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佐伯 良重 院長の独自取材記事
佐伯獣医科病院
(練馬区/保谷駅)
最終更新日: 2023/01/22
西武池袋線保谷駅より徒歩10分のところにある佐伯良重院長の務める「佐伯獣医科病院」は、1982年の開業以来、この地に根付いて診療を行っている。2015年1月に改装した院内でまず目に飛び込んでくるのは開放的な診察スペース。アットホームな雰囲気を残したいという佐伯院長の思いが反映されている他、診療の様子をうかがえる造りは、患者へ信頼感を与える。さまざまな医療機器を用いた技術提供に加え、佐伯院長の明るく親しみやすい人柄も、長く地域の住民に愛されている秘訣だろう。獣医師として、自身にはたいへんストイックでありながら、患者の痛みのわかる、女性らしい温かみや優しさを併せ持つ佐伯院長に、たっぷりと語ってもらった。 (取材日2016年7月29日)
女性獣医師ならではのアットホームな空間の広がる院内
待合室から診察室がオープンに見える造りは珍しいですね。
診察室を個室にしているクリニックは多いですが、当院では、待合室からの導線を診察室、検査室、手術室、入院室、と続くオープンなスペースにしています。どんな治療をしているか見えるのが安心とオーナーさまに喜んでいただいていましたので、そのようなアットホームな空間を残したいと思い一昨年の拡張リニューアル改装工事でもそれをそのまま残しました。ただ残念ながら診察室で愛するペットの命が長くないことをオーナーさまへ伝えなければならないことももちろんあります。そんな話も次に待っている待合室のオーナーさまの耳に届く訳ですから、プライバシーがないのかもしれません。けれどそれを聞いていた待合室のオーナーさまが、戻ってきたオーナーさまと一緒に涙して慰めてくれるのです。そういったオーナーさま同士の心温まる触れ合いがあるのが当院のいいところであり、そうした昔ながらの温かみを残した病院です。
他にこだわっていらっしゃることはありますか?
動物は話ができません。また痛みを我慢する生き物です。そんな動物の症状を速やかに的確に把握するためには、診察や検査でさまざまなデータを得る必要があります。ですが、動物たちは人間と違って体が小さいので、病状が悪化するまではあっという間。もしそれが重篤だった場合には特に、毎回大きい病院に紹介している余裕はありませんから、町の動物病院としてできるかぎりその場で対応をしたいと思っています。また、検査も方法によっては彼らの小さな体に負担をかけてしまうため、獣医師として当然そこにも配慮しなくてはならないですよね。当院ではワンちゃんや猫ちゃんたちの体のことはもちろん、オーナーさまにもできるだけ時間や手間といった負担をかけずにすむようにと考え、獣医療機械の導入にもこだわっております。
さまざまな機器をそろえていらっしゃいますね。
CBC・生化学・血液凝固検査機器、急性相蛋白濃度測定装置などを備えているほか、デジタルエックス線検査機器や超音波診断装置を導入しています。手術室にはベンチレータ付き吸入麻酔機器、麻酔モニターはもちろん、電気メス、超音波メスなど医療機械を導入しておりますし、入院室には、ICU設備も。歯科ユニット機械も備えているんです。臨床獣医師は職人さんと同じで、いい道具がないとその技術も生かせないと考えています。獣医療機器も人間用のようにさまざまなものがありますので、体の小さな動物たちにできる限り負担をかけず適切な対応をするためにはどうするべきか考え、医療機械の導入に対する投資は惜しまず積極的にやってきました。それが私にとって小さな命を私に託してくれる患者さんたちへの恩返しでもあるからです。これらについて少しでも飼い主さんにも伝えていきたいと考え、当院のホームページでも情報を掲載しています。
診療において大切なことはコミュニケーション
どのような症状での来院が多いですか?
