進 哲朗 院長の独自取材記事
しん・どうぶつびょういん
(杉並区/高井戸駅)
最終更新日: 2023/01/22
高井戸駅から徒歩10分。環状八号線沿いにある「しん・どうぶつびょういん」は、地域に根差した診療を続ける「町の獣医師さん」だ。院長を務める進哲朗先生は大らかな雰囲気を持つ獣医師で、どんな患者からの相談にも気兼ねなく対応してくれる。その人柄を慕って、散歩がてらやお土産片手に遊びに来る患者も絶えないのだとか。何事ものんびりと、飼い主にも動物にも「楽なのが一番」とする院長の言葉は、氾濫する情報や世話に疲れ気味の飼い主にホッと安心感を与えてくれることだろう。今回のインタビューでは、院長の人柄はもちろん、動物と人との関わり方について獣医師ならではの意見を聞くことができた。 (取材日2017年1月17日)
のんびりとできることが強み
先生が獣医師をめざしたのは、どのようなことがきっかけでしたか?
私の父は転勤族だったので、小さい頃は動物が飼えなかったんです。でも、叔父が獣医師をしていたので、動物と触れ合う機会はあったんですよ。泊まり込みで動物の世話をしたり遊んだりしに行っているうちに、そんなに好きなら獣医師になっては? と勧められたことが獣医をめざすようになった最初のきっかけです。少し大きくなった頃には、この杉並区に落ち着いていたこともあり、インコや犬を飼ったり、行き倒れの猫の面倒を見たりもしていましたし、もともと動物が好きだったんでしょうね。
診察の際に心がけていらっしゃることは?
よく話を聞くこと。それが一番ですね。お話し好きな方ならどんどん話してくださいますが、あまり話すのが得意でない方は、こちらからいろいろとうかがいながら、必要な部分をお話ししていただけるようにしています。まぁ、動物は自分から話してはくれませんので、それがどの程度足りているのかは自分ではわかりませんが、相談や体重を測りにくるだけの時もあれば、何もないのにお土産を持って遊びに来てくれる方もいらっしゃったり。気軽に立ち寄れる場所であるように心がけてはいます。のんびりできることが当院の強みだと思っていますから(笑)。
「町の獣医師さん」として、人が集まる場になっているんですね。
どうでもいい話を1時間くらいしていることもありますよ。ゆっくりと診るタイプなので、初診だと2、3時間かかることもありますね。特に、初めて動物を飼われる方だと、ご飯のあげ方や暮らし方などをひと通り説明しますから、それだけで1時間はかかってしまうんです。よく来てくださる方はその辺をわかっていてくださるので、タイミングを計って来てくださったり、先にお電話で「今大丈夫?」と聞いてくださったりしますね。ついつい長いお話の合間には余計な話も入ってしまうんですが、そういう世間話も決して無駄ではないと考えていまして。飼い主さんの人となりをそこから理解できると、治療の提案などをするときによりベターな選択ができますし、飼い主さんも私に対してお話しやすくなるでしょう? 何かあったときのためのコミュニケーションのひとつとして、普段からお話しておくことも必要だと思っています。
長く付き合うのだから「一緒にいる時間」を大切に
飼い主に対して、何か生活指導をされたりはしますか?
私自身、あれをしなさい、これをしなさい、というのがあまり好きではないんです。お世話の大切なところは、いかに楽をするか、ということ。3日だけ一生懸命お世話しろ、と言われればそれは頑張ることができますが、動物の一生は犬や猫で15年ほど。その間、毎日のお世話をしていくことを考えると、いかに飼い主さんに負担が少ないように飼い続けていけるかが大切ですよね。私たちの仕事は動物の病気を診ることだけではなく、飼い主さんがいかに動物と充実した暮らしを送るためのサポートができるか、というところに尽きると思うんです。ご飯なんかも、今食べているもので健康だったら変える必要はないと考えていますし。どうしても心配でしたらデータを見て、必要があれば変えればいいと思っています。
なかには、いろいろとしてあげたくなる飼い主さんも多いのでは?
