遠山和人 院長の独自取材記事
とおやま犬猫病院
(江戸川区/葛西駅)
最終更新日: 2023/01/22
住宅街の中にある「とおやま犬猫病院」のドアを開けると自然光がたっぷり入り、隅々まで掃除の行き届いた待合室が広がる。取材直前まで手術を執刀していたのに疲れも見せず、にこやかにインタビューに応えてくれた遠山和人院長は、渋い外見からは意外なほど気さくで穏やかな方。獣医師6人を抱える同病院は、遠山院長の専門である整形外科の症例を中心に、最近では年間600例を超す手術を行っているという。各スタッフの専門性を高め、オールマイティな治療をめざす遠山院長に、獣医師を目指した理由や開業の経緯、病院の特徴などじっくりとお話を伺った。 (取材日2013年8月19日)
年間約650件の手術数。動物の負担軽減のために手早く施術
クリニックの特徴を教えてください。
皮膚病で受診されるケースが全体の2割を占めていますが、私の専門分野である整形外科の診療も多いです。整形外科の主訴としては、膝蓋骨脱臼と十字じん帯断裂、骨折などがあり、これらの手術はすべて当院で行っています。ほかには、ミニチュアダックスフンドが一時期とてもはやった関係で、彼らの遺伝的な病気である椎間板ヘルニアも多いです。ここ2、3年がピークになるでしょうね。ただ、整形外科に特化しているわけではないので、6人いる獣医師それぞれに専門性を持たせて、全員でオールマイティにカバーできるようにという思いで診療を行っています。また、毎朝、治療時間の前に、掃除してからミーティングをしています。その日の予定や、預かっているペットの様子などを共有するようにして、スタッフ間のコミュニケーションを密に取るように心掛けています。
日々の診療の中で、大切にされていることは何ですか?
飼い主さんに対しては、会話の中で考え方や背景をつかみ、タイプに合わせて治療法や説明の仕方を変えています。とことん治療したい飼い主さんもいれば、治療は最低限でいいという方もいらっしゃいます。前者の飼い主さんは、ネットで情報を得るなどして知識があるので、治療法や経過、術後の予後を詳しく説明します。後者の方は、経済的な理由に限らず、動物の体に極力負担をかけたくないという思いをお持ちですから、そこを見極めて対応するようにしています。動物に対しては、治療や手術の時には、なるべく短時間で終わらせるようにと心掛けています。2012年の1年間でも、手術は年間649件行っていますので、スピードと正確さには自負を持っています。
印象に残るエピソードを教えてください。
日々新しい出会いがありますので、すべてが印象に残るケースで、「これが一番」というのは、なかなか難しいですね。ただ、こちらを開院してから飼った犬は、患者さんの家で生まれた子なんです。実は、患者さんにメスのゴールデンレトリバーの飼い主さんがいらして、その子に相手を探しているというので、当時の患者さんの中で一番かっこいいオスのゴールデンレトリバーをご紹介してお見合いをしてもらったんです。子犬が1匹生まれたのですが、どちらの飼い主さんが育てるか決められず、私にくださることになったのです。メスのゴールデンレトリバー、つまり私の犬のお母さんですが、その子のことは子犬の時から死ぬまでの長い期間、ずっと診させていただきました。
地元・九州と東京。1年かけて開業場所を慎重に選択
獣医師を目指したきっかけを教えてください。
実は大学受験の時まで獣医師という存在を知りませんでした。実家ではいろいろな動物を飼っていましたが、動物病院に連れて行くという経験がなかったのです。もしかすると、親が連れて行っていたのかもしれませんが、そういう話を聞いたことすらなかったのです。高校時代、将来の進路を決めるために大学の学科の一覧を見ていて初めて、獣医学科というものがあることを知ったんです。「獣医師ってなんだろう」と思って調べてみると、動物のお医者さんだということがわかりました。高校では生物の授業が一番好きでしたし、もともと、動物に関わりがある職業に就きたいと思って、生物学科を目指すつもりでしたので、もう「自分にはここしかないな」と思いました(笑)。
子どもの頃、どのようなお子さんでしたか?
