれいに目立たなく仕上げることにも気を配っています。また、最近は小型犬を飼う方が増えているのですが、小型犬は避妊手術でさえも麻酔のリスクなどが大きい上に、さらに、小型犬の中でも「超」小型化が進んでいますので、きちんと触って安全な施術することを心がけています。当院では犬、猫以外にも、ハムスター、フェレット、ウサギ、鳥なども外科・内科問わず幅広く診療できます。大学で野生動物の中毒の研究をしていた関係で、エキゾチックアニマルにもある程度対応できることが特徴かもしれません。北海道の野生動物保護センターで研修を受けたことも診療に生きています。ハリネズミやリスなどを連れて遠方から来られる方もいらっしゃいますよ。それから、事業承継前から勤めるベテランのトリマーが在籍しています。トリミングのみの受付は行っていませんが、診療に通っている動物に対してトリミングも行っていますね。
高齢者にこそ、ペットが必要
今後の展望についてはいかがですか?
東洋医学、いわゆる漢方などを診療に取り入れることも考えています。また、皮膚用のサプリメントの開発のため、研究機関に携わっており、犬猫用のサプリメントの製品化にこぎつけることができました。今後はなんとか時間をみつけてこれらの研究の発展や病院での応用に少しずつでも取り掛かりたいですね。これが個人としての目標です。それから、少し視野を広げたお話をしますと、今、社会全体が「高齢者にこそ、ペットが必要だ」という考え方にシフトしているんです。そうした社会に向けて、当院やこの地域がモデルになれればと思いますし、動物病院や東京都獣医師会としても、サポートできる体制を作っていければと思っています。東京都獣医師会の文京支部は獣医同士も仲が良いですし、お互いの休診日に対応をお願いしたり、動物の疾患に合わせてそれを得意とする獣医師を紹介したりすることもあります。仲の良い先生たちと連携して助け合っていることは、患者さんにとっても安心のようで評価を受けています。また、獣医師会の会員病院として、区の防災訓練への参加、飼い主のいない猫の避妊・去勢手術などのボランティアに参加をしており、動物を飼っていない区民の方々のお役にも立てるよう活動しています。
病院全体の落ち着いた雰囲気が印象的ですが、プーアルという名前の由来は?
学生時代、台湾を旅行していた際、大地震に遭遇しました。乗っていた電車が止まってしまったのですが、たまたま乗り合わせた台湾人のお宅に数日泊めていただいて助かりました。今でも交流があるその方が、プーアル茶の農家だったんです。「プーアル」という言葉の響きもやわらかいですし、プーアル茶の癒やしのイメージを病院に取り入れたいと思って、プーアル動物病院と名付けました。当院のイメージカラーも緑や茶色も、そんなイメージで決めました。外観や内装をこの2色で統一しているんですよ。こじんまりしたスペースですが、リラックスして診療を受けていただけると思います。
旅行のお話が出ましたが、最後にご趣味について教えてください。
台湾旅行や、バックパッカーのお話もしたように、旅行が好きなんです。写真も好きなので、カメラを持って、さまざまな国や地域に出かけた際は、街並みや動物たちを撮影していますね。最近は診療もありますので、海外までは中々行く時間は取れませんが、国内旅行などには出かけたいですね。あとは、学会などに合わせて少しでも旅行気分が味わえれば、というところです。ほかには、水泳も趣味ですね。水泳サークルに所属して週2回ほど練習しています。水泳は体力作りにもってこいで、手術のある前日にもしっかり泳いでいます。動物病院の仕事は、深夜や時間外対応もありますから、日ごろの体調管理には気を配っていますね。