筈谷幸容 院長の独自取材記事

大学に入った当初は獣医師として開業を考えていました。というより、獣医師の仕事というと、それしか思いつかなかったのです。大学は北海道でしたが、卒業後は出身の和歌山に戻って就職しました。しかし、実は和歌山は牛の数は東京より少ないくらいで、仕事としての将来をあらためて考えるきっかけになったのです。そこで、和歌山で4年間畜産動物の検査・診療・研究に携わった後、開業をめざして東京に出ることにしました。なぜ東京かというと、妻の出身地で、彼女が先に獣医師として東京で働き始めていたからです。そこでまずは東京や神奈川で勤務医として勤め、小動物の臨床を学び、2006年に妻の地元であるこの稲城市に開業しました。

一言で言えば、「井の中の蛙」ですよ。東京に出て来て小動物の仕事を始めたのが、今から15年前ですが、その頃と今とではかなり違うのです。例えば、CTやMRIといった高度な医療がどんどんできるようになってきているし、勤務医時代にはしていなかったことも、今ではしなければいけなくなっています。ですから、開業当時の約10年前は自分が経験したもので十分だと思っていましたが、実際にはやればやるほど知らないことばかりです。好きな言葉に、孔子の「知らざるを知らずと為す、是知る為り」というのがあります。実はわりと最近知った言葉なのですが、今それがすごく心に刺さっています。「知らない」ということを知らずに開業してしまったという思いがあるのです。今は知らないことがたくさんあるので、もっと知らなければならないことを痛感しています。

ここは川崎街道沿いにありますが、駅も近いし、高速の入り口もそばですから、アクセスは良いと思います。しかし、来院される患者さんは近在の方が多いですね。犬と猫がメインで、うさぎも診ることがあります。トリミングとペットホテルも行っていますので、定期的に来院される方も多いですよ。それと、近くの多摩川を散歩していた方が来院されることもあります。しかし、小さい頃から診てくれている医院がある場合は、相談の上、なるべくその病院に戻ってもらうようにしています。時には疑問に思うことがあって他の医師の診断を受けたいこともあるかと思いますが、本来は小さい頃から知っている医師のほうが良いと思うからです。ですから、「他の医院ではこう言われた」と言ってもらって、それでもなお疑問が残る場合には、また来てくださいとお話しさせてもらっています。

当院のめざすところは、地域の「かかりつけ医」です。基本の「見て・触って・聞いて」をしっかり行い、診断をし、必要に応じて大きな病院や専門医を紹介するようにしています。つまり、人間でいうところの「総合診療」、最初に来てもらう案内所みたいなイメージでしょうか。先にも言いましたが、ここはアクセスが良く、高速を利用すれば、30分から1時間くらいで、より高度な施設を持つ大規模病院や専門医のところへ行くことができます。ですから、当院で診察をして「このような病気の可能性があるから、こちらを紹介します」といったご相談をさせてもらい、より良い環境とより多くの選択肢を飼い主さんにご提供できるようにしています。獣医師というのはかなり広い範囲の診療を求められますので、緊急性の高い場合は別ですが、可能であれば優秀な専門医をご紹介したほうが良いと思っているのです。その分、当院では飼い主さんと向き合い、さまざまな立場や考え方に合わせて、獣医師の考えを押しつけることなく、飼い主さんにとってのベストをご提案することを重視しています。私が大学病院の受診がベストだと思っても、そこに行くということも、行かないということも一つの選択肢に過ぎないのですから、「こうしなければならない」と飼い主さんに思わせるのは避けるべきだと考えています。

開腹手術を含めた一般的な軟部外科手術を行っています。避妊とか去勢、出産の帝王切開などですね。おなかの手術は緊急性が高く、紹介しているような余裕のない場合も多いですから、院内で速やかに行いますが、開胸手術や整形外科は行っていません。整形外科の場合は緊急性の高いものは少ないので、より専門的なところで手術をしてもらったほうが良いと思っていますし、開胸手術はケースそのものが非常に少ないからです。あとは眼科もわりと多いでしょうか。急性の緑内障などは点眼や点滴などすぐに対応しなければなりませんので。しかし、手術が必要なケースの場合はやはり専門医をご紹介します。

当院では総合診療の部分を重視していますので、そのためには正しく診断するということが大切です。その一つとして、内視鏡の検査には力を入れて取り組みたいと思っています。この世界では、5年前の知識、下手すると昨日の知識でさえ今日には変わっているかもしれません。だから、日々勉強です。飼い主さんには、「体がこうなっているから、こういうことが起こっています」というような、ストーリーがつながるような説明をきちんとして、十分に納得してもらって治療を進めることを一番に考えていきたいですね。

獣医師は基本的に私1人です。妻も獣医師なので必要があればヘルプに入ってもらうこともあります。それと看護師2人に、トリマー1人ですね。実は、看護師の1人は、もともとこちらに来院していた患者さんの一人です。当時看護学校に行くという話をしてはいたのですが、実際に本当に勤めてくれるようになってうれしい驚きです。そろそろ6年になりますし、頼りになる看護師になってくれました。しかし、小規模体制ではありますので、入院設備もありますが、基本的には満員になるほど動物をお預かりすることはありませんね。何かあったら電話をもらうことにして、飼い主さんにお返ししたほうが結果的に良い場合が多いので、事情が許す限り入院はあまり勧めていません。

たとえ夜中に起こされたとしても、良かったなと思うのが出産ですね。帝王切開は大変ですが、無事に赤ちゃんを取り上げた時は思わず顔が緩みます。また、ペットが死んでしまった後、飼い主さんにお礼の言葉をいただいたり、また新しい子を連れてきてもらえたりしたときも良かったなと思う瞬間ですね。

実は、開業した年に子どもが生まれました。妻の地元で開業したので、患者さんが来てくれるのはありがたかったのですが、妻は獣医師の仕事をメインではできなくなってしまいましたので、人手が足りず大変でした。それでも休診日には子どもを連れて遊びに行くのが楽しみでしたけど、火曜日ですからね。最近では小学校に行っていますので、一緒に出掛けることが減ってしまいました。今は年に1〜2回、家族旅行をするのが一番のリフレッシュです。沖縄と北海道によく行きます。冬は日帰りのスキーも楽しみます。

最近ではホームセンターなどでも気軽にペットを買うことができると思いますが、飼い始める前に、ぜひ一度ご相談に来てもらいたいと思っています。現実的な話も知っていただきたいし、アドバイスもできます。ちょっとした質問がある場合でもいいですし、ぜひ気軽にお立ち寄りいただければと思っています。