柿澤恵子 院長の独自取材記事
K. Exotic Care
(世田谷区/祖師ヶ谷大蔵駅)
最終更新日: 2023/01/22
小田急線祖師ヶ谷大蔵の北側駅前。徒歩0分の好立地に「ケイエキゾチックケア」はある。犬猫以外の、小動物のための病院だ。院内には患者である動物たちの写真がたくさん飾られ、鉢植えの植物の緑が美しい。「実はこの植物も、動物たちのごはん用に育てているんです」。そう笑うのは院長の柿澤恵子先生。長く成城学園前で診療を行い、5年前に祖師ヶ谷大蔵へと移転した。幼い頃からの動物好きで、かつては猫や犬も診療したが、今はあえて小動物に限っている。獣医となってから自分で学んだエキゾチックの診療、アメリカ留学やご自身のペットのことまで、たっぷりと語っていただいた。 (取材日2012年11月26日)
犬猫はあえて除き、ウサギやフェレットなどの小動物、爬虫類を診療
犬猫以外の小動物を診られるそうですね。
はい。ウサギ、フェレット、モルモット、ハムスター、鳥、爬虫類などを診療しています。技術的には犬や猫も診られるのですが、当院は小さいので、大型犬の尻尾ひとふりで壊れてしまいますし(笑)、私も小柄で、大型犬は体力的につらいこともあり、あえてエキゾチック専門にしたんです。この祖師ヶ谷大蔵で開院したのは5年前です。それまでは隣町の成城にある動物病院で代診をし、その後、留学。帰国後やはり成城で開業しました。成城からは道路拡張のために移転することになったのですが、患者さんの通いやすさを考えると、やはり近くがよいと思い、祖師ヶ谷大蔵を選んだんです。患者さんのなかには私が獣医1年目からのおつき合いの方もいらして、もう16年にもなります。飼っている動物が代替わりしても頼りにしてくださるので、ほんとうにありがたいですね!
爬虫類の診療もされているのですね。
極端に珍しい爬虫類は爬虫類専門病院へ連れて行かれる方が多いので、当院へは一般的な爬虫類がよく来院します。爬虫類を飼う方には個性的な方が多いですが、なかには喘息やアレルギーをおもちで、毛の生えている動物が飼えないという方もいらっしゃいます。先ほどまで治療していたのはフトアゴヒゲトカゲ。今とても人気があるトカゲです。診療させていただいたなかで私が特に驚いたのは、スウェットを食べてしまったヘビです。寒い日に、飼い主さんがヘビも寒かろうと、自分の着ていたスウェットと餌のラットをケージに入れて外出されたんです。帰ってみたら、ラットもスウェットもなくなっていたんですって。なんと、ヘビのお腹の中に全部収まっていたんです!あのときは、すぐに開腹手術になりました。
動物の種類によって、扱い方を変えたりなさるのですか?
ウサギやモルモット、鳥などは、捕食される側の動物なので、手で持っているだけでもストレスになってしまうことがあります。ですから私も、飼い主さんとは長くしゃべっても、その子たちに触れる時間はなるべく短くするように心掛けています。お話のなかで症状にあたりをつけ、治療の準備を整えたうえで、ぱっと触って早めに終わるようにすれば、動物たちに負担をかけずにすみますからね。手術もほとんどは日帰りです。ご自宅にいるほうが動物たちにはリラックスできますし、食事も早く食べられるようになります。もちろん家に帰すにあたっては、有り得るケースとその対処法をすべて飼い主さんにご説明し、何かあったときのサポート態勢は整えています。
動物の病気の多くは、間違った飼育法が原因。まずはそれを探る
飼育指導にも力を入れているのですか?
はい。動物病院に来る動物たちのなかには、その飼育方法によって体調を崩してしまった子が少なくありません。よってどうしてこうなってしまったのかを時間をかけてお話しすることが大切だと思っています。初診であれば1時間はとって、どんな環境でその動物を飼っているのか、ケージの中のどこに何があり、ライトはどこにつけて、その電球はいつ変えたかということまで、お聞きします。例えばトカゲは暖かい場所が好きですが、光を当てている先の素材が過熱しやすいと、そのせいで胸や腹がやけどをし、膿をもってしまうことがあるんです。下に敷く素材をブロックから木に変えるだけでも環境は変わってきますので、まずは飼い主さんとじっくり話すことで、問題が起きた原因をつきとめるように心掛けています。
餌が問題で病気になるケースもありますか?
それは多いですね。例えばウサギは歯が一生生え続ける生き物なので、食べ物によってそれを摩耗させる必要があります。そのために一番いいのは牧草などの高線維のもの。ところが、昔小学校でキャベツを与えて飼っていたからと、野菜ばかりあげてしまう方がいらっしゃるんです。昔のウサギは顔が大きく顎が発達していたので、人間でいう親知らずが生えても問題なかったし、雑草ももらっていました。ですが、今ペットショップで売られている多くのウサギは、小型で小顔。柔らかい人用の野菜ばかりでは歯が摩耗せず、歯の生え方が少しずれただけで、膿をもつことがあります。鳥の飼育も、昔そうだったからと、雑穀だけ与えて飼っている方がいますが、そのせいで脂肪分ばかり多くて必要な栄養素がとれず、肥満になってしまう鳥が後を絶ちません。犬に汁かけご飯をあげたり、猫に猫まんまをあげたりする人はすでにごく少数派ですが、ウサギや鳥の飼育はまだその感覚で止まっている方が思いのほか多いんです。
先生は小さい頃から動物が好きなのですか?
