米澤 覚 院長の独自取材記事
アトム動物病院 動物呼吸器病センター
(板橋区/東武練馬駅)
最終更新日: 2023/01/22
東武練馬駅から徒歩5分、「アトム動物病院 動物呼吸器病センター」の米澤覚院長は、「あんなに小さい体の中に私たちと同じ重さの命を持つ」と優しい言葉で動物への愛情を表現する。小さい頃から犬を飼っていた院長にとって「犬はずっといる存在」で、院長が獣医師になった理由も「動物が好きだから」とストレート。そんな大好きな動物を病から救ってあげたいと、「難病」とされていた気管虚脱の手術法を独自の方法で確立させ、今では治る確率も高い病気にした。このほか、喉頭麻痺への新しい手術方法の開発など、創意工夫は今も続く。その原動力は「何とかしてあげたい」との熱い想いにあると分析する。明るく大らかな米澤院長に、得意とする手術のことなどをたっぷりと聞いた。(取材日2016年4月21日)
気管虚脱の手術を確立させる、呼吸器疾患の治療が得意
患者層を教えてください。
犬と猫がそれぞれ半数くらいですね。呼吸器疾患は猫よりも犬の割合が多い傾向があり、特に気管虚脱では手術を受けるために日本全国、そして海外からも患者さんがいらっしゃいます。自家用車で熊本と練馬を往復した患者さんもいらっしゃいましたね。すべての子がそうですが飼い主さんの想いを受けて、治してしてあげたいという気持ちでいっぱいになります。専門病院ではないので呼吸器以外の病気にも広く対応しており、予防接種や健康診断から、皮膚科・循環器などの内科全般や軟部外科、整形外科など一般的な診察治療も行っています。特殊なものは大学や専門医へ積極的に紹介しますが、個人的には外科が好きなので大体はやります。
呼吸器を専門としたきっかけは何でしたか?
息も出来きずに苦しがっている子を、なんとか出来ないのかという思いからですね。それまでも治療法は紹介されていましたが、とても満足いくものではなく、難治性疾患の一つでした。しかし、ある学会で新しい治療法の発表を聞き、これはと思い挑戦しました。非常にすばらしい方法だったのですが、もっといいものを改良を加えました。完成までに10年かかりましたね。その時に発表していた先生からは、「気管虚脱は米澤先生に託します」との言葉をいただきました。現在までに540症例の手術に取り組み、成功率は95%以上、術後は最長15年という成績を誇ります。「気管虚脱は治る病気」と言えるようになりました。
院長が獣医師になってから30年が経つそうですが、呼吸器疾患は増えてきたのですか?
呼吸器疾患が増えたというより、飼い主さんの意識が向上したのではないでしょうか。昔は、犬や猫が咳やくしゃみ、いびきをしても「病気ではない」と考える人が多かったのですが、今はちゃんと動物病院に来る人が増えました。実際に、くしゃみは鼻炎が原因かもしれないし、いびきは短頭種気道症候群というパグなどに多い病気を秘めている可能性があります。ヨークシャーテリアやポメラニアンなどの咳は、気管虚脱などの呼吸器疾患かもしれません。「咳をするのは心臓の病気」とイメージをお持ちの方が多いですが、決してそうではない。だから、早めに病院に行ってほしいですね。小動物臨床においても呼吸器疾患への意識も高まっています。それでも呼吸器はまだまだ未開拓の部分が多いので、自分自身もさらに研究を進めていかなければと思っています。
病気になった動物を治すことが原点
院内は新しいですが、同院の歴史は長いそうですね。
開業して24年になります。私は北里大学を卒業してから、都内のいくつかの動物病院で、犬や猫を始めとした幅広い動物の治療を経験しました。大学では今のように小動物の専門的な授業はあまりありませんでしたので卒業してからが大変で、毎日が実践を踏まえての真剣勝負で必死に学びました。その後独立しこの近所で開業しましたが、2000年頃から気管虚脱の治療を積極的に行い、2013年に日本獣医生命科学大学にて学位(獣医学博士)を取得しました。そして最高の診療体制を整えるため2015年、この場所に移転しました。1階に3つの診察室、レントゲン室、処置室、犬の入院室、地下に手術室、猫の入院室、医局、院長室と十分な広さを備えます。内装で工夫した点は、「汚れが目立つようにすること」。私も目に付いたら、自ら雑巾がけをします。清潔であることの重要さは、物言わぬ動物の細かな変化に気づくことができるかどうかと同じと思っています。
「アトム」という院名の由来を教えてください。
「基本が大事」ということを常に忘れたくないと思い、原点や原子からアトムがひらめいたんです(笑)。私にとって基本とは、何のために獣医師になったのかというところにあります。それは、病気になった動物を治すため。そしてそれを喜ぶ飼い主さんの姿を見るため。だから、瀕死の状態でも手術で救え、患者さんに喜んでもらえたりわざわざ元気な姿を見せてくれたりすると、この仕事のやりがいを感じます。でも、すべての動物を絶対に治してあげることができるわけではないので、そこが難しいところでもありますけれどもね。
基本に戻ることに加えて、常に心がけていることはありますか?
