中西 章男 院長の独自取材記事
阿佐谷ペットクリニック
(杉並区/阿佐ケ谷駅)
最終更新日: 2024/05/07
阿佐ケ谷駅近くの「阿佐谷ペットクリニック」は、1987年に中西章男院長が開業した動物病院だ。口を聞けない動物に代わって飼い主から症状を詳しく聞き、どのように診断し治療していくのかの過程を丁寧に説明した上で、いくつかの選択肢から治療方法を選択してもらうという診療方針は開業以来、変わることがなく、また同院に勤務する若い獣医師に引き継がれている。診療面では、精密な診断で適切な治療に結びつける総合診療をめざす。「車イスに乗ったチロ」という老齢犬を取り上げた著書もあるなど、高齢動物の診療にも詳しく、動物への負担の少なさを重視し鍼灸も実施しているという。多くの飼い主から信頼される中西院長に、診療の特徴や動物医療への思いなどを詳しく聞いた。(取材日2023年10月20日)
多様な症状や悩みに対応。総合的な診療を行う動物病院
まず、開業までの経緯を教えてください。
1981年に日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)を卒業後、同大学院に進み、フィラリア症や動物の免疫学を研究する傍ら、付属病院の外科に勤務していました。外科では、フィラリア症にかかった犬の心臓から住み着いた寄生虫を取り出す手術などをしていましたね。大学院卒業後、約1年間開業医の先生のもとで勉強し、1987年に当院を開院しました。以来、常にかかりつけ医として地域の動物や飼い主さんをサポートしたいという思いで診療に携わってきました。診ているのは、猫や犬、うさぎ、ハムスター、ラット、マウスなどです。
どのような症状の動物が多いのでしょうか。
一般的な皮膚病や消化器系の病気が多いですが、最近は、動物も高齢化が進んでいることもあって、高齢の動物の診療が増えています。私も家で高齢犬の介護をしているので、その経験も踏まえて飼い主さんと一緒にケアしていくことを心がけています。また、夏は暑さで体調を崩した子や、熱中症のような症状の子が多かったですね。室内でエアコンをかけていても具合が悪くなることがあるのです。飼い主さんの多くは阿佐谷に住む方ですが、遠方から来られる方も少なくありません。しっかり飼われているなと感じる方が多く、動物を大切にされる方々が当院を頼って来てくださっているようです。
診療面ではどのような特徴がありますか。
当院は総合的な医療をめざしており、何科にかかっていいのかわからない、何が起こっているのかわからないというケースを適切に診断することを心がけています。人間の医療と同様に、動物医療も専門が分かれてきていますので、当院でできる治療は当院で、より専門的な医療が必要な場合は他の施設と連携しながら、より適切な医療を提供したいと考えています。飼い主さんには、動物に何が起こっているかをしっかり知っていただき、それに対してどのような治療が考えられるのか、情報を十分に提供した上で治療方針・方法を選んでいただきたい、私たちも一緒に考えたいと思っています。
鍼灸や漢方も取り入れているそうですね。
そうです。私は以前、獣医東洋医学会(現・日本伝統獣医学会)で2年かけて鍼灸学の基礎を学びましたし、鍼灸や漢方に詳しい獣医師も在籍しています。鍼灸は動物が緊張して体がこわばるとうまくできないので、レーザーで温めながら優しく声をかけ、痛みや怖さではなく、気持ちの良い印象が残るように心がけています。
5人の獣医師が情報を共有し連携しながら、診療を行う
診療する上で、どのようなことを心がけていますか。
飼い主さんが何に困っているか、何が病状として気になっているかをしっかりお聞きして、そこから考えられる病気や、そうであればどんな検査や治療が必要になるか、筋道を立てて、飼い主さんが今後を考えられるような説明を心がけています。わかりやすい資料も用意しています。また、カルテには気がついたことをすべて記入して記録写真も貼り、治療する動物に何が起きたかをしっかり把握しています。歩き方がおかしいとか、発作が起きるというような症状は、飼い主さんに動画を撮ってもらって診断に役立てています。また当院の獣医師は、飼い主さんによく説明して理解していただくことなど私のポリシーに賛同し、実践できる先生たちです。
