弓削田 直子 院長の独自取材記事
PetClinicアニホス
(板橋区/ときわ台駅)
最終更新日: 2023/01/22
東武東上線ときわ台駅より商店街を歩いて6分、グリーンとイエローの鮮やかな5階建てが「Pet Clinic アニホス」だ。環状7号線と川越街道の交差点側から見える、親猫のしっぽに子猫がぶら下がっている看板も印象的。入り口には「時には嬉しい日もあって 時には悲しい日もあって」と彫られた、猫を抱く犬の地蔵があり、つらい時にはさすったり、良くなったら御礼を言う人も多いのだとか。これらは初代の山村穂積院長のアイデアで、現院長の弓削田直子先生によれば初代は「少年の心を持つ天才」なのだそう。その天才の理念に基づきスタッフが一丸となってこだわっている診療体制など、弓削田院長に聞いた。 (取材日2016年6月14日)
ゆりかごの前から亡くなった後まで、相談を
印象的なクリニック名ですが、どんな想いが込められているのですか?
「Pet Clinic アニホス」と言いますが、まず「Pet Clinic」は愛玩動物の専門相談所と位置づけています。「アニホス」については、アニマル・ホスピタルの略ではなくて、生命を指す「アニメイト」と、もてなしを意味する「ホスピタリティ」から名付けているんです。理念である「命に対する真剣な対話と心のこもったふれあい」を表していて、動物たちと出会う前、ゆりかごの前から亡くなった後に至るまで、何でもご相談いただければと考えています。ペットを飼おうと思われたら、ご自分の環境ならどういう犬種、猫種が合っているだろうかを聞かれたり、ペットが残念ながら亡くなられても、飼い主さんの気持ちを癒やすグリーフケアでペットロスを防ぐことも私たちの役目だと思っています。
毎年12月に音楽祭を開かれているとお聞きしました。
クリスマスの時期に、飼い主さまや地域住民のかたがペットと一緒に楽しんでいただける、1時間のコンサートを無料で開催しています。いろんなタイプの音楽を演奏しますが、犬もおとなしく聴いて、お利口にしていてくれますね。イタリアンのシェフにお願いして、人間も犬も一緒に食べられるケーキも用意するので、召し上がっていただけます。動物病院というのは病気があって来るところですが、楽しいことでも訪れていただきたいと思って、こうしたイベントを行っています。当院の待合室はゆったりしていますが、このコンサートをできるようにと照明も少し落として、森の中のような落ち着ける空間にしてあるんです。普段、待合室としては、階段やエレベーターに近いあたりは犬専用に、奥のほうは猫専用にとゆるやかに分けています。
犬と猫とで動線を分けてあるのは安心ですね。
やはり猫はデリケートですし、飼い主さんも気にされますからね。診察室も2階に8室あるうち、犬はオープンなスペースで、猫は壁のあるクローズな空間で診ています。壁の同じ場所をガラス窓にしており、スタッフからはすべての部屋が見通せるようになっています。入院室や面会室も、犬と猫はスペースを分けています。また、当院の1階には駐車場があり、エレベーターや階段で上がると受付なのですが、感染症については1階に専用の診察室を設けています。よくあるのは猫の風邪で、飛沫感染なので接触しなくても移りますし、犬でも感染力の強い病気がありますので、そこはきっちりと分けているんです。
人間ではメジャーになってきた、低侵襲手術を犬猫にも
こちらならではの治療を教えてください。
動物の体への負担の少ない「低侵襲手術」に力を入れています。傷が小さく、痛みも少なく、回復も早いというもので、当院では、例えば不妊手術も検査をして適応すれば腹腔鏡下で行います。お腹を切る手術に比べ、痛みのスコアで見ても格段に負担の少ない手術です。プードルやチワワなど小さな犬はとりわけデリケートなので、お腹を切ると痛みで翌日も抱っこができないのですが、腹腔鏡の手術であれば、その日にすたすた帰れるくらい楽なんですね。椎間板ヘルニアの手術も適応な症状であれば切らずに、レーザー治療も可能です。