よく飼い主さんには「余計なことをするから病気になる」とお話しているのですが、動物にとっては生活習慣の変化がストレスになることもあります。それよりは、毎日同じ人が同じ時間にご飯をくれて、同じ時間に散歩に連れて行ってくれて、ほどほどに遊べて、飼い主さんと変わらぬ日々を過ごせることが幸せなんですよね。何かをあげることに情熱を傾けるよりは、動物と一緒に過ごす時間を大事にしてほしいと思います。そのために、動物病院をうまく利用していただきたい。例えば、「旅行に一緒に行くのだが、この子を連れて行っていいか?」といった相談でもいいんです。相談をいただければ、こちらは「動物とより良い時間を過ごす」ためにアドバイスをいたしますので。そういう関係性で飼い主さんと動物と関わりたいですね。
長く過ごすためには、どのようなことを意識すればよろしいですか?
ですから、健康診断もデータを取っておいて損することはありませんし、その子の正常値を知っておくことは何かあったときに役立つので、7、8歳頃になったらそろそろ、とお話することがありますが、それだけがすべてではありませんから闇雲に受けろ、とは言いません。当院では、ワンちゃんであれば春先にフィラリアの予防接種などもあるので、そのタイミングでご飯抜いて来てくださいね、と案内をしておいてそのまま採血をしたり。猫ちゃんだと、誕生日や予防注射に合わせて「いかがですか?」と聞いてみたり。ご飯を抜いてください、と指示をする以上は、何かのついでに来ていただく方が飼い主さんにとっては楽ですよね。朝ごはんを抜くのがどうしてもかわいそうで、という飼い主さんなら、では朝食以降の食事を抜いて夕方に来ますか?とご案内することもあります。普段と変わらない暮らしの中でタイミングを作ることで、負担を少なくできるようにしています。
動物との「楽しい時間」に目を向けてほしい
先生のご趣味を教えてください。
田舎に亡くなった祖母の土地がそのまま残っていまして、せっかくなので野菜を育てに通っています。車で40分くらいなので、近いんですよ。そこで、鳥のさえずりを聞きながらのんびりすると、リフレッシュできますね。これまで植物はまったく興味がなかったので、育て方や種類を調べたりして、毎年試行錯誤するのも楽しみのひとつです。娘もまだ小さいので、友達を誘って一緒に連れて行くことも多いんですよ。近くに遊べる川があったり、季節によってはいちご狩りやタケノコ掘りができたりと、都内ではなかなか難しい土に直接触れる機会がたくさんあるので、良い経験になっているようです。そこからアマガエルのオタマジャクシを連れて帰って来て、娘の幼稚園に持って行かせたら、大人気でしたよ。
今後はこの病院をどのような病院にしていきたいですか?
ひとりでのんびり診察しているのが性に合っているので、人や設備を増やして大きく発展させようとは考えていません。ですが、通ってくださる方々にはできる限りのことをしてあげたいな、と思っています。そこで必要があれば新しい設備を導入することもあるかもしれません。必要以上に背伸びすることなく、「ありがとう」と言っていただける診療を続けていきたいですし、そうやって信頼関係を築いて何かあったときに気兼ねなく連れて来てもらえる病院でありたいと思っています。
それでは最後に、読者にメッセージをお願いします。
最近は動物を飼う人も減り、生き物に触れる機会が少なくなっています。しかし、人間よりも短い寿命の生き死にに立ち会う経験は、自分の心を豊かにしてくれるものだと思うので、大切にしていただきたいですね。動物を飼うと、どうしても最期を看取らなくてはいけない悲しさをイメージしてしまうこともあります。ですが、悲しいことばかりに目を向けず、今経験する楽しい時間にも目を向けてほしい。私が以前勤めていた病院に、猫を亡くした年配の女性がいらっしゃいました。その方に「残念でした」とお伝えすると、ニコニコして「亡くなるまでの短い間よりも、もっと長い時間楽しませてもらって、とてもいい思いをした」とおっしゃったんです。それがとても印象に残っていまして、動物を亡くすことは悲しいけれども、飼って楽しかったな、よかったな、とたくさんの人に思ってもらいたくて獣医の仕事を続けています。ぜひ、動物との時間を大切にしてください。