久保 純 院長の独自取材記事
あしあと動物病院
(豊島区/雑司が谷駅)
最終更新日: 2023/01/22

雑司が谷駅から歩くこと2分。住宅街の一角に佇む「あしあと動物病院」。大きなガラス窓から覗く院内は、明るく清潔感に溢れており、入りやすい雰囲気。一歩足を踏み入れ、ゆったりとした座り心地のよいソファに腰を掛けると、どこからともなく優しい音楽が聞こえてくる。実に居心地のいい空間だ。「ペットはもちろん、飼い主さんにとっても居心地のよいクリニックを目ざしています」と語るのは、久保純院長。こちらが発するどんな言葉にも、しっかりと耳を傾けてくれる。その間、口元の笑みも絶やすことはない。実に聞き上手なドクターなのだ。「飼い主さんの状況はさまざまなので、治療するうえでの正解は一つではありません。いろいろな提案ができるドクターでありたい」と語る久保院長に、医院のことや治療のことなどについてたっぷりとお話を伺った。 (取材日2014年4月10日)
「来たときよりも元気になって帰ってほしい」、そんな願いを込めて
たっぷりと日が差し込む明るい院内ですね。

ありがとうございます。当院は2007年に開院したのですが、設計するうえで一番心がけたのは、「ペットと飼い主さんにとって居心地の良い空間であること」です。以前、体調を崩して病院に行ったときに、そこの待合室が実に殺風景で、置かれていたパイプ椅子は固くて座りにくかったのです。体調が悪く辛いときでしたので、待ち時間がたいへんに苦痛でした。だからこそ、当院に来てくれる方には、少しでもリラックスしていただきたいと思ったのです。開放感が得られるよう外観には、ガラス窓を用いていますが、同時にプライバシーも配慮されるよう診察室内は曇りガラスを用いて光だけが入るようにしています。また、診察室の天井は中に居ても少しでも開放感を感じて欲しいと、空模様にしました。
ご来院された方の過ごしやすさと快適性に配慮されているのですね。
そうですね。例えば待合室のソファにも心配りをしています。ご自宅のリビングにあるような軟らかくて座りやすいもので、かつ立ち上がるときに膝に負担が少ない高さのものにしています。また受付カウンターもあえて一部低いところを作りました。飼い主さんがお薬やフードを受け取る際に、受け取りやすい高さにするためです。どれも細かいことですが、こういう配慮は診療や治療でも重要だと考えています。
「あしあと動物病院」の名前の由来を教えてください。

以前、急な容体の変化のために運ばれてきて、集中的な治療を必要とした犬がいました。必死の治療および看護のかいあって、その犬は元気を取り戻し、飼い主さんと一緒に退院して行ったのですが、見送ったあと院内にはその犬の足あとがたくさん残されていました。きっと、大好きな飼い主と帰れることに興奮して、足の裏にたくさん汗をかいたのでしょうね。足あとというのは、どこからか来てどこかへ去っていくものです。当院に来てくれたペットには、来たときよりも元気になって去っていってほしい、そんな思いが込められています。
飼い主の状況に合わせて最適な治療方法を提案したい
こちらでは、どのような診療を行っていますか。

当院の対象動物は、犬、猫、うさぎ、ハムスター、モルモット、フェレット等です。犬と猫が中心で、犬と猫の割合は同じくらいでしょうか。対象となる疾患は幅広く、下痢や嘔吐といった日常の疾患から、皮膚科や眼科といった部位の疾患、癌や末期腎不全など重症疾患まで、ほぼすべてが診療対象となります。街の総合診療病院を目指しています。診療の際に心がけていることは、とにかく飼い主さんの話を聞くこと。ペットたちは自分から病院に行くこともできないし、薬を飲むこともできません。飼い主さんのお世話にかかっているんですよね。例えば投薬一つにしても、昼間働いている人であれば毎食後に薬を与えることは難しいですし、ペットによっては錠剤より粉薬の方が与えやすいということもあります。徹底した治療を望む方もいれば、そもそも積極的な治療は求めない方もいます。飼い主さんの環境や考え方によって、さらにはペットの性格や性質によっても、治療というのは大きく変わってくるのです。
一方的に治療の提案をするのではなく、飼い主のご意志を随分と尊重されているように聞こえますね。
そうですね。飼い主さんが納得するまでお付き合いするのが当院のモットーです。例えばこんなことがありました。重症の猫ちゃん2匹を同時期に治療していたのですが、片方の飼い主さんは徹底した治療を望まれ、必要な検査をしっかりと行い、治療にも出来る限りの最善を尽くしました。そのため想像以上に長い間、猫ちゃんと飼い主さんが共に暮らす時間を作ってあげることが出来ました。もう片方の飼い主さんは他院で既に治療や検査を散々して良くならならず、猫ちゃんが度重なる治療や検査により疲弊してしまった経過もあり、積極的なことは希望されませんでした。なので飼い主さんの気持ちを最優先とし、負担のある検査や治療はあえて行わず、その猫ちゃんの苦痛の少なくすることのみに全力を尽くしました。どちらの猫ちゃんも寿命が来て亡くなったのですが、両方の飼い主さんが後日感謝のお手紙を下さったのです。二つの症例で全く正反対の方針で治療することになったのですが、ああこれでよかったんだと実感しました。
どのようなことに気を付けてコミュニケーションを取っていますか。