威張らないことです。そして怒らない。「何でこんなに放っておいたんですか」と言いたくなることもありますが、飼い主さんだって、悩んだり苦しんだりしているわけでしょう。だから真剣に、そして笑顔が出るくらいにこやかな雰囲気で診察するようにしています。面白く、楽しく、というのは言い過ぎかもしれませんが、冗談を言えるくらいの関係を大事にしたいですね。自分が病院にかかったときにそう思うんですよ。膝の痛みで行った整形外科では、ほんの10秒しか膝に触らないし、ずっとパソコンを見ている。風邪かなと思い行った内科では、聴診は5秒で終わる。私たちは動物とは会話ができませんから、こちらがどれだけ感じてあげられるかが重要です。怖い雰囲気や窮屈な診療はせず、じっくりと診てあげたいと思っています。
創意工夫をし、動物を救い続ける
院長以外にもたくさんのスタッフがいると聞きました。
実は、獣医師は一度も求人案内を出したことがなく、紹介や人づてで働いてくれるようになったのがほとんどです。今は「呼吸器を勉強したい」という志を持つ先生たちが多く集い、ともどもに研鑽しています。さまざまな症例に出会いながら多くのことを学んでいることでしょう。知識や技術はやる気があれば伸びます。それよりも大事なのは、人としてどうか。飼い主さんやスタッフへも「上から目線」の態度は絶対にだめです。獣医師である前にまずは人として、そして「先生」と呼ばれるに値するようにならないといけない。会社勤めの経験がなく獣医師になった私たちにとって、患者さんから学ぶことは実に多いんです。「お山の大将」にならないように肝に銘じていかなければなりません。
お忙しい日々だと思いますが、休日は取れていますか?
温泉、ドライブ、美味いもんを食べることなど趣味は多く、休みがあればフットワーク軽く出かけますよ。先日の休みの朝、大好きな旅番組を見ていたら北陸が映っていたので、「そうだ、今日は金沢に行こう!」と即決。3時間後には、北陸の古都に立っていました。温泉に入れなかったのが残念ですが、日帰りで金沢満喫しましたね。獣医師も人間です。特に呼吸器外科は命と真正面から向かい合わなければならないため、非常にシビアです。この腕に、その瞬間の判断に命がかかっています。徹夜することも、休みを取れないことも多々ありますが、休める時は休む。しっかりと謳歌してます。私の師匠のモットーは、「よく学び、よく遊び、よく働く」。「よく働く」が最後なのがうれしいでしょ。今でも実践しています(笑)。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
呼吸器外科の可能性を広めていきたいですね。息をするのもやっとで、なんとか生きている子が、元気になって帰ってゆける可能性があるのです。学会の役員も任せられるような年齢になって来ています。若い世代に自身の経験を多く語り、また講習会の取りまとめなどの役割も果たしていかなければと考えています。臨床の現場で先駆者や経験豊かな人から多くを学ばさせていただきましたから、後進に学ぶ機会を提供していくことが恩返しだと思っています。使命を自覚した時に、その可能性の芽は急速に伸びるという言葉があります。それぞれの獣医師にその人にしかできない仕事があるはずです。われこそはとの自覚を持って、おごることなく、間違っても威張ることがないように、自身の使命をみつけて欲しいですね。