松坂 聡 院長の独自取材記事
エムペットクリニック
(三鷹市/三鷹駅)
最終更新日: 2023/01/22
三鷹駅から徒歩10分。のんびりとした景色が広がる住宅街にガラス張りのきれいな動物病院「エムペットクリニック」が現れる。「散歩のついでに」「薬をもらいに」と次々に訪れる患者の対応を忙しくこなす松坂聡院長は、異色の経歴を持つ獣医師だ。地域の患者のため、一次診療として大切な予防や診断を重視し、ペットのホームドクターとしてのスタンスを守り続けて来た。今回は、3匹の看板猫とともに歩むクリニックの現在・過去・未来の姿を院長自ら熱く語ってもらった。 (取材日2016年11月29日)
獣医としては異色の経歴を持つ院長
先生が獣医をめざしたきっかけは何でしょうか?
実は、もともと牧場で働きたかったんです。それで、ツテをたどってお手伝いをさせてくれる牧場を一生懸命探して、高校1年生の頃から夏休みになると研修に行っていました。北海道まで鈍行列車に乗って(笑)。牧場に興味を持ったのには、これと言って特別なきっかけがあったわけではありませんが、東京で生まれてずっと育って来たので、大自然に憧れたところもあるんでしょうね。その後、「牧場で働くにしても、何か手に職を持っておいたほうがよいのではないか?」という父の助言に従い、それなら獣医師免許を取得したいと思いまして、酪農学園大学の獣医学部に入りました。
そこからこちらで動物病院を開院されるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?
残念ながら牧場で働く機会を得ることができず、卒業後は製薬企業で研究員として働いていました。その中で会社を離れるきっかけがあり、街の動物病院になろうと決心しました。今、10数名の先生方と毎月勉強会を開催しているのですが、その中の一人の先生に弟子入りをして勉強をさせていただきました。その先生には丁寧に教授していただき早くに自立ができるようになったのを感謝しております。開業したのは2005年です。そういうわけで、他の動物病院の先生とはちょっと違う道を歩んで街の獣医になりました。
クリニックの雰囲気もとても明るくて素敵ですね。
ありがとうございます。もともと地元ということもあり、この辺りで物件を探していたのですが、この前の通りがとても気に入っていまして、この通り沿いで開業したいな、と思っていたら、ちょうどここが空いていたんです。道路って不思議なもので、広すぎても狭すぎてもだめ。1台ポンと止められるくらいの幅がちょうどいい。表向きで全面ガラス張りのところも気に入っています。ここは上がマンションになっていて、犬を飼っていないと住めない、というちょっと珍しい物件なんですよ。ですからお隣もトリミングサロンが入っていて、ペットとペットを飼う人のための建物になっています。
地域の窓口として診断に不備があってはならない
患者さんは地域の方が多いのでしょうか?
そうですね。僕自身も地元の方に来ていただくことを考えて開業以来続けてきました。割合としては犬が多いですが、ここには猫もいるせいか、猫の患者さんも多くいらっしゃいます。スタッフにも犬好き、猫好きがそれぞれいますね。僕の妻もここを手伝ってくれているのですが、本当に動物が大好きで、飼い主さんともコミュニケーションを取ってくれます。実は、妻に会いたいから、と来てくださる飼い主さんもいらっしゃるんですよ。うれしいことですよね。疾患としては一般的に多いと言われている皮膚病、心臓病などの患者さんがやはり多いように思います。あとは腎不全ですね。消化器症状で来院する患者さんもいます。
診察の際にはどのようなことを心がけていますか?
僕は、動物病院というのは小児科と同じようなものなのかな、と考えています。小児科の先生はお母さんとお話しして赤ちゃんの病気を見つけますよね。動物病院は飼い主さんとお話をして、ペットの病気を見つける。当然、飼い主さんときちんとお話をしなくてはいけないですし、できる限りわかりやすいような説明を心がけています。説明の際には言葉だけでなく、文字や写真などを見るとよりわかりやすくなると思い、モニターも使用していますよ。
このクリニックの強みはどのような部分だとお考えですか?
