常安健介 院長の独自取材記事
しらさぎ動物病院
(中野区/鷺ノ宮駅)
最終更新日: 2023/01/22
西武新宿線鷺ノ宮駅南口から徒歩7分。通りから入った長閑な住宅街の一角に「しらさぎ動物病院」はある。場所柄、地域密着型の病院という印象を受けるが近隣はもとより、遠方からかかりつけにする飼い主も多い。診療対象は犬と猫。健康診断や一般内科・外科、トリミング、ペットホテルと幅広く提供しており、スタッフの応対も明るくアットホームなので安心して来院することができる。また、飼い主がペットの健康状態を自宅で容易に把握できる「ナレッジ・サファリ・システム」という診療システムの導入や、猫の里親募集を目的とした猫カフェの運営も行っており、特色にあふれる動物病院でもある。院長を務めるのは常安健介先生。診療技術はさることながら、「やさしい動物病院」をコンセプトにしていると語るようにペットや飼い主がリラックスできるような柔和な人柄で、まさに頼れるホームドクターであると感じた。クリニックの歩み、特色について、獣医師となったきっかけなどを常安院長に聞いた。 (取材日2013年12月17日)
猫カフェも運営する街の動物病院
とてもアットホームな雰囲気を感じる動物病院ですね。
ありがとうございます。 「やさしい動物病院」というコンセプトを持ち2003年に開業しました。“やさしい”というのは、ペットや飼い主さん、双方が安心して通えるということです。初めて動物病院に来院するペットは見たこともない場所に連れて来られるわけですし、飼い主さんも不安を抱えているものですから、診療以前に、少しでも落ち着いていただけるような空間づくりに取り組んでいます。そして、雰囲気だけではなく、私含めスタッフ全員も、安心感を感じていただけるコミュニケーションや応対を心がけています。また、やはりストレスや緊張感なく来院できる体制を整えるのも動物病院の大切な役割だと思っています。
開院して10周年が経ちましたが、これまでの取り組みとご感想をお聞かせください。
特に歳月を意識したことはありませんが、振り返ればあっという間だったというのが感想でしょうか。ペットと飼い主さんの生活が一層豊かになるお手伝いができればと考えながら日々の診療にあたり、一頭一頭の患者さんの治療にベストを尽くせるように勉強と研究を深めてきました。このような積み重ねで現在に至りますが、この周辺は住宅地ですし、開院当初は不安もありました。でも、徐々に口コミで来院していただけるようになり嬉しく感じています。また当院の取り組みとして、2013年5月3日に「しらさぎカフェ」という猫カフェを当院の裏手にオープンさせました。このカフェは猫好きな方や飼い主さんのコミュニケーションの場という面もありますが、従来の猫カフェとは異なり、猫の里親を募集する場にもなっています。世の中には野良猫はじめ捨て猫が数多くいますが、日本では年間数十万頭、センターに連れて行かれ殺処分されています。少しでもこのような悲しい現状を食い止める保護活動ができないかと以前から考えており、その結果がしらさぎカフェというわけです。ただ、残念ながら殺処分を控えているすべての猫を引き取ることは困難ですので、交流があるボランティア団体と連携して茨城県のセンターから猫たちを引き取る体制をとっています。
猫カフェが保護活動の一翼を担っているわけですね。
ヨーロッパ諸国では人とペットの関係が上手くいっている国が多く、特に先進国として挙げられるドイツでは、殺処分は行われていません。また、飼育放棄も極めて少ないんですね。犬や猫が捨てられてしまう原因として飼い主さんとのミスマッチがあります。その一因として、ペットショップでの衝動買いが挙げられますが、ペット先進国だと保護されているセンターから引き取ったり、子犬や子猫を購入するにしてもブリーダーに依頼して産まれるまで待つのが基本です。つまり、ペットを迎え入れる前にワンクッションあるので、飼育放棄につながりにくいんです。また、日本では子犬や子猫だけに注目がいく風潮がありますが、そういった偏りもなく成犬や成猫でも良い関係を築けることを海外の飼い主さんは知っています。しらさぎカフェの方でも成猫を中心にしていますから、このような情報の発信源となればとも思っています。
“治療よりも予防”。ペットが病気にかからないための診療システムを導入
どのようなペットが来院していますか?
