東山 哲 院長の独自取材記事
ひがしやま動物病院
(杉並区/代田橋駅)
最終更新日: 2023/01/22
京王線代田橋駅より徒歩10分の住宅街にある「ひがしやま動物病院」。白い外壁に温かみのある黄色と落ち着きのある濃紺のコントラストが心地よく出迎えてくれる。「動物たち、そして飼い主さんに、少しでも明るい気持ちになって欲しくて、このビタミンカラーを選びました。」と、東山哲院長は言う。犬用・猫用の診察室や猫専用の診察時間をはじめ、動物病院を怖がることが多い猫に対する特別な配慮がみられる。また、飼い主のいない猫の保護活動にも積極的に協力しており、実際に動物病院の近くで弱っていた野良猫を助けて飼っている。「つくし」と名付けられたその老猫は、今ではすっかりクリニックのアイドルになっているという。病院嫌いにならないためには、「病気になる前に、定期的な健康チェックにいらしてください。診療に慣れているとストレスも最小限にできますし、飼い主さんに最新の情報を提供することが予防にもなるんです。」とのこと。セカンドオピニオンや今後の展望についてなど、たっぷりとお話しいただいた。 (取材日2013年11月27日)
日本で有数の、猫の診療にも配慮したクリニック
獣医師をめざしたきっかけと、開院までの経緯について教えてください。
小学校入学前から共に過ごしてきた柴犬が心臓病に罹りまして、私が中学生の頃に死んでしまったんです。その当時は今のように良い薬がなくて、治療が難しいということで……。「僕が治る薬を作ってあげたい」と子ども心に思ったことが、獣医師をめざしたきっかけですね。その薬は、私が大学に入る頃にはにできあがっていたのですが、その時の想いが続いていて、研究室は内科に入室しました。卒業後、兵庫県西宮市の動物病院で3年間、その後東京都国立市の動物病院で3年間、勤務医として経験を積み、この地域での開院に至りました。
猫にもやさしい“キャットフレンドリー”なクリニックだそうですね。
猫が幸せであるためには健康であることが絶対条件です。怖がりな性格のために予防注射も健康診断も受けさせてもらえない、病気になっても数日様子を見て重症になってから来院するというケースが犬よりも猫に多く見られます。獣医療を気軽に受けられないのでは犬よりも猫のほうが不幸だと言わざるをえません。11歳を過ぎてシニア期になればライフステージや健康状態にあわせた食事指導や手厚いケアが必要になってきます。愛猫の健康を守るために、飼い主さんと協力して来院時の猫のストレスを最小限にしたいと考えています。ストレス状況下では、心拍数、血圧、赤血球数、ヘマトクリット値、血糖値、コルチゾール、尿pH、ときにはクレアチニン値も変化してしまい、正確な評価ができなくなってしまいます。猫のストレスを知るということは非常に重要で、10歳未満の猫の膀胱炎の原因のほとんどはストレスなどが原因の特発性だと言われています。私の所属する国際猫医学会(International Society of Feline Medicine)でも、「猫の一生がずっと幸せであるように」という願いのもと、猫にやさしい、キャットフレンドリークリニックや猫にやさしい通院の仕方などのガイドラインを作成しています。現在、日本でこの学会に入っている獣医師は少ないのですが、こういった猫のストレスに対する配慮や、猫医療に関する新しい知識を国内の病院にも広めて、ストレスのかからない通院方法で、そして多くの動物病院で猫にやさしい診療が受けられるようになれば、日本の猫にとって有益なことであると思っています。当院でどのような工夫をしているのか、猫感染症研究会で私が監修した動画がYouTubeで見ることができます。猫は小さな犬ではありませんので、犬の診療の延長ではなく、猫ならではの診療の仕方や独特の体のつくりや代謝の違いからくる疾患や中毒があります。毎年海外の学会に参加していますが、新しく正確な知識を常に取り入れていくことも、猫にやさしい診療のためには大切なことです。
診療していて、何かお考えになることがおありですか?
