西武池袋線東長崎駅、都営大江戸線落合南長崎駅から徒歩5〜7分。目白通り沿いにある「相川動物医療センター」は、一見すると普通の動物病院だが、その治療内容は大きく異なる。院長の相川 武先生は、日本人ではまだ3人しかいない小動物外科専門医。そんな院長を中心に、当院では脳神経疾患や骨関節疾患、消化器系疾患など、外科治療に特化した治療を行っているのだ。なかでも定評があるのが椎間板ヘルニアの手術。再発が少ないと、治療を受けさせた飼い主の間で絶賛されている。専門医という特性上、患者の9割はほかの動物病院からの紹介だというが、院長の腕を聞きつけ、自ら来院する飼い主も後を絶たない。ほかの獣医師には手に負えない難病の手術の実績も多いと聞く獣医師界の専門医とは、いったいどのようなものなのだろう。世界的に評価の高い先生の椎間板ヘルニア手術の秘密にも迫った。
(取材日2013年7月23日)
―先生は外科の専門医だそうですね。
はい。僕は小動物外科専門医協会が認定する小動物外科専門医に認定されています。現在この資格を持つ日本人は3人おり、そのうち日本で活動しているのは僕を含め2人です。当院は、一般的な動物病院とは異なり、脳神経外科、整形外科、軟部外科などの分野でほかの獣医師には治療が難しい症例を扱っています。なかでも椎間板ヘルニアについては、多くの犬の手術を手がけてきました。そのほか、慢性的な関節の病気で、一般的な治療では治らないものや、取り切れなかった腫瘍を切除する手術など、様々な難病の治療にも取り組んでいます。
―先生の椎間板ヘルニアの手術は、再発が少ないと伺っています。
椎間板は、首から尻尾のつけねまで骨と骨の間にあって、クッションの役割を果たしているものです。これが外に飛び出したり、椎間板内にあるゼリー状の「髄核」が外に出てしまったりする病気を、椎間板ヘルニアといいます。犬の胸腰部椎間板ヘルニアの場合、95%くらいが第11胸椎から第4腰椎までの6か所から起こります。遺伝的にこの病気になりやすい犬種は、それらの椎間板が同時に変性を起こすため、そのうちの1ヶ所がヘルニアを起こせば、残りも同じように変性を起こしてきているんです。そのため、早ければ数週間以内、あるいは数年以内にほかの部分でもヘルニアが起こることがよくあるんです。そこで僕らは手術の際に、予防的造窓術という方法を用いています。これは、椎間板ヘルニアが好発する胸腰部椎間板に対して、病気の原因となる病的な変性を同時にすべて取り除くという方法です。そうすると、ヘルニアの再発が起こりにくくなるんです。
―その手術法は、先生が新たに考え出したものなのですか?
いいえ。この方法自体は以前からありました。ただ、再発を予防する効果があるとは言われながらも、それが本当なのか、あるいは合併症などの危険はないのかを確かめた研究報告が、これまでなかったんです。そのために、専門家の間でも意見がわかれる治療法だったんですね。そこで僕らは、これを検証することに決め、自分たちが手がけた椎間板ヘルニアの予防的造窓術約900症例について、その後十年間にわたって経過を調査しました。日本は、遺伝的にこの病気になりやすい犬種、ダックスフント、フレンチブルドッグ、ビーグル、シーズーなどにとても人気があります。僕たちにこの検証ができたのは、それだけ多くの症例データを得られるという環境にあったからなんですね。その結果、この方法が椎間板ヘルニアの再発予防にとても効果があり、かつ安全であることが証明できました。僕はこの結果を論文にまとめ、国内外に発表しました。そうしたところ、アメリカの権威ある専門誌に掲載され、おかげで日本だけではなく世界中の獣医師にこの治療法の効果を知ってもらうことができたんですよ。
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