飼い主さんの言葉を遮らない、否定しない、ということです。たとえ医学的に間違っていたとしても、そこには飼い主さんなりの信念があることもあります。ですから頭ごなしに否定するのではなく、そこは受け入れた上で「今の医学的にはこういう方法もありますよ」と最先端の情報をご提供し、飼い主さんが考え方の幅を広げられるようご説明を行うようにしています。飼い主さんによって環境はさまざまなので、バックグラウンドが分からないと最適な提案ができませんから。また、休みの日には勉強会やセミナーに参加し、より質の高い獣医療を提供できるよう研鑽しています。こちらから一方的に治療方法を指示するのではなく、飼い主さん、ペットと一緒に3者で方向性を探っていくような診療を心がけています。
「楽しむために」ペットと一緒にいることを忘れないでほしい
獣医師を目ざしたきっかけを教えてください。

子どものころから生き物が好きで、「命」の神秘性に興味を持っていました。それで、東京大学に入学し遺伝子の研究を行いました。生命科学の最先端の研究はとても充実していて楽しかったのですが、研究でマウスやモルモットと触れ合ううちに、動物たちを癒す獣医師という職業につよい関心を抱くようになりました。大学4年生で卒業論文も完成し、大学院への進学も決まっていたのですが、獣医学専修の3年次に転籍することにしたのです。周りはたいへん驚き、中には引き止める人もいたのですが、当時の自分はまるで当然のように進路変更を行ったんですよね。今思えば、かなり思い切った選択だったと思うのですが、やっぱり自分が心から望むことをやることに迷いは無かったです。
この場所で開業した理由はなんですか。
生まれ育った地域に根付いて診療を行いたいと思ったからですね。私は、豊島区目白の生まれで、あしあと動物病院のあるこの場所は、幼い頃から良く遊び慣れ親しんだところです。街を歩けば、同級生や幼馴染、知り合いの方々と顔を合わせます。このあたりは、昔ながらの住宅街ですが、大学が多いので学生も多く活気のある街です。最近では、マンションがいくつか建ち、新しく住み始める人も増えました。昔はもう少し庶民的な感じだった気もするのですが、最近は「高級住宅街」と言われることもあるようです(笑)。とはいえ、もともとが落ち着いた住宅街なので、自分が子供のころの風景と比べてみて、あまり変わっている気はしませんね。
読者の方にメッセージをお願いします。

あなたが、ペットを飼っている理由は何ですか? いろいろあると思いますが、その一つに「ペットと楽しい生活を過ごしたい」という気持ちがきっとあると思います。ペットが病気になれば心配や不安になるのは当然のことです。また最近はいろいろな情報が増えてきていますから、いわゆる「育児ノイローゼ」のようになり、ペットのちょっとしたことにも悩まれてしまう方もいらっしゃいます。でもそんなときこそ、最初の気持ちを思い出してほしいと思います。ペットと楽しい時間を過ごすために、ペットと出会ったはずです。そのために、当院を最大限活用してほしいと思っています。私は、飼い主さんのどんな思いも否定しませんし、その考え方に沿うより良い方法を一緒に考えたいと思っています。気軽な気持ちで相談に来ていただけたら嬉しいですね。