いろんな品種の犬や猫が来院しますが、日本ではコマーシャルや何かのきっかけで、ある特定の品種が流行するということがありますよね。そうなると他人と少し違う個体を望み、珍しい毛質や毛色、特別に矮小な個体が喜ばれたりするために、子犬、子猫の健康のことを考えずにどんどん繁殖するブリーダーがでてきます。本人がブリーダーのつもりがなくても、無知な飼い主さんが、子供が欲しくて気軽に交配して遺伝病をつくってしまうこともあります。遺伝病の多くは幼少期をすぎてから、中高齢になって発症するものが多いので、増やしている人たちに罪の意識がないのが問題です。例えば、現在日本ではスコティッシュフォールドという耳の垂れた猫が可愛くて一番人気なのですが、この品種は軟骨異常からくる重度の関節炎のリスクが高く、発症するとまともに歩けず、若いうちからほふく前進の生活になる猫もいます。立ち耳同士を交配したり、アメリカンショートヘアーをかけ合わせたりしても、この病気は消えませんでした。立ち耳のスコティッシュでも発症している例があります。イギリスではこの品種の交配は虐待にあたるとして禁止しています。私も猫好きのすることではないと考えています。犬でも遺伝病は非常に多く、進行性網膜委縮から将来失明するリスクのある品種が多いです。遺伝病は基本的に治るものではありませんので、知らずに飼って哀しい思いをされる飼い主さんをお見かけすることは、私も辛いです。これからペットをお探しの皆さんには、こういったことをよくお調べになってから飼われることをおすすめします。交配を考えている方には遺伝子検査を受けてから安心して交配をしてほしいと思います。遺伝子検査は口腔粘膜で検査ができますので、動物のストレスも少ないです。また、どうしてもほしい種類がおありの方は、ペットショップではなく、ブリーダーを直接訪ねることをおすすめします。どれだけ大切にされているかを知ってから飼われると良いと思います。
かかりつけ医と連携した“セカンドオピニオン”を奨励
院長は、セカンドオピニオンを奨励されているとお聞きしました。
セカンドオピニオンとは、いわゆる転院とは違い、かかりつけ医以外の医師に今までの治療法や薬についての意見を聞いたり、専門分野において一時的に診療をしてもらったりすることです。飼い主さんの中には、今の治療法や薬のままでいいのかどうか悩んでいる方も多いと思います。しかし、正しい医療情報を伴わずに飼い主さんの判断でこっそり転院されることは、ペットにとってリスクや負担が大きいんです。大体がかかりつけのクリニックより遠出しなければなりませんし、詳しいデータがなければ薬の用量や効果、副作用もわからず、またアレルギー検査や病理診断などの検査についても一からやり直さなければなりません。また、知り合いの勧めた病院やインターネットで見つけた病院がサービスは良いが医療の質が低い所である可能性もあります。転院先の獣医師にしても、今までやってきた治療や経過を正しく聞くことで、状態がよくわかって診療しやすいのです。ちゃんとかかりつけの病院をもつことは重要で、良好なコミュニケーションをとれていれば、その分野に明るい紹介先をいくつか提案できたり、紹介元で継続治療を受けられたりするメリットもあります。かかりつけのクリニックだけでなく、ご家族や複数の病院の医師たちとも情報を共有しながらペットの健康を守っていければと考えています。セカンドオピニオンが浸透していってほしいと思います。
上手に申し出るにはどうしたら良いでしょうか?
