森井啓二 院長の独自取材記事
しんでん森の動物病院
(足立区/王子神谷駅)
最終更新日: 2023/01/22
東京メトロ南北線王子神谷駅からバスで10分。ワイドスパンの2階の窓から木々がのぞくブラウンの建物が、「しんでん森の動物病院」だ。まるで森に入っていくかのように扉を開けると、吹き抜けの明るい待合室が広がっている。壁には油絵具で描かれた風景画。深い色味の森が、描いた人の落ち着きと静けさを感じさせる。実は、その絵を描いた人こそ、院長の森井啓二先生。北海道大学大学院を修了後、つてもない異国の地のオーストラリアに渡って自らの足で獣医実習のチャンスを得た、行動力と情熱の持ち主だ。経験を活かし、今では高度な2次診療も行う。また、日本獣医ホメオパシー学会の理事長として、生物が本来持つ免疫力を高めて行う治療の第一人者でもある。そのバイタリティーはどこから来るのか、お話を伺った。 (取材日2015年3月24日)
「ペットと少しでも元気に長く暮らしたい」という思いから獣医師に
開業から25年が経つそうですね。
25年前はまだ、ここにはアパートが建っていましてね。そのアパートの一室の二間で診察をしていたんですよ。のちの建て替えを機に、内装とクリニック名を大好きな自然を感じられるものに変更しました。待合室は広く、大きな吹き抜けになっていますが、これはオーストラリアの動物病院を参考にしています。色味も森っぽくしました。実は、建て替えに協力いただいた工務店の方をはじめ、大工、内装、看板等の業者の方もすべて当院の患者さん。のちにわかったことなのですが、電気屋さんも「実はうちもこちらに通院していましてね」と。動物好きな人たちが関わって誕生したクリニックなんです。
先生が医師になられた理由をお聞かせいただけますか?
父が獣医師だったこともあり、昔から動物をたくさん飼っていました。そのせいか、小さい頃から生き物が大好きで、犬や猫とじゃれたり、すぐそこにある土手で魚や虫を捕りに行ったり……。そうやって仲良く暮らして愛情がわくうちに、「長生きしてほしい」とか病気になったときに「治してあげたい」と強く思うようになりました。それが獣医師をめざそうと思ったきっかけですね。
足立区区で育った先生が、北海道大学に進学。不安はなかったですか?
国立大学に進学しないといけないという事情もありましたが、自分自身が広いところに行きたいという思いが強かったんですよ。東京は人口密度が高いでしょ(笑)。北海道大学のある札幌は人が多いですが、札幌から少し出ると人はいないですし、自然や動物がいっぱいなんです。時間があるときは山や海にしょっちゅう行っていましたね。自然は私にとって「一番居心地のいい場所」なので、北海道ではまったく不安はなかったですね。
気持ちの思うままに「より広いところ」へ行きながら、治療技術を磨き続けた20代
大学ではどんなことを勉強したのですか?
当時の北海道大学は、1〜2年生は学部に関係なく教養課程を受け、成績のいい人から順番に好きな学部を選べたんです。獣医学部は人気がありましたので、勉強メインで過ごしましたね。獣医学部に進級後は、治療法を中心に勉強する大学附属病院の臨床講座を選択。獣医師免許を持っている教授と共に、現在の(看護助手)動物看護士のような立場で補助として動物たちの治療にあたりました。大学病院に来る患者さんですから、幅広く難しい症状が多かったのですが、早いうちから現場の経験を積めたことは有意義でした。大学院修了後は迷わず札幌市内で就職しましたが、1年程したところで北海道が狭いと感じ始めたんです(笑)。もっと広いところに行きたくなった。それで、思い立ってオーストラリアに行くことにしました。
オーストラリアの動物病院では、実習生として臨床経験を積まれたのですね。