動物も飼い主さんもストレスが軽減されますね。
そうですね。あと、よく行うのは、呼吸の改善を目的とした、気管内ステント設置術です。レントゲン透視装置を用いるので、メスを使わずに済みます。膀胱がん、尿道がんの時に尿道ステントを入れることもよくあります。これらのがんは根治をめざすには手術で膀胱を取る方法がありますが、排尿がそれまでのようにはできなくなるので、管理が大変で生活の質を著しく落としてしまうのです。尿道ステントでしたら手術自体の負担も少ないので、例えば肺に転移があるといったケースでも、日帰りで体力を損なわずにできますし、亡くなるまでの時間を少しでも楽に過ごさせてあげられるんですね。当院には獣医師が14人、動物看護師が20人いますが、診療後にセミナーや実習を行うなどして、日々こうした新しい技術の習得に励んでいます。
エレベーターがあって、上の階に上がるのも楽ですね。
病気の子はカートに乗せての来院も多いですし、大きな犬だと年を取ると階段が体力的に難しくなってくるんです。ほかに、入院中や病気・加齢のために、他のクリニックではトリミングをしてもらえない子のみを対象にしたメディカルグルーミングも行っています。衰えている時こそ、シャンプーしてきれいにしてあげたいものですよね。また、入院室はクリーンな空気を流していますが、いちばんきれいな、スタッフの目の届くところには術後や抗がん剤投与中の子を置いて、15分ごとにバイタルチェックをしており、そのあたりでは「ケアホーム」としてお預かりして介護も行っています。認知症などで徘徊してしまったり、夜鳴きが激しくてご家族ではお世話が大変なことがあるんですね。認知症の見極めとしては、狭い所に入って出てこない、角に頭をつけたまま動かない、昼夜逆転して昼間は眠っているなどあれば、ご相談ください。
「真の動物医療」を飼い主にとって身近な存在に
獣医師を志されたのは?
よくわからないのですが、3歳で既に、獣医師になると決めていましたね。祖父母の家が近所で毎日通っていたのですが、セッターを4頭、庭で飼っていたんです。幼稚園から帰ると、犬の耳をぺらっとめくってマダ二やノミを退治していましたよ(笑)。ある時、フィラリア感染症で弱っている野良のマルチーズと出会い、祖母と動物病院に連れて行ったんです。その際、獣医師さんが5歳の私に顕微鏡でミクロフィラリア見せてくれたことを鮮明に覚えています。この子には虫が付いていて、咳をして死んでいってしまわぬよう、治療が必要なのだというのも理解しました。
獣医師としてさまざまな経験を積まれているとお伺いしました。
麻布大学獣医学部で外科の研究室に入って、大学の動物病院に来る犬猫の管理や手術に入ったりしつつ、牛の手術や象・ライオンの解剖なども行いましたね。大学時代は上野動物園での研修を続け、卒業後、当時は北川動物病院という名称だった当院に入りました。初代院長の山村先生の手厚いサポートを受けながら、勤めながら循環器の専科研修医として学び、しばらくして大学院にも行きました。これからも私自身が進歩していきながら、私が得た経験を獣医師・スタッフに伝え、クリニックのみんなで飼い主さんのお役に立っていきたいと思っています。
最後に、これからの展望を教えてください。
当院の診療は6時半までですが、その後に他の獣医師らと症例検討したり、院長として現場がマンネリ化しないよう、スタッフと共に飼い主さんたちに提供していきたいサービスなどを考えています。他社とコラボして虫除けのオリジナルバンダナを作ったり、散歩バッグもオリジナルで、ニューヨークで有名なアパレルブランドのデザインを手がけている知人に作ってもらいました。全ては動物病院を飼い主さんに身近な存在と感じていただくためです。これからも、治療・サービスの両方で自分の子を受けさせたいと思えるものをスタッフみんなで考え、提供していき、動物病院を飼い主さんたちにとって、より身近な存在にしていきたいですね。