先ほどもお話しましたが、かかりつけ医と普段から良好なコミュニケーションをとっていることが大事です。セカンドオピニオンという言葉をしらない医療従事者はいませんから、折につけ、自分はセカンドオピニオンについて積極的に考えている旨を伝えておくと良いと思います。ご紹介を受ける側としては、一通りの経過や画像のデータ、血液検査結果は最低限ほしいですね。経過の細かいことについては、直接かかりつけ医に電話でお聞きしたりします。あるクリニックに通っていた猫ちゃんの下痢が1年以上続いているということで、お知り合いの方を通じて当院を訪ねていらっしゃいました。診療の際、検査データをお持ちいただいたのですが、外国の方であったため、経過の詳細が不明でしたが、細かい内容についてはかかりつけ医に電話でお聞きしたのでよくわかり、結果ご満足いただける治療ができました。このように、獣医師同士の連携がとれると非常に助かります。長年お世話になったかかりつけ医に申し訳ないと思う方もいらっしゃるとい思いますが、我々獣医師は物言わぬ動物たちのために協力することも使命だと思っていますので、あまり気になさらなくて良いと思います。より良い医療を求めるなら、かかりつけ医を信頼して申し出てください。そのためには、獣医師の方からも話しやすい雰囲気を作っていなければならないと思っています。
獣医師同士の連携も大切なんですね。
そうですね。たとえば獣医師会や学会、研究会などのつながりというのも、重要だと思います。獣医師たちがお互いに情報交換をしたり、それぞれの獣医師の人柄や得意分野を知ることで、いざというときにお任せすることもできます。当クリニックは超音波診断と内視鏡を使った内科疾患の診断と治療、高周波電気メスによるソフト凝固を使った肝臓胆嚢などの軟部組織手術に強みがありますが、白内障手術や特殊な整形外科手術などはその分野が得意なクリニックへ紹介をしています。そのクリニックの獣医師から、犬の目の手術をする前に心臓のチェックをしてほしいなど依頼されることもあります。紹介や問い合わせから親しくさせていただいている先生もいます。他のクリニックの医師と情報交換をしていると思うのですが、医療が進歩してくると、すべての動物を広く浅く診察することがはたして飼い主さんの望むことなのか、難しくなりますね。当院は犬と猫の専門医として診療をして、ハムスターや鳥など専門外の動物はそちらに詳しい先生をご紹介しています。
地域住民のために始めたクリニックを、今後も発展させていきたい
お忙しい中、どのようにリフレッシュされていますか?
基本的に起きている間は病院のことを考えてしまいますね。そのような中でも、家族と一緒にいる時間はとても良いリフレッシュになっています。4歳の息子がいるのですが、自転車やサッカーの練習に付き合っています。息子はゴールキーパーに憧れているので、走ったり、蹴ったりは私の方ばかりですが。彼は動物も大好きで、将来は「パパみたいに動物のお医者さんになりたい」と言ってくれています。基本的にクリニックは年中無休で、夜も通常8時まで診察をしているので、なかなか一緒に過ごす時間が足りないのですが、空いた時間はなるべく家族と過ごすようにしています。また、ときには自分自身のための時間も大切だと思っています。現在は駅前留学で、週に1回、英会話を1対1で勉強しています。スターバックスでやることが多くて、初めは恥ずかしさもありましたが、最近は何ともありません。日本から馴染みのないない国の話や、外国人から見た日本文化の不思議なところや良さなど、英語を学びながら日本のことも学んでいます。
診療の際、心がけていることはどんなことでしょうか?
検査の話をした後に「はい、終わりです」という感じではなく、「何か気になることはありますか?」など聞くように心がけています。こういうところを聞きたいのだろうなぁと思われること……例えば、治療費や完治までの期間、手術の成功率、生存率などについても、こちらから話すようにしています。また、病院にいらっしゃった方がご家族に報告しやすいように、病名や治療法などを紙に書いて渡したりしています。その他、難しい専門用語をそのまま使わずに、飼い主さんにわかりやすい言葉でお話しするよう心がけています。ご年配の方、主婦の方、お仕事をされている方、お医者さん、外国人の方など、その方に合わせた説明をするようにしています。英語以外の外国語を話す方には、イラストを描いて説明することもあります。
今後の展望について、教えてください。
この地域の方々のために始めたクリニックですので、ペットの診療についてはもちろん、雨宿りやひと休み、防犯やお手洗いなどでも地域のお役にたてればうれしいです。商店街のお祭りや小学校のふれあい教室などを通じてのご近所の皆さんとのつながりも大切にしていきたいですね。当クリニックが必要とされている限り、続けていくことが大事だと思っています。また、猫にもやさしい、キャットフレンドリークリニックというのを、今後も発信していきたいと思います。猫の疾患、猫のストレス、猫の行動をもっとわかっていただきたいというのもあり、そのためのテクニックや知識などの面で、書籍を出したり、セミナーをしていく予定です。そして、今後より伝えていきたいのは、セカンドオピニオンのことですね。もっと飼い主さんとかかりつけ医のコミュニケーションがスムーズにできるよう、なるべく多くの獣医師同士が情報交換と連携をして地域の動物を守れるよう、これからも奨励していきたいと思っています。