院長を含め、5人の獣医師が在籍されているのですね。
そうなんです。ですから、午前午後の1日2回、ミーティングを行い、症例や治療を確認し合い、全員でディスカッションします。複数の専門家がチェックすることで、ミスを未然に防いだり、考えが足りないところをできる限りなくしたりすることもできますからね。このミーティングで、担当外の症例を疑似体験できるメリットもあります。また、質の高い医療を提供するために、獣医師やスタッフの働く環境にも配慮しています。以前は、夜中の診療や緊急手術も受け入れていましたが、今は完全予約制として、夜間などは専門施設との連携体制を整えています。
副院長の大谷彰平先生についてもご紹介くださいますか。
大谷先生は、東京農工大学獣医学部出身で、当院に約15年勤務してくれています。動物にも飼い主さんにもとても優しく接することのできる先生で、私も全幅の信頼を置いています。動物の総合診療についても専門的に学ばれているので心強いですね。また最近は外科手術の半分以上を担当してもらっています。少し難しい症例で、飼い主さんが専門施設での治療までは望まないという場合、大谷先生が手術を担当するというケースが増えていますね。
ところで、院長はずっと犬を飼われてきたとか。
中学時代に飼っていたクーという名前の雑種犬との出会いが、獣医師をめざすきっかけになったと思います。クーは14年間、私と多くの時間を一緒に過ごし、たくさんのことを教えてくれました。今も私の診療の根底には、ク―との生活があります。当院のシンボルマークの白い犬は、クーがモデルなんですよ。その後もずっと犬とともに暮らし、今は保護犬だったトイプードルを2匹飼っています。
医療の提供を通して動物と飼い主の豊かな毎日を支える
専門的な立場から、気になることなどはありますか。
最近は免疫、アレルギーに関係する病気が目立ちます。病気が増えているというより、医療の進歩から精密な検査や診断ができるようになり発見されるようになった面もあります。治療に有用な薬も開発され、コントロールが図れるようになってきています。それから、腫瘍の抗がん剤治療の症例数が増えてきたことで、飼い主さんへの治療の提案もしやすくなりましたね。ペットロスのご相談も多いですが、多頭飼いも一つの解決方法だと思います。犬の場合、若い子がくると、先住犬もライバル意識が芽生えて元気になることがあるようです。気をつけたいのは、常に先住犬を優先して、序列を逆転させないこと。新しい子をかわいがりすぎると先住犬がかわいそうですからね。
今後の展望について聞かせてください。
診療分野を広げるというより、今の総合的な診療を極めていきたいですね。当院では対応できないから紹介するというのではなく、どんな手術が必要かというところまではきちんと診断して、適切な治療ができる施設を紹介する。診断がつきにくい病気についても、例えば皮膚に病変が出ていても内分泌が原因であるケースもありますから、飼い主さんに納得してもらいながら検査を行い診断を進めて、当院の限界を越えるようだったら、専門施設に紹介する。そういう筋道を考えています。そして、獣医師やスタッフにも、それぞれ専門性を持って成長してほしいと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
身近で動物に接しているのは飼い主さんですから、どんなに些細なことでも構いませんので、飼い主さんが感じられた違和感や状況をできるだけ正確に獣医師に伝えてください。また、痛い治療はしないでほしいなど、飼い主さんが動物にどうしてあげたいかを遠慮せずに伝えてください。そうすることで、私たちの持っている選択肢の中から、動物にとっても、飼い主さんにとっても、より良い治療方法が提案できると思います。ペットは生活を豊かにしてくれますし、子どもも動物と一緒に育つと、他人に対する思いやりや洞察力が育まれます。動物と過ごす日々はかけがえのないものですから、これからも飼い主さんと動物が豊かに暮らしていくためのお手伝いをしていきたいと思います。