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澤田 稔院長、澤田聡子副院長の独自取材記事
みんなの木動物病院
(調布市/成城学園前駅)
最終更新日: 2023/01/22
成城学園前駅から、美しく区画された緑豊かな住宅街を調布方面へ歩くこと13分、成城郵便局の近くに「みんなの木動物病院」がある。クリニックの入口にシンボリックに描かれた大樹が、動物たちに「ここでひと休みしていって」と促しているかのようだ。澤田稔院長と妻の澤田聡子副院長が開院したのは2011年5月。折しも東日本大震災が3月に起こり、材木もペンキも数が届かない中、なんとか建て上げ診察室だけで開院したという。生きることへの慈しみや、この地で根を張って暮らしていく覚悟がうかがえる。澤田稔院長は「この動物病院に行けば話をたくさん聞いてくれる」と、頼ってもらえる医院を目指す。それぞれの専門分野を中心に、これから必要となっていく動物介護ケアまで詳しく話を伺った。 (取材日2015年3月9日)
白衣を着ないのは、リラックスした雰囲気の中で多くの話を引き出すため
澤田稔院長・澤田聡子副院長は、お二人とも白衣を着ていらっしゃいませんね。
【澤田院長】はい。白衣恐怖症(白衣高血圧症)という言葉をご存知ですか? これは精神病のひとつで、人間は白衣を見ると緊張や恐怖から血圧や脈拍が上がってしまうという症状です。もしご家族が白衣を見てストレスを感じたら、それはワンちゃんや猫ちゃんにもダイレクトに伝わってしまいます。ご家族の心の変化が動物に与える影響が大きいことから、白衣を着ないようにしています。 【聡子副院長】それにリラックスした雰囲気の方がご家族から出てくる言葉が多いです。世間話を多くすると、ご家庭の状況がより理解できて、その話の中に治療のヒントをみつけることができます。白衣を着なくても清潔な衣類を身につけていれば良いと考えています。
息がピッタリのご夫妻ですが、獣医師としての得意分野も同じですか?
【澤田院長】いいえ、異なります。私は脳・神経系疾患と内分泌代謝系疾患が得意です。わかりやすい病名では、てんかん、脳炎、脊髄炎、椎間板ヘルニア、また副腎や甲状腺ホルモンの産生が低下したり亢進したりする病気や糖尿病などです。私は普段から動物の体型や様子をよく見るようにしています。例えば、ワンちゃんの体重が増えている。おや? と思い、ご飯の量やおやつの量を尋ねると増やしていないという。しかも散歩の時間も距離も変わっていないらしい。では、なぜ体重が増えているのか? もしかしたらホルモンに異常があるかもしれない、となるわけです。ホルモンの病気は見ただけではわかることが少ないので、ご家族の話をよく聞き、少しの変化も見落とさないようにしています。そこからこの検査をしよう、この方向性ではどうだろう、と治療を考えます。 【聡子副院長】私は循環器疾患と腫瘍が得意です。循環器疾患は主に心臓の病気で、心臓の弁がうまく機能しない僧坊弁閉鎖不全症などがあります。腫瘍の場合は放射線療法、抗がん剤、切除手術、緩和治療などの手立てはありますが、犬の年齢やご家族の家族環境、考え方を尊重し、まずは話をよく伺います。その上で、放射線をあてて1クールの治療ならこのくらいの費用がかかり、このくらいの期間通院することになるとご説明します。より高度な手術を望まれるなら大学病院を紹介し、退院後は当院でこのようなケアができる、といった提案をします。治療方法を総合的に組み立てるのが仕事です。
なるほど。それで診察室がふたつあるのですね。
【澤田院長】診察室は、各自のイメージに合わせました。私はエコーや目の検査をするので、真っ暗にすることができる部屋。また、動物にとって外が見えることが良い場合と、そうでない場合があります。そのため、窓は小さめに設定いたしました。ゆっくりお話を伺う時は、待合室や多目的室を使うこともあります 【聡子副院長】私の診察室は待合室から覗ける大きな窓があります。動物が病んでいる時はご家族もすごく不安になられます。窓があれば解放感や安心感を得られやすくなると思うからです。
動物とその家族の気持ちになり、個々の治療プランを組み立てる
「みんなの木動物病院」の診療動物を教えてください。
【澤田院長】主に犬と猫ですが、ウサギ、フェレット、ハムスターも診療します。初めてみる珍しい犬もいます。そんな時は図鑑をひろげ「これですね」と尋ねると「そうそう、うちのはアメリカ系ではなくイギリス系なんですよ」と話も弾みます。治療の面においても、私たちだけで手に負えない時は、ありのままの情報を伝えるようにしています。その上で、いろいろな提案をさせていただき、一緒に考えサポートさせていただくのが当院の特徴です。もし専門性の高い二次診療施設での検査・治療を望まれる方には信頼をおける先生方へ紹介しています。その際に、紹介して終わりではなく、綿密に連絡を取り合い手術や検査の時には私が助手に入ったりすることもあります。そうすることで、情報をきちんと伝えることもできますし、ご家族にとっても動物にとっても、普段通っている先生が付いているので安心なのではないでしょうか。 【聡子副院長】私も知らないことは正直にお伝えするようにしています。治療においては、私たちの専門分野を望んで、他の動物病院から紹介されて来ることもあるんですよ。