犬・猫の診療を専門にしています。割合としては6対4位だと思いますが、他院に比べて来院する猫が多いように感じています。猫の症状としては皮膚炎や膀胱炎、おなかをこわしたなどが中心ですが、糖尿病など難症を患っている子が来ることも少なくありません。歳を重ねれば人間と同じように生活習慣病やガンなどのリスクを持ちやすくなりますが、近年は、生活や食環境がよくなり猫も長寿化していますので、特に糖尿病は気をつけておきたい疾患のひとつです。治療方法も人間とまったく同じで、血糖値を測り、合併症を引き起こさないように留意し適正な量のインスリンを投与します。糖尿病の場合、猫は食べ物を受けつけなくなってしまうこともあるので、高齢となれば早期発見・治療のために定期的な検査は必須だと思います。
診療などでの特色を教えてください。
まず、診療では、健康診断からワクチンやフィラリア予防、歯石除去、一般内科・外科までを行っています。元々、私は外科に携わっていましたので、手術治療を行うことも多いですね。その他ではトリマーのスタッフも在籍していますのでトリミング、また、ペットホテルも行っています。このように疾患以外の部分でも幅広くサポートできる体制が整えた動物病院というのを特色にしていますが、当院の大きな特色としては、「ナレッジ・サファリ・システム」という診療システムを導入していることが挙げられると思います。
「ナレッジ・サファリ・システム」とは、どのような診療システムなのですか?
簡単に言えば、飼い主さんがご自身のペットの健康状態や疾患の状況を獣医師やスタッフと共有できるシステムです。「ヘルスマップ」と「レポート」という画像とテキスト入りの資料を配布していて、飼い主さんがはご自宅で容易にペットの状態を確認できます。ヘルスマップは、例えばフィラリアなどのワクチン接種の時期やノミ・ダニを防ぐお薬の情報などが記載されているいわば予防に特化したもの。そして、レポートは、どこの器官が悪いのかなど、私が診断した全身12項目の内容が反映されたものです。この2種類の資料が、飼い主さんのペットに対する健康意識を高め、病気予防につながります。結構、喜んでくださる方は多いですね。トリミングの画像も掲載しているのですが、ビフォア・アフターが一目で分かると、結構、喜んでくださる方は多いんです(笑)。
ペットと人との豊かな暮らしのためにも、動物病院を利用してもらいたい
獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
元々、生き物が好きで、学校でも生物の授業は特に興味がありました。高校2年生になり、そろそろ進路を決める時期になって、自分の将来をいろいろと思い巡らしていたのですが、当時、「動物のお医者さん」という漫画がブームになっていて、獣医師という選択肢を持ちました。また、たまたまなのですが、動物園の園長を務めていた森友忠生という方が執筆した「動物園へ行こう」というエッセイ集との出会いがあり感銘を受け、自分の中で次第に獣医師という職業の存在が大きくなっていったんですね。それで、獣医師をめざそうと決心したというわけです。大学は麻布大学獣医学科へ進みました。結構、私は昔から本をよく読むのですが、特に「動物園へ行こう」は印象に残っていて、入学当初は動物園で大型動物を診る獣医師になりたいと考えていました。そこから、動物病院の獣医師に進んだのはある犬との出会いからです。実は、今では自宅や当院でもたくさんの犬や猫に囲まれていますが、大学に入るまでは飼ったことはありませんでした。獣医師をめざすのにそれではと感じて、在学中にペットショップで犬を購入したんです。とても、可愛らしい柴犬でした。しかし、一緒の生活がスタートして間もなく、病気で亡くなってしまったんです。ケンネルコフでしたが、当時はその疾患や治療方法も分からず、助けられなかった自分を非常に悔やみました。ペットを飼う方々の気持ちを実感して、街の動物病院の獣医師になりたいと思いました。その後、大学3年生の時に第一外科を専攻して手術治療や研究の研鑽を積み、卒業後は藤井動物病院に6年間勤務し開業したというわけです。第一外科で担当していただいた泌尿器科の名医である渡辺俊文先生は恩師であり、そして藤井動物病院の2代目院長である藤井康一先生は師匠です。私の診療技術や姿勢は、お2人から学んだものです。また、藤井先生は日本にナレッジ・サファリ・システムをアメリカから導入した第一人者でもあります。
休日はどんなリフレッシュをして過ごしていますか?
家族とゆっくりと過ごしたり、食事などに外出することが多いですね。仕事柄、まとまった休日をとることが難しいですから、そのような何気ない時間を大切にしています。あと、最近は運動不足の解消も兼ねて剣道を始めました。大学時代の部活も剣道でしたし、小、中、高校とずっと剣道部だったので剣道歴は長いんです。今は勤務医時代の先輩と二人で週に1度、道場に通っています。
最後にペットと暮らすドクターズファイルの読者にメッセージをお願いします。
1番お伝えしたいのは、ペットを飼うことを負担に感じるようになってもらいたくないということです。そのためにはどうすべきかと言えば、やはり購入以前に、共に暮らすという自覚と覚悟を持つことが必要なのだと感じます。それぞれの方にご自身の生活スタイルがあるように、ペットもそれぞれ適した生活環境が異なります。まず、“可愛い”と購入する前に、しっかりとペットのことについて知識を蓄えてから迎え入れてください。もし、分からないことがあれば、最寄りの動物病院にぜひ相談してみてください。獣医師は治療だけではなく動物のプロなのですから、適したアドバイスをご提供できると思います。