最近はペットも高齢化してきましたから、心臓疾患・腫瘍疾患の割合が増えてきました。私たち町医者に必要とされているのは、迅速に無駄や無理のない診断技術を駆使して、病気で来院した子がその時点でどういう状況にあるのかを正しく判断し、現在の獣医療でできる、科学的根拠に基づいた正しい治療法の選択を正確にオーナーさまにお伝えするということです。獣医は、人の総合診療医と同じで、内科も外科も、時には産科婦人科、泌尿器科、そして眼科や歯科にまで、そして、その患者さんが高度医療を望むのであれば、その子にとって一番適切な専門医の先生に辿り着かせてあげることまで、マルチな知識を求められています。毎日の診療において、自信を持って自分の診断を行っていくためには、日々知識のアップデートをして、勉強を続けていかなくてはなりません。
診療で大切にされていることはありますか?
まずはオーナーさまの意向をしっかり聞くことに努めています。オーナーさま全員が高度医療を望まれるわけではありません。ホームドクターの私のもとで、命を全うさせてあげたいと言ってくださる方には、オーナーさまの立場に立って考えて、いくつか提示する選択肢の中で病状に一番適した方法で、「無理をさせないように今からできることを最大限やっていこう」とお話をします。
飼い主とのコミュニケーションに気を付けておられるのですね。
かわいい子の病状の悪さを知って、よくご自分を責めるオーナーさまもいらっしゃいますが、与えられる限りの愛を与えることが一番ですよとお伝えします。コンパニオンアニマルとして、家族の一員として強い絆で結ばれるペットたちは、私たち人間よりはるかに短い寿命ですから、どうしても、悲しいお別れの場面に、私たち獣医師は幾度となく立ち会うことになります。そんな時でもオーナーさまのお心を考え、そして旅立つ子たちに最後にしてあげられる最善を尽くしてあげたいと思っています。 そして残されるオーナーさまの痛みを分かち合える、温かいホームドクターであることが、私らしさであり、私のやり方であると思い、獣医師としての最後の幕引きまでそれを貫きたいと思います。
飼い主に還元する思いを忘れず、今後も診療を続けたい
獣医師の仕事をどのように捉えていますか?
獣医師はペットの病気という苦しみと痛みの裏側に立つ、生死に関わる仕事ですから、この仕事を楽しいと言える獣医師がいるとしたら、私には正直それが理解できなくて。あの時こうすれば……という後悔と懺悔の思いは、自分がいくつになっても、それは自分が死ぬまでつきまとうと思います。ですから当院で私に最期まで診てほしい、と言ってくださるオーナーさまとその命を託してくれるかわいい子たちのために、「自分のできる最高の治療を施してあげられるよう勉強しよう!」と、獣医人生にも悔いの残らぬよう、知識も設備も一流でありたいという思いでここまで頑張ってきました。「佐伯先生はどの勉強会にもいますね」と若い先生たちに笑われるぐらい、東京では勉強フェチなおばさんで知られていますよ(笑)。獣医学の進歩は日進月歩で、日々情報がアップデートされていきます。頑張ってついていこうと思ってます。
獣医師の仕事ですが、すごく向いていたのでは?
私はこの仕事が自分に合っているなんて、少しも思わずにこの年に至っているのですが、最近周りの獣医さんたちに「佐伯先生って、天職だね」と言っていただくことが多く、小動物の臨床獣医師に向いていたのかなあと思うようになりました。長い経験を積んでどんな症例が来てもきちんと自信を持ってオーナーさまに「安心してください、大丈夫ですよ。」と答えてあげられるようになりました。35年近くやっていると、うちに来てくれていたお子さんが成長し結婚して、子どもが生まれて、そのお子さんが今は高校生や社会人になっています。親子二世代で慕って来てくださるオーナーさまを見ると、ここで開業医として長くやってきて本当に良かったなと思います。
今後の展望をお聞かせください。
これからも獣医師としてのスキルアップを続けていくことで、自分が積み重ねてきた経験と知識を私を信頼してくださるオーナーさまと私に命を預けてくれる子たちのために、日々の診療の場で還元していくのだという思いを忘れずに診療を続けたいです。それ以外に何もありません! いずれにせよ、医療機器だって、知識だって、持って死ねるものではないんですから(笑)。病院を閉める、最後の日まで獣医師としてできる限り最新の獣医療について学んで、それを還元していくのだという姿勢を貫いていけたらと思っております。