はい。家には、カメやハムスター、猫など、何かしら生き物がいましたし、私は、ネズミやカマキリなど、いろいろな生き物を拾って帰ってくる子でした。「かわいそうだから放していらっしゃい!」と親に叱られてばかりいましたね。我が家はマンション暮らしでしたが、かなり広い庭があり、静岡出身の両親がそこにミカンの木を植えていたんです。あの葉っぱはアゲハチョウの大好物。私は毎年木についたアゲハの幼虫を観察するのが大好きでした。母が「捕まえないと木が丸坊主になる」と言っても、「このままにする」と言って。でも丸坊主になった頃に、鳥に食べられちゃうんですよね(笑)。
獣医を目指すようになったきっかけは何ですか?
中学生の頃、飼っていた猫が病気になったとき、自分に何もできないことが悔しかったんです。動物病院から戻って自宅療養となっても、母が介護しているのを見ているだけ。獣医の先生がおっしゃった事すら私には理解できず、ご飯をやろうとすれば顔にひっかけてしまう。そんな自分に無力感を感じて、自分の手でこの子を助けられるようになりたいと思ったことが、獣医を目指したきっかけです。私は理系が苦手でしたが、幸い、当時の日本大学の獣医学科は文系でも受験できたので、この道へ進むことができました。でも入学後は大変でしたよ。化学式などちんぷんかんぷん。春が来るたび、「よくぞ進級した!」と友人に言われていたくらいです。当時大学にはエキゾチックの授業がなかったため、私は獣医になってから自力で勉強を重ねました。1年半のアメリカ留学も経験し、今では母校でエキゾチックの診療について教えています。
エキゾチックの診療を学びに留学。内視鏡やエコーも小動物用を揃える
留学時代の思い出をお聞かせください。
私が学んだのは、アメリカのオハイオ州立大学の動物病院です。英語には問題なかったので、着いたその日から獣医師としてひたすら勉強する毎日でした。アメリカの大学病院では、動物の治療も、眼科や皮膚科など専門医が分かれていて、「これは眼科の診療が必要だ」となると、眼科の研究室へ動物を連れて行くんです。そこでは、「イグアナの目だろうが、馬の目だろうが、目は目だ」という考え方ですべての動物の診療にあたっていました。日本は法律上専門科を認めていませんが、アメリカでさまざまな分野の専門医と話せたことは、とても勉強になりましたね。また、CTや内視鏡など、各種検査機器の効果的な使い方を学べたことも、その後の仕事にとても生かされています。
今は何か動物を飼っていますか?
うちの庭で母猫が赤ちゃんを産んでいったので、その子を3匹育てています。ところが悲しいことに、私、その子たちに嫌われているんです(笑)。ワクチン注射を打ったりするのは私なので、家族が猫を抱いているときに私が近づくと、また注射だと勘違いして逃げてしまうんですね。自分でペットの病気を治せるようになったのはよかったのですが、まさかここまで嫌われるとは思ってもみませんでした(笑)。そのように動物たちには嫌われても、飼い主さんは喜んでくださるので、それをやりがいに頑張っています。もちろん、どんなに彼らに嫌われても、私はみんなが元気になってくれることがうれしいです。
仕事を離れたご趣味は何ですか?
昔は園芸が好きでしたが、今育てている植物はほとんど動物たちの食べ物になってしまいましたので、純粋にガーデニングを楽しんでいるとはいえない状況です。院内にある鉢植えのアシタバやアロエも、来院する動物たちの緊急時用に育てています。夏場には医院の窓辺にグリーンカーテンを作りますが、ゴーヤーではなくツルムラサキを植えています。陽を遮るだけでなく、動物たちも私も食べられますからね!
飼い主さんへのメッセージをお願いします。
当院は小さな動物を診ているので、内視鏡やエコーなどもそれに合わせてコンパクトな機械を導入しています。駅前という便利な場所にありますので、これからもっと多くの患者さんに来ていただけたらと願っています。動物の病気だけでなく、飼育の仕方など、悩みや心配事があればなんでも相談してください。現在診療は完全予約制をとっていますが、それは、私がほかの病院への往診に出たり、大学で講義をしたりする都合で不定期に不在の場合があるためです。また、動物にストレスがかからないよう待ち時間を少なくしたいという思いからの予約制ですので、決して敷居の高い動物病院ではありません。これからも近隣のエキゾチックの飼い主さんのサポートをしていきたいと思っています。どうぞ気軽に来院してください!