小原四郎 院長の独自取材記事
おばら犬猫病院
(大田区/西馬込駅)
最終更新日: 2023/01/22
西馬込駅から徒歩約15分。2012年春に開院した「おばら犬猫病院」は、若き院長である小原四郎獣医師を中心に、開院後間もないながら早くも近隣のペットオーナーから信頼を集めている。気になる患者には診察後に電話でフォローしたり、高度医療が必要な患者を専門の医師へ紹介するときには、時間の許す限り付き添ったり。患者の気持ちを思いやる、小原院長のきめ細やかなケアは、地域に密着した歯科医師として長年活躍を続けている父の影響も受けている。最近は特に緩和ケアに注力。イヌやネコの痛みや苦しみを取り除き、できる限り安らかに寿命をまっとうして欲しいと、思いやり溢れる医療を実現する。「ペットがここへ来るのを楽しみに思ってくれるような、心地良く快適な治療を提供したいですね」と語る院長に、開院後約1年半が経過した現在の様子と今後の展望を伺った。 (取材日2013年11月15日)
幼少期、優雅に走る馬の姿に憧れて獣医師を志望
獣医師をめざしたきっかけを教えてください。
はじめのきっかけは、子どもの頃、馬が大好きだったということ。ときどき、父と一緒に府中競馬場へ馬を見に行ったのですが、馬の走りは本当に優雅で足の筋肉もきりっと引き締まって美しいんですよ。とにかく馬が大好きだったので、やがて自然と「将来は馬を診察する獣医師になりたい」と思うようになりました。しかし、大学へ進むと授業で扱うのはイヌやネコなどの小動物が多く、次第にそれらがとても可愛らしく思えるようになったんです。そこで方向転換し、大動物ではなく小動物専門の獣医師になろうと思いました。幼い頃、私はアレルギーを患っていたのでイヌやネコを飼うことができなかったのですが、大学に入るときにアレルギーチェックをしたらいつの間にか治っていたんですよ。「よし、これで獣医師になれる!」とホッとしましたね。
隣の「小原歯科医院」はお父様のクリニックなのですね。
そうです。父はこの場所でもう40年くらい歯科医院を経営していて、私も父の仕事ぶりを近くで見ながら育ちました。父は昔から、一人の患者さんにじっくり時間をかけて丁寧に診察することをモットーにしており、父が患者さんから深く感謝される様子を目にするたび、「人の病気を治す医師は、とても責任感の大きな仕事であり、同時に、やり甲斐も大きな仕事なんだな」と感じていました。どんなに忙しくても患者さんに対する態度を変えず、いつでも丁寧に接する父の姿を私自身とても尊敬していましたから、現在父とは診療科目がまったく異なりますが、それでも同じ医業に携わる者としてそういう父の姿勢を私も受け継ぎたいと思っています。
先生はこちらのクリニックの設計にも携わっているのですか。
そうなんです。現在、1、2階はクリニックに、3階は自宅として使用しているのですが、あまり土地が広くなかったということもあり、はじめから診察室は2フロアを使用しようと思っていました。そのため、大型犬が来院してもフロア間をらくに移動できるよう、エレベーターを設置するなどして、スムーズな動線を確保することを心がけました。そのほか、みなさんに気軽に足を運んでいただけるよう、室内をピンクや白など明るい色でコーディネート。待合室では、犬種ごとにケアの仕方などをスタッフがまとめ、小さいパンフレットにして用意しているのですがそういう手作り感も「親しみが持てていいですね」と、ペットのオーナーさんに好評をいただいています。
できる限り、痛みと苦しみを取り除きたい。心安らぐ緩和ケアに注力
診察をする上でモットーとしていることを教えてください。
まず大切にしていることは、できる限りきめ細やかなフォローをすることですね。たとえば、ちょっと状態が気になるイヌやネコが来た場合、治療を終えて帰られた後にこちらからお電話をかけ、「その後の具合はいかがですか」など、お聞きすることもあります。あまり状態に変化がなくとも、こちらから一本お電話を入れるだけでオーナーさんも安心なさるでしょうし、ちょっと気にかかることがあって不安になっていた場合などは、「実は…」とご相談を受けることもありますね。そのほか、専門性の高い獣医師に任せたほうがいいという場合は、できるだけ早めに診断をつけ、高度医療を提供する病院をご紹介するようにしているのですが、ご紹介の際には時間の許す限り、私自身もオーナーさんと一緒に病院へ出かけ、診察に立ち会うようにしています。
紹介した病院へ先生も付き添われると、オーナーさんも安心ですね。
