渡辺敏道 院長の独自取材記事
はごろも動物病院
(立川市/立川駅)
最終更新日: 2023/01/22
2013年に開業した「はごろも動物病院」。待合室は明るく清潔感にあふれ、診察室は広々としてゆとりがある。渡辺敏道院長は穏やかな口調とやわらかな笑顔が印象的で、ささいな相談でもしやすい雰囲気だ。「犬と猫をオールマイティーに診られるかかりつけ医をめざす」という渡辺院長は、何よりも患者とのコミュニケーションを重視しており、獣医師からの一方通行の発信にならないように心がけている。怖がりな犬や猫に対しては、最初に笑顔でひとしきり遊び、警戒心を抱かせないようにするなど工夫して動物と接している。トリミングサロンやホテルを院内に併設しており、土日も診療しているので、忙しい飼い主たちに頼りにされている存在だ。犬へのしつけのコツや、動物と人との距離感の取り方から、ご自身の趣味にいたるまで、じっくりと話を伺った。 (取材日2014年8月1日)
一方通行にならないコミュニケーションを心がけて
開院するに至った経緯を教えてください。
北里大学を卒業して、開業医院に4年間勤務した後、2013年2月に開院しました。この場所は、実家に近かったこともあって選びました。開院の際に配布したチラシを見てくれたのか、中学の同級生が来院してくれ、そういうご縁は本当にありがたいことだと感謝しています。もともと開業志向があり、自分では手に負えない病気は大学病院に紹介するなどの判断を含めた、どんな病気でもオールラウンドに診られる地域のかかりつけ医をめざしていました。そのために必要な技術的なことや医療の知識、経験、仕事に対する姿勢、判断力も、これまでに勤務した医院でしっかりと学ばせてもらいました。退職の準備をしている時は、多くの飼い主さん達が別れを惜しんでくださり、治療していたペット達を新しい担当医へ引き継ぎをするのですが、その時の飼い主さん達の不安そうな表情を見てとても複雑な気持ちになりました。自分の成長のためとはいえ、飼い主さん達を裏切るような、いたたまれない気持ちになりました。その時から、自ら開院すれば自分も飼い主さんもお互いにそんな気持ちにはならないのではないかと思うようになりました。今振り返ってみると、社会人としても最初の一番大事な時期に素晴らしい環境で仕事をさせて頂くことが出来た事が自分の財産になっています。
患者層はいかがですか。
犬種でいうとプードルやチワワ、一方で猫を連れて来院する方もかなりいらっしゃいますね。このあたりは野良猫がいっぱい住み付いていて、その子たちを拾ったり、地域の方たちが面倒を見ている地域猫たちも多いからだと思います。
診療の際のポリシーを教えてください。
会話のやり取りが一方通行にならないように気をつけながら、飼い主さんとのコミュニケーションをしっかり取ることが一番大切だと考えています。こちらが伝えたいことを話すだけでなく、飼い主さんがその話をどのように理解して、どう捉えているかということを常に意識して接するようにしています。ただ、飼い主さんの考え方や性格も本当にお一人おひとりまったく違うので、なるべくたくさんお話しながら、ご要望を引き出していけたら、と考えています。その結果、病院と飼い主さんとの信頼関係を築いた上で、検査や治療をできればいいと思っています。
印象に残る患者さんのことを教えてください。
50、60代の女性が連れて来たビーグル犬のことが印象に残っています。レントゲンや血液検査をした結果、肺に腫瘍を見つけて、私ががんの診断をしました。病気についての説明をした上で、こちらに通院するという選択肢と、大学病院の腫瘍科で高度な医療を受けるという選択肢があることをお伝えしました。その後、大学病院を受診されたのですが、特に目新しい治療法や薬の提示はなかったようで、結局、こちらに通院されることになったのです。その女性はもともと、人と動物の距離感がわりとある飼い方をされていたのですが、がんになって、「こういう風にご飯をあげましょう」とか、「よく様子を見てあげましょう」とお伝えしてからはビーグル犬をよく観察して、手をかけてあげるようになりました。手をかければかけるほど可愛くなったようで、「ペットへの愛情の持ち方やペットを飼うことの素晴らしさを教えてもらった」とおっしゃって、とても感謝されていましたね。獣医師としてのやりがいを感じました。
言葉を話せない動物たちの気持ちを理解することも獣医師の仕事
言葉の通じない動物と接する際に気をつけていらっしゃることを教えてください。
人間も第一印象が大事ですよね。動物も同じです。ペットホテルやトリミングでお預かりの時に、「怖い事をしないよ」「悪い人じゃないよ」ということを伝えるように努めています。具体的には、預かって、お部屋の中で笑顔で声をかけてテンションを高くして触ってあげます。緊張や不安で縮こまってしまうような子たちには特に有効です。こちらが笑顔になっていることは、動物にも通じますよ。また治療や処置に対して攻撃的になってしまう子に対しては、私が何をどうするのかをわからないように、エリザベスカラーを付けて視覚を遮ってあげます。これは余計な不安感を与えないようにする工夫の一つです。付けることを嫌がりストレスの方が大きくなってしまう場合は付けません。人間だって、太い針を見せられて、これが今から自分に刺されるんだと思うと怖いですよね。一方で診察台の上で怖くて固まってしまう子もいて、そのような姿を見るとそれはそれで可愛らしく思います。動物は言葉をしゃべってくれないですけれど、彼らの気持ちまで理解してあげるのが私たちの仕事だと思っています。
怖がりの動物への接し方で、工夫されていることはありますか?