何も準備をしていなかったので、オーストラリアに着いてから、電話帳を片手に、シドニー中の病院に電話をかけたり町中を歩いたりして、働かせてもらえる動物病院を探しました。でも日本の医師免許はオーストラリアでは無効で、なかなか就職口が見つからなかった。そんなある日、現地の獣医師が学会に誘ってくれたんです。多くの獣医師に一度に会えるからと。その獣医師について行って売り込んだところ、「実習生としてなら」と言ってくれる獣医師にたくさん出会えたんです。私もいろんな病院を見たかったので、1、2週間おきに病院を変え、実習生として先生の補助をしながら経験を積みました。そのうち、もっともっと広いところに行きたくなりましてね(笑)。セスナ機で国内を飛び回って治療する「フライングドクター」と呼ばれる獣医師をテレビで見たとき、「これだ!」と。すぐ連絡をとったのですが、日本人からの突然の申し込みで戸惑ったらしく、そのフライングドクターはシドニー中の病院に、「森井を知ってるか?」と聞いたみたいなんです。そしたら、みんなが知っている。あちこちで実習させてもらいましたからね。またシドニー大学で教えたこともあったため、教授が保証人になってくれて、補助としてセスナ機に乗れることになったんです。毎日飛びましたよ。病気の治療だけでなく、へき地に行って注射を打ったり結核の疑いのある牛を治療したりも。車を簡単にひっくりかえせるくらい強い野生のバッファローを診ることやクロコダイルが庭にいることは当たり前の環境で動物に触れる中で、命を大切にすることの意味を改めて実感しました。
ゼロベースでも切り開いていく行動力をお持ちですね。今も休日はアクティブにお過ごしですか?
若い頃は、やらなきゃいけない状況だったので、やるしかなかったんですよ(笑)。昔は大人しく静かな子どもだと言われていた。みんなで何かをやるというタイプではありませんでした。今も、1人で自然の中で過ごしたり絵を描いたりすることのほうが落ち着きますね。最近やっと取れるようになった休みの日には、中部地方の人がほとんどいない地域に行ってのんびりと過ごしています。気に入った風景があれば、持ち歩いている画材道具を取り出して絵を描きます。自然と動物がとにかく大好きなんですよ。
動物が本来持つ力を引き出し、免疫力を高める治療をめざす
患者層について教えてください。25年で変化はありますか?
基本的には犬と猫の治療を行っています。犬は胃腸病や皮膚病、猫は伝染病や泌尿器系の疾患での来院が多い。飼い主さんは、20〜40代の方よりは50代以上の方がメインですね。25年前から変化したことと言えば、がんや甲状腺の病気が増えたこと。寿命の延びが原因でしょう。一方、心臓に寄生虫が入り込むフィラリアは予防できるようになって減りました。犬については伝染病も減少しました。また、飼い主さんにも変化が見られますね。昔は病気のことはすべて獣医師にお任せ、という考えでしたが、今は飼い主さん自身がインターネットで熱心に勉強しています。ただ、怖い症状が簡単に入ってくるようになった分、心配性の人が多くなった気が。丁寧に説明したり、専門の病院との連携を強化したりすることで、患者さんを安心させる努力をしています。目、心臓、骨や関節など、部位ごとの専門医を紹介し、その治療が終わったら当院に戻ってきてもらうという形をとることで、より患者さんも心強く感じるでしょうし、よりよい治療ができるようにもなります。
統合医療が特長だと伺いました。
統合医療とは、これまでの一般医療に加え、中医学などの伝統療法と自然療法を組み合わせた医療です。治療の内容は1頭、1匹ごとに異なりますが、あらゆる患者さんに適応できる治療法です。しかし残念ながら、統合医療はまだ認知されていない。獣医師の間でもご存知ない方も多いので、病院向けに勉強会を開いたりメーリングリストを作って情報を共有したりする普及活動も行っています。今後も、さらに積極的に広めていきたいですね。
患者に接する際に心がけていること、そして読者へのメッセージをお願いします。
心がけていることは、やさしく丁寧に接することですね。目の症状で来院しても、おなかも肛門も心臓も口も、一通りすべて診ます。動物はしゃべってくれませんから、どこに病気が隠れているかわからない。動物を飼っている方には、とにかく毎日、動物に触れたり話しかけたりする時間を作ってほしいと思いますね。その方が病気の発見も早い。さらに、長生きする、精神的に安定する、運動不足にならないなど、飼い主さんにもいい影響を与えるという調査結果もあります。たっぷり接してあげてください。そして、不安なことがあれば、お気軽にご来院ください。