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予防が難しい呼吸器の病気 気管虚脱の完治をめざす

上大岡キルシェ動物医療センター

(横浜市南区/弘明寺駅)

最終更新日: 2021/10/12

かつては中高齢の小型犬が発症する病気とされていた、気管虚脱。気管がつぶれて呼吸がしづらくなり、やがて死へ向かう病気だ。現在は動物医療の発達や健康診断の浸透により、若齢での発症や、ヨークシャー・テリアやポメラニアンなどの好発犬種でも発症することが明らかになった。原因は気管への負担や遺伝などが疑われているが、まだはっきりわかっていない。加えて敏感な気管の粘膜が手術を難しくしていたが、近年に画期的な「PLLP法」という手術が開発された。これは気管の粘膜を刺激せず、完治をめざす外科治療である。「上大岡キルシェ動物病院」の山下智之院長に、気管虚脱の特徴や治療方法、飼い主ができる予防についてうかがった。(取材日2016年5月19日)

敏感な気管の粘膜に刺激を与えないPLLP法による外科治療

  • Q.この病気の特徴をうかがえますか。

    A.

    ▲複数の体勢からレントゲンを撮影し、症状の進行度を把握

    口、鼻から肺をつなぐ気管がつぶれ、呼吸がしづらくなる病気です。気管は首の頸部気管と胸腔内の胸部気管に分かれています。この境目からつぶれ始め、そこから頸部気管に広がり、次に胸部気管、最後は全てに広がります。徐々に進行することが多いものの、ある日突然、窒息に近い呼吸困難になってしまうケースもあります。ヨークシャー・テリア、ポメラニアンに特に多く、次いでチワワ、トイ・プードルに見られます。小型犬に目立つ病気ですが、柴犬やゴールデン・レトリーバーも要注意。主に考えられる原因は、首輪などによる首の圧迫、吠えによる気管の負担、栄養性の問題です。発症しやすい犬種が明らかなので、遺伝の可能性もあります。
  • Q.どのような症状があらわれ、進行していくのでしょうか。

    A.

    ▲レントゲン画像を用いて気管の様子をわかりやすく説明してくれる

    最初は乾いた「ケホケホ」というからせきが出ます。次に呼吸音が「フゴフゴ」というブタの鳴き声のようになり、やがて「ガーガー」というガチョウの鳴き声のようになります。末期になれば呼吸困難を起こして窒息死に至る怖い病気です。中高齢になってから発症した場合、喉頭麻痺、心臓病、消化器の病気などを併発していることがあります。気管虚脱は細いストローで呼吸しているような状態ですので、その分思い切り、息を吸い込み、吐き出さなければなりません。そのため胸腔内に高い吸引圧がかかり、ほかの呼吸器や臓器にも悪影響が及ぶのでしょう。
  • Q.予防するために飼い主さんができることは?

    A.

    ▲重度の症状になると手術困難なケースも出てくるため予防が大切だ

    原因がはっきりわかっていないので、予防が難しい病気です。とはいえ、気管に負担をかけないように工夫することは、たいへん有効だと思います。特に発症しやすい犬種は、日頃から首輪より胴輪(ハーネス)を使ったほうがよいでしょう。胴輪は面積が広いジャケットのような形で、リードを背中に付けるタイプがおすすめです。リードを引いたときの衝撃が分散され、首が圧迫されるのも防ぎます。興奮して吠え続けることもリスクになるので、自力での工夫が難しいと思ったら、しつけや行動治療の専門家に相談しましょう。
  • Q.気管虚脱の治療方法についてうかがえますか。

    A.

    ▲PLLP法で用いるプロテーゼ。気管の外側に縫い付ける

    内科、外科両方の治療法があります。内科治療は根治療法ではないのですが、主に気管支拡張薬や鎮咳薬を使用し、肺に入る気管支の末端を広げ、咳を抑えます。外科治療は主に二つの方法があります。一つは内視鏡を使い、気管の内側にステント材を設置して広げる気管内ステント設置術。二つ目は気管外プロテーゼ設置術。これはのどを切開し、気管の外側にプロテーゼを縫いつけて気管を広げます。気管外プロテーゼ設置術の中に、アトム動物病院動物・呼吸器病センターの米澤院長が考案された、PLLP法という手術法があります。私も直接ご指導いただく機会に恵まれ、私の手でもこのPLLP法を用いて気管虚脱に苦しむ犬を救えるようになりました。
  • Q.外科治療のメリットを教えてください。

    A.

    ▲精巧で繊細な作業が求められるため、手術器具もサイズが小さい

    外科治療を行えば、呼吸自体は術直後から楽になります。再発は少なく、根治が可能と考えてもよいでしょう。気管内ステント設置術は切開がない分、手術中のダメージが少ないことが大きなメリットです。デメリットは気管の内側に異物が設置されているので、術後に異物感を感じやすく、咳が出てしまうケースもあるということですね。一方、PLLP法では、プロテーゼ設置のために切開が必要になるのですが、設置後に気管内腔に出る縫合糸は2週間程度で粘膜に被われるため、気管内に異物がない状態になります。そのため、術後に異物感や刺激が残りません。術後の生活の質などを考慮し、可能な場合はPLLP法を第一選択としてご提案しております。

動物病院からのメッセージ

山下智之院長

気管虚脱を発症した犬のご家族にうかがうと、小さい頃から水を飲むとむせていたとおっしゃる方が多いです。生まれつき気管が過敏なのかもしれません。発症リスクがある犬種は気管の負担を減らすよう心がけましょう。子犬の頃から胴輪を使い、食事や水は小分けし、勢い良く飲み込ませないようにしてください。夏はパンティング(荒い呼吸)が多くなるので、気温に配慮しましょう。冬は乾燥により気道の粘膜がくっつくことがあり、湿度にも気をつけた方が安心です。加えて健康診断時には気管の聴診と「コフテスト」をしてもらいましょう。発症していたとしても早期発見・治療ができます。ご心配な様子が見られましたら、ぜひ当院にご相談ください。

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