特に、ケージに入れるときに怖がる子が多いんです。ケージにすぐに入れてしまうと、不安が強い子の場合には、出すときに「うーっ」と唸って警戒してしまう。それを無理矢理出そうとすると、噛まれてしまうこともあります。そこで、ケージに入れてから1、2分遊ぶようにしました。そうすると、ケージから出す時にも「あ、この人は悪い人じゃないな」と思って、素直に来てくれるんです。怖がりな子に対しては、毎回遊んであげています。日々の診察の中で、さまざまな性格の動物と接して、噛まれそうになったり、引っ掻かれたりしながら、自然と身に付いてきましたね。
ちょっとした異常でも、先生に相談してもよいのでしょうか?
一回でも吐いたり、下痢したりという場合でも、獣医師の立場からすると、本当は診せてくださいと言いたいですね。もちろん、獣医師によってスタンスの違いがあると思いますが、私はそう考えています。ただの下痢だったら、それはそれでいいんです。ですが、思わぬ病気が潜んでいたり、様子を見ているうちに悪化してしまうということもありますからね。時間もお金も手間もかかることですから、あまり強くは言えませんが、ちょっとでも異常があれば受診していただく、それが難しければ、お電話をしていただければ、お応えできることもあると思います。
短いスパンでの定期検診の受診を呼び掛けていらっしゃると聞きました。
人間でも、病気の早期発見、早期治療は大切です。つい、忘れがちな事実だと思うのですが、動物は人間の4倍くらいのスピードで生きていますから、「3ヶ月に1回」の受診が、人間で言えばちょうど「1年に1回」の受診のペースと同じということです。つまり、早期発見、早期治療が人間よりもさらに大切になってくるのです。残念ながら、半年に1回受診していても病気を見つけられないこともあります。「1ヶ月前は大丈夫だったのに」と、歯がゆい思いをすることすらあります。7歳以上なら、3ヶ月に1回くらい検診を受けていただいてもいいのかもしれませんね。身体検査だけではわからないことがたくさんありますので、レントゲンや血液検査も行っていただきたいです。
人と動物のいい距離感をキープして長く幸せに暮らしてほしい
院内ではトリミングもやっていらっしゃるのですね。
トリミングに関しては、動物のQOL(クオリティーオブライフ)の向上を願って行っています。獣医師の診察はどうしても5分、10分で終わってしまいますが、トリマーさんは2、3時間ずっと触り続けているので、皮膚のここに小さなしこりがあったとか、すぐ座ってしまうなど、すごくよく観察して、さまざまな異常を見付けてくれます。病気の発見につながることもあって、とてもありがたいことです。動物たちもきれいになったほうがすっきりして気持ちがいいでしょうし、飼い主さんも可愛くカットされた子を見て、見違えたと思って喜んでくれると思います。人と動物がともに幸せになれる手段の一つだと考えています。
しつけで悩んでいる飼い主も多いと思いますが、しつけのコツはありますか?
しつけの基本は、褒めるということです。重要なのがご褒美をあげるタイミングです。犬に「待て」と命令して、それができたとしますね。きちんと「待て」ができたときにあげるのはもちろんいいのですが、最初はできていたけれど、時間が経って動き出してしまったときにあげてしまうと、「動く=ご褒美がもらえる」と犬が勘違いしてしまいます。それは正しいしつけではありません。コツは、短時間で行うということです。最初は3秒や5秒でいいのです。我慢出来たら、その瞬間にご褒美をあげて、少しずつその時間を長くしていくのです。できないときは、仕切り直して本人が落ち着いてからもう一回トライしましょう。なるべく、子犬のときにきちんとしつけをして、それを維持していくことが大切です。それが、人を守ることになりますし、動物を守ることにもつながります。「可愛い、可愛い」と、愛情が行き過ぎて甘やかしにつながって、飼い主さんが動物に噛まれてしまったり、また動物が病気になってお薬を飲ませたいのに抵抗して飲ませられず、病気が良くならなかったり、飼い主さんにとっても動物にとっても、トラブルの根本的な原因になってしまっていた例を見てきたからこそ、強くお伝えしたいと思います。
お忙しい日々の中でのリフレッシュ方法を教えてください。
自然豊かなところをドライブすることがいい気分転換になっています。奥多摩や、時には山梨県の方まで足を伸ばして、行った先で、その土地のおいしいものを食べるのも楽しみですね。学生時代も食べ歩きが好きで、わざわざ遠くの有名なラーメン屋さんに足を伸ばすこともありました。ドライブマップや旅行雑誌を見るとつい買ってしまいます。ただ、土日も診療していて、お休みがあまり無いので、そういうものを眺めるだけで満足しています(笑)。ずっとクリニックの中にいて、どうしても行動範囲が狭くなり、運動不足になってしまうので、筋トレやランニングは続けています。
最後に、「ドクターズ・ファイル」読者へのメッセージをお願いします。
私は人と動物の関係性のバランスが大事だと思います。飼い主さんの生活が充実していて幸せで、それで初めて動物たちも本当の意味で幸せになれるのだと思います。飼い主さんが可愛さのあまりご自身の生活より動物を優先し過ぎてもいけないですし、逆に動物への愛情不足もいけません。人も動物もその存在がお互いに恩恵となっています。ただしどちらかが一方の負担になり過ぎては良くありません。人と動物の関係性が崩れてしまった時、あるケースでは動物が精神的な自立が出来ず、飼い主さんへの依存が強すぎてしまい分離不安症になってしまう事もあります。また人と動物の順位が完全に逆転してしまう事もあります。ですから、人と動物の関係性はいい距離感をキープしていって、人も動物も長く幸せに暮らしていただきたいと願っています。