ところで、ペットの世界も寿命が延び、高齢化が始まっているようですが……。
【澤田院長】その通りで、人口は減っても人間も動物も寿命は延びています。ケアが必要なご家族が、ケアを必要とする動物と暮らすケースが多くなっているのは確かです。そこで当院では動物にとってのデイケアを行っています。 【聡子副院長】ご家族にとって、してあげたいことがあるのにできない状況はつらいですよね。またご自身の用事があるでしょう。そこで当院では、ある程度の時間、動物をお預かりできるようにしています。看護師にトリミングもできるスタッフがいるので、体を洗ってあげたり、毛をカットしたり、歯磨きしたりすれば、ご家族はとても楽になれると思います。 【澤田院長】また老犬になると、下の世話のトラブルが増えます。人間なら介護パットを薦められますが、動物はその子、その子で体の特徴が違うので、相談しながらよりよい床ずれケアを考えます。悩みやケアは一人で抱え込まず、誰かに相談すれば解決できることが多いのです。
終末期医療の取り組みも行っているのですね。
【聡子副院長】はい。生あるものは年を取りいつかは終わりを迎えます。納得のいく最後を迎えるためには、求めるものは人それぞれですのでよく話し合う必要があります。 【澤田院長】ですから、治療案も緩和ケアも数多く提案をします。動物の性格や年齢、ご家族の精神面・経済面も考慮して。私たちは動物とそのご家族の思いに沿って、個々にプランを立てていく、そういう医療を実践していきたい。Aを選んだらこのようになる、Bを選んだらこうなる、その中間の治療を選ぶこともできる、とたくさんの選択肢を提示し、ご家族がフレキシブルに選べる、それが理想形だと思っています。
カフェに行く気分で、気軽に立ち寄れる動物病院
待合室も診察室も居心地の良い空間ですね。
【聡子副院長】ありがとうございます。そこはこだわりました。例えば待合室に座っていると、外観から見た時、木の下に座っているように設計されています。多目的室もまるみを持たせた壁にしてやわらかさを演出しています。院全体のイメージはカフェや美容院です。実際に有名カフェへ行き写真を撮り、設計士さんに見せました。動物病院にありがちな白色が嫌だったからです。 【澤田院長】だから壁は淡い黄色、床はテラコッタタイルの落ち着いただいだい色。まさにカフェ風です(笑)。また当院では、ポスターを貼っていません。病気の説明や予防接種を促すものがあると、女性の方は嫌悪感を抱きますし、字がワーッと壁一面にあると落ち着かなくなりますよね。開院当初、何屋さんかわからず、「散歩友達に動物病院と聞いたので、来てみたら本当だったわ」という声をいただいたこともあるんですよ。
先生方の思いのこもった医院なんですね。
【澤田院長】そうかもしれませんね。しかしリラックスできる場がキーワードでしたから、いずれ受け入れていただけると思っていました。思い返せば、開院はとても厳しい時期でした。というのも工事着工が2011年3月10日。翌日に東日本大震災が起きたので資材も届かないし、人も動けない。何とか工事が始まってもペンキもないから壁は白でいいねといわれ、いやいや困ります、お願いします、と頼み込んで現場のお兄さんに色を作ってもらったりして。開院の日になっても工事は終わりませんでしたが、なんとか診察室だけは確保してくださったので、開くことができました。 【聡子副院長】開院を遅らせることに意味がないと思い、今できることをやろうと踏み切りました。
成城・調布というこの地を選ばれたのはなぜですか?
【澤田院長】私が愛知県出身で、聡子先生は福島県出身。東京は真ん中に位置しますし、私たちが学んだ大学が近くにあることも大きいです。また緑が多い町であることも魅力でした。ここに開院したのは、子育てが大きな理由です。今、5歳と2歳の女の子がいますが、ふたりが勤務医をしていると共通の休みがなかなかとれず、どんどん子どもの成長がわからなくなりました。それなら気に入った場所に根をはやし、どっしり構えようと。今は父親として育児に参加できる毎日に変わりました。私たちは、この町の皆さんから力を借りて、子どもとともに成長できたらと思います。
最後に読者にメッセージをお願い致します。
【澤田院長】この動物病院へ行けば話を聞いてくれるよ、力になってくれるよ、と町の皆さんに頼ってもらえることをめざしています。また、予防にも力を入れています。予防というと、早期発見や感染症を防ぐことと思われがちですが、日常のケアを大切にして病気にならないための予防が大切だと思っています。最近は、散歩のついでに寄ってくれる方もいらっしゃいます。ちょっとカフェに寄る感覚で相談ごとがなくてもお顔を見せに来てください。