小さな頃から常に身近に動物がいました。コリーが2匹に雑種の犬、モルモット、セキセイインコ、ハツカネズミなど、動物と親密に過ごしていました。コリーのお腹で寝ていたこともありましたね。実家が電気店だったのですが、お客さんのところで電気工事をしていて、たとえばスピーカーを取り外してみたら、ムササビが巣を作っていたということがあります。そうそすると、親がムササビを持って帰ってきてくれるんですね。そういう動物にエサをやって育てていましたね。
動物好きのお子さんだったのですね。それでは、開業の経緯をお聞かせください。
もともとは、開業しようという意志はなかったのです。ただ、大学卒業後、3年間勤務していた横浜・磯子区の病院が「動物病院の虎の穴」と呼ばれるほどとても忙しく、短期間で技術や知識が身につけられる職場でした。先輩たちがどんどん開業していかれるのを目の当たりにして、私も考えが変わりました。なにせ、日付が変わる前に帰宅できたのは、就職してから4ヶ月後(笑)。午前7時半から勤務して、帰るのは午前1〜3時が当たり前でした。もちろん、昼間にも手術は行うのですが、患者さんが多いのですべては終わらず、診察が終わってからも手術や治療をしていましたので、とにかく目が回るような忙しさでした。整形外科に関して有名な病院で、2年目から手術の助手を務めさせていただき、実践の中でたくさん学ぶことができました。そこで、3年でその病院を卒業して、その後1年間かけて開業場所を探しました。
1年かけて開業準備をされたのですか?
はい。熊本出身なので、地元に帰って開業するか、こちらでするかを決定するために、いったん九州に帰り、熊本と福岡の動物病院で非常勤として働きながら、様子を見ていました。博多の飼い主さんはおおらかな方が多いようで、犬や猫が病気をしても、「なんとかなるんじゃないか」と考えて、病院にすぐに連れて行くということはあまりないようでした。一方、私の出身地である熊本はまた違って、しつこい性格の方が多いようで(笑)。病院にすぐかかるし、一度通院すると長期にわたって、通ってくださるんですね。ただ、病院の数が多すぎる印象がありました。じっくり時間をかけて、そんな様子を見て、やっぱりこちらで開業したいと考えて、戻ってきたんです。
仲間とともに夜間救急動物医療センター設立に携わる
夜間診療を行う「ひがし東京夜間救急動物医療センター」の設立に携わられたと伺いました。
はい。当院は、都内東部地区の25の動物病院でつくる「東京イースト獣医協会」の会員です。会員同士で話し合う中で、夜間の診療体制を整えたいという声が多く上がっていました。ただ、皆忙しくて体力的にもどうしても余裕がない状況で、内心じくじたる思いがありました。個人個人で対応するのではなく、皆で協力して夜間診療の受け皿を作れないだろうかと話し合いを続けていたのですが、予算的にも非常に難しい問題でした。そんな中、動物に特化したCT・MRI画像診断専門機関「キャミック」を誘致しようという提案が通り、そこに併設する形で「ひがし東京夜間救急動物医療センター」の設立が実現しました。当初は、会員が交替でボランティアで診療していたのですが、現在では軌道に乗り、専任のスタッフだけで診療に当たっています。
今後の展望についてお聞かせください。
専門性を持っているスタッフたちにできるだけ長くいてもらいたいということですね。やはり、獣医師や看護師が短期間で変わってしまうというのでは、飼い主さんも動物たちも安心できないでしょうからね。実は、私の甥が夫婦ともに獣医師で、幸いなことに現在、当クリニックに勤務してくれています。彼らが専門にさらに磨きを掛けて、ゆくゆくはクリニックを引き継いでくれるという形が理想ですね。そうなるといいなと願っています(笑)。
お忙しい毎日だと思いますが、リフレッシュ法を教えていただけますか?
さきほど話に出てきました東京イースト獣医協会のメンバーたちとよく、ゴルフや登山を楽しんでいます。メンバーの中にとてもアクティブな先生がいらして、その影響で登山を始めました。最近は、年に2回くらいは行っていますね。今年は、1泊2日で八ヶ岳へ、2泊3日で北アルプスの白馬に行ってきました。もちろん、息抜きになりますし、みんな獣医師ですので、仕事の話をすることもあって、そんな時には刺激ももらえます。仲間には本当に恵まれていると感じていて、感謝しています。