僕は大学を卒業してからのブランクがあるので、まだまだ経験年数も少なければ勉強しなくてはいけないこともたくさんあります。ですから、あまり手を広げすぎるのではなく、地域の一次診療の窓口として取りこぼしなくきちんと診療することに重きを置いています。その分、逆に専門性を持たないようにはしていますが、患者さんの中でどういう病気が多いのか、ということは常に頭に置いておかなくてはいけないので、他の先生との勉強会では皮膚病や心臓病を扱うなどしています。また、一次診療という点では予防にも力を入れており、予防接種や検診などの年間スケジュールを組み、飼い主さんに「やってみよう」と思っていただけるようアナウンスしています。
二次診療についてはどのような対応をされているのでしょうか?
地の利がとてもよいので、二次診療に関してはきちんとした病院をご紹介できます。すぐ近くの武蔵境には日本獣医畜産大学もありますし、少し遠いですが、水準の高い医療を受けられる川崎の日本動物高度医療センターをご紹介することもあります。それから最近、ダックスフンドに限らず、他の犬種でもヘルニアが増えているんですよ。そこで、杉並に迅速に対応してくれる整形外科に強い病院があるので、そちらをご紹介しています。どのような病気にしても、必要に応じて早い段階で専門の病院をご紹介するようにしているんですよ。そのほうが、検査はこの病院で手術はあの病院……というように飼い主さんがあちらこちらに振り回されることもなくなります。ペットにとっても飼い主さんにとっても、負担が少なくなりますよね。
いつでも入りやすい病院であることが目標
近年はペットの高齢化も進んでいますが、どのような考えをお持ちですか?
これは僕自身の考え方なのですが、高齢になったら食べたい物を我慢させたりせずに、好きにさせてあげたいと思っているんですよ。たとえば飼い主さんに「ご自身は100歳まで生きる自信がありますか?」と聞くとほとんどの方が「NO」とおっしゃいます。「では、100歳まで生きたいですか?」とうかがっても、「NO」とおっしゃる方が多いです。それでは、ワンちゃんはどうなんでしょうか? どんなに頑張っても20歳まで生きられる子は少数です。それならば、好きなことをさせてあげたいと思うし、飼い主さんにとっても後悔が少なくなるのではないかな、と。もちろん、飼い主さんがとことん治療を望まれるか、それとも看取り方を大切にしたいのか、という部分はしっかりお話を伺いますが、僕自身がうるさく生活指導をしたりはしていませんね。
こちらのクリニックには看板猫がいるそうですね。
最初は娘が拾って来た猫をここで飼い始めたのがきっかけですが、今では3匹いますよ。茶トラの子がとても社交的なんです。待合室にもよく顔を出して、抱っこしてくれそうな飼い主さんの膝に乗ってみたり、遊んでくれそうなワンちゃんに構ってもらったり、来院した猫に挨拶したり。そのおかげか、猫の患者さんも来やすい雰囲気があるみたいですね。僕も妻もはじめは犬好きだったはずなのですが、ここで猫を飼ううちにすっかり猫好きになってしまって、今では自宅にも猫が4匹いるんですよ。かわいくて仕方がないですね。もう少し若ければ猫専門の病院を作りたかったな、と思うこともあります。
それでは最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
とにかく入りやすいクリニックにしたい、というのが開業以来の目標で続けて来ました。今では散歩の途中にふらっと寄っていただいて、体重を測って帰る方もいれば、「元気だよ」と顔を見せに来てくれるだけの方もいらっしゃいます。長い患者さんもいらっしゃいますが、新しい患者さんとも分け隔てなく接するようにしていますので、気兼ねなくお越しいただければうれしいです。僕自身の今後としては、先ほどの高齢化の問題でもありますが、ペットは今や家族であり、子ども同然。ですが、人間とは異なり、どうしてもペットのほうが先に亡くなってしまいます。子どもを失うことは言葉に尽くせないほどつらいこと。そこを生前からフォローできる手段をなんとか見つけていきたいです。