伊藤 健 院長の独自取材記事
むさしさかい動物病院
(三鷹市/武蔵境駅)
最終更新日: 2023/01/22
武蔵境駅南口より徒歩10分、「むさしさかい動物病院」は開院から20年を超え、深く地域に根付いた動物診療を行っている。院長の伊藤健(たけし)先生は、とても気さくで話し好き。飼い主から生活習慣や本音を聞き出すことから治療が始まると考え、雑談を交えた会話からヒントを得るように工夫にしている。また、飼い主と親しくなるきっかけづくりに、院内には、院長の好きなアイドルや人気映画などのグッズを飾るなど、ユーモアに溢れた一面もうかがえる。好きなことを仕事にできる喜びを感じ、いろいろな人との出会いがあることで獣医師になってよかったと実感している、という院長。前回の取材から1年を経て、改めて獣医師としての思いや、動物と人間の関係性についての深い考えを聞くことができた。 (取材日2017年5月11日)
小さな病院だからできるケアをしたいと開院を決意
昨年、20周年を迎えられたそうですが、改めて、どのような思いで開院されたのかを教えてください。
近隣には大学病院がありますので、大きな病院ではできないことを当院でやりたいと思ったんです。大学病院では専門的な説明で終わってしまうこともありますので、小さな病院しかできない雑談・日常生活に関わること・患者さんのこまかなフォローをしたかったんですね。難しい症例はすぐに大学病院へ紹介できるメリットもあって、妻の実家に近いこの場所を選びました。大好きなアイドルの実家が近いことも影響しているかもしれませんね(笑)。
内装などこだわったポイントはありますか?
10坪と狭い病院なら、広く見えるポップな黄色にしたいと思い、黄色を内装に使いました。開院直前、まだポルトガル領だったマカオに旅行した際に見た公社のカラーが黄色と白でした。黄色と白の建物に、青空がとても美しいコントラストで印象的だったんです。袖看板は自分で色付けしたんですが、開院した時期に大活躍していた野球チームのカラーをイメージしたんですよ。除細動器・血液検査機器・エコー機器などは常に新しいものを導入していますが、私は機器の新しさよりそれを動かす獣医師やスタッフの腕が重要だと思います。機器を自慢するより、中身で勝負したいといつも考えていますね。開院から20年たちますが、進化を求めて病院を大きくしようとは考えていません。
どのような疾患が多く見られますか?
診察する犬と猫の割合は同じくらいです。後期高齢の犬猫には、慢性疾患・心臓疾患・生活習慣病・腎不全などが多く見られます。20年前は、今は普通に予防できるパルボウイルス・ジステンバーなどの伝染病やフィラリアなどで亡くなるケースが多かったんですが、現在この地域の予防率は非常に高く、病気そのものを診ることがなくなりましたね。当院には入院室もありますが、私は基本的に入院させたくないんです。自分も3匹の猫がいる飼い主なので、自分の子なら預けたくない。ですので、どうしても症状がひどい場合だけ預かるようにしています。入院中の動物たちがいると、帰宅が午前3時になってしまうことがあります。私がいない間に何かあってはいけないと、常に責任を感じているんです。
飼い主から本音を聞き出すことから治療は始まる
飼い主さんの傾向を教えてください。
飼い主さんの中には、自分の食べているものを与えていたり、おやつばかり与えていたりする方もいます。しかし、そうしたことを伝えると、獣医師に怒られるんじゃないかと本当のことをなかなか打ち明けてくれません。私の仕事は、きちんと話してもらうことが治療のスタート地点です。飼い主さんから聞き出すことは簡単ではありません。動物たちは話をできませんので、治療を行うためには飼い主さんから話を聞き、診断するための資料が必要です。本来やってはいけない部分をいきなり指摘して、飼い主さんが萎縮してしまっては治療につながりません。どうやって本音を聞き出すかに重点を置いています。
話を聞き出すためにどのような取り組みをされていますか?
飼い主さんと打ち解けたくて、自分の好きなアイドルや映画などのグッズを置いています。会話が弾んで話が脱線することもあり、「獣医師として自分はどうなんだろう?」と思うこともありますけどね。私が心がけているのは、専門用語をなるべく使わずに話すこと。それから飼い主さんにわかりやすい例を交えてお話することです。私は獣医師ですが、本当は動物好きな動物オタクです。好きを仕事にしているだけなんですよ。専門はと聞かれたら、「噺家です」とお答えしています。飼い主さんと打ち解けたくて、つい話しかけてしまうんですね。
動物の幸せについてどのような考えをお持ちですか?
何が幸せで豊かなのかは、飼い主さんの考え方や住んでいる地域で違うと思います。洋服を着せる・高いフードを与える・治療費にお金をかける。どれが本当の幸せなのかは、私にもわかりません。他人に評価されるものではなく、飼い主さんと動物が幸せならいいと思います。
ペットの一番の主治医は飼い主本人
獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
小さい頃から動物好きでした。中学3年の頃に、将来に向けて、自分は何が好きなんだろうと考えました。その頃、飼っていた犬がフィラリアで亡くなり、初めて動物病院や獣医師の存在を知って。愛犬が亡くなったのがとても悔しくて、自分で治してやろうと思ったんです。映画監督になりたいという夢もあったのですが、その時は高校時代の英語の先生に「芸術の才能はどこに行っても芽が出るもの」と言われましたね。確かにその先生のおっしゃるとおりで、医師免許を持つ有名な漫画家も、芸術の才能を発揮させていますよね。残念ながら、私はまだ芽が出ていませんけれどね。
ペットロスの飼い主さんのケアをされているそうですね。
ペットロスのケアを行うきっかけになったのは、開院当初に来院した猫です。ベストを尽くして治療に当たりましたが亡くなってしまいました。その後、飼い主さんがペットロスで自殺未遂をしたのです。それを知ったテレビ局が、その飼い主さんがペットロスからリハビリを行い、回復していく過程をドキュメンタリーにして撮影していました。当院でも撮影を行い、その方にお話を伺いました。ご自宅に骨壷があると聞き、どこかへ散骨か納骨をお勧めしました。石垣島には思い出があるとおっしゃられたので、「毎年会いに行けていいですね」と背中を押して。その方は散骨後に気持ちを整理され、石垣島から戻った後すぐ、新たに子猫の里親になられました。決して特別なことはしていませんが、自分のペットが亡くなったらどんな気持ちになるか考え、自分なりにアドバイスしているつもりです。
獣医師になって良かったと思うことはありますか?
この仕事のおかげで、いろいろな方に出会うことができました。雑談を交えて、飼い主さんたちと仲良くなれるんですよね。友人の獣医師は、患者さんの職業まで聞くことはないと言います。私の場合は飼い主さんから少しでも専門用語が出ると、率直にご職業を伺いますよ。例えば、映画関係の方やタレントさんなど、自分が好きで憧れている世界にいる方たちと人間関係が築けるのも、この仕事をしているおかげだと思います。患者さんとの交流で、私自身とても楽しませてもらっています。
それでは最後にメッセージをお願いします。
先日もありましたが、危険な状態になってから突然ペットを連れていらっしゃる方もいます。もちろん、その方なりの事情があってのこととは思いますが、ペットの一番の主治医は飼い主さんです。食欲や排泄など、日常生活で少しでも気になることがあれば、ぜひ動物病院に気軽に来てみてください。ただの思い過ごしでも構いません。私たち獣医師も万能ではありませんし、普段からお話をさせていただくことで、いざという時にコミュニケーションがスムーズにできると思います。