その後の治療をどちらの病院で行うかはわからないとしても、診断結果をオーナーさんへお渡しして終わりにするよりも、初診を行った私自身が診断内容をお伝えしたほうが、その後の診察もスムーズになりますし、私自身にも良い勉強になりますね。開業すると、大学病院などにいるときとは違って、ほかからの刺激があまり入ってこなくなり、医療技術を成長させる機会が少なくなってしまいます。そのため、できる限り、他の獣医師と情報交換をしたり、外部のセミナーに参加したりして、最新の医療技術を身につける努力は欠かせないと思っています。
今、もっとも注力している分野はなんですか。
ガンなどを煩い、余命が残り少なくなったペットに対する緩和ケアです。社会では、人間に対する終末医療のあるべき姿が時折話題になりますが、それと同様、イヌやネコの終末医療もきちんと考えなければならないテーマだと思うんです。命のおわりが見えたイヌやネコに対し、その痛みや苦しみを取り除き、できるだけ心安らかに最後の時を迎えられるようにするにはどうしたらいいのか。対処法は一匹一匹異なりますし、マニュアル通りにいくものでもありません。実は、私の兄がこの近くで人間の在宅医療を行うクリニックを開業しているのですが、「こんな場合、人間を相手にしていたらどうやって治療する?」などと兄に相談し、別の視点からのアドバイスをもらうこともあります。もちろん、どの患者さんにも最期のときはやってきます。しかし、最期まで全力を尽くして治療に当たり、亡くなったあとに患者さんから「先生に最期まで診てもらえて良かったです」と言ってもらえたときは、獣医師としてのやり甲斐を感じますね。
イヌやネコが喜んで足を踏み入れるような動物病院をめざして
ホリスティックケア外来・しつけ方教室も行っているのですね。
鍼灸など、人間を対象にした東洋医学の注目度がますます高まっている現在、それらをイヌやネコに適用しようという動きも見られ、ここ数年ホリスティックケアに対するオーナーさんの関心も少しずつ高くなってきました。 私の従兄弟がホリスティックケアを専門としている獣医師で、当院でも非常勤としてマッサージや、漢方薬、鍼灸などの治療に当たってくれています。また、しつけ方教室に関しては行動学を学んだ看護師が担当しています。相談の多い無駄吠えや甘噛みのことなどを含め、犬を飼うのが初めての方でも無理なくしつけ方を覚えていただけるよう個別にお教えしています。しつけ方教室に来ている犬同士の交流も定期的に行っていて飼い主さんからは大変好評です。
プライベートについてお聞きします。健康維持のために、気をつけていることはありますか。
肩こりがちょっとひどかったので、3ヵ月前からスポーツクラブへ通い、ランニングや筋トレをするようにしました。昼休みを利用して、週3回くらい通っているでしょうか。おかげで肩こりは解消され、体調も万全です。長い休みが取れたらいろいろ出かけたいなと思うのですが、現在はペットホテルも営業しているため、なかなか家をあけることができなくて。でも、おかげさまでペットホテルは好評で、特に、同じくここで獣医師を務めている妻がブログでペットホテルの様子をアップしており、オーナーさんにケアの様子をご覧いただいていることもあって、年末年始や夏休みなどは満室になることも多いんですよ。できるだけ室内で遊ばせるようにしているので、長い休みはイヌやネコと一緒に遊んで終わることが多いですね(笑)。
最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
たとえば、「ペットフードはどれくらいの量を与えるのがいいの?」など、「こんなことをわざわざ動物病院で相談してもいいのだろうか」と迷われるようなことでも、気軽に相談していただきたいと思いますね。悩みにお答えするだけでなく、「ほかにはこういったフードもありますよ」など、ご質問から派生した答えをお返しすることもありますし、会話をするなかから病気の初期傾向をつかむこともあります。実際、こちらの患者さんがお散歩途中に動物病院の前を通りがかったとき、入りたそうにドアの前で立ち止まる仕草をすることがあるのですが、そういうときでも「遠慮しないで、どんどん入ってきてください」とお伝えするようにしています。顔を見て、元気な様子を確認するだけでもうれしいですから。私のめざす動物病院は、イヌやネコが喜んで足を踏み入れるクリニック。診察に訪れるイヌやネコは、どうしても不安な表情をしているものですが、「ここへ来れば楽になれる、楽しい気持ちになれる」と彼らに実感してもらい、笑顔で足を運んでくれるような信頼関係を築きたいと思っています。