東急池上線の蓮沼から徒歩5分。下町の雰囲気が漂う住宅街の中を歩くと、1988年開業の「おさだ獣医科病院」がある。院長の長田伸一先生は、日本大学農獣医学部(現在の生物資源科学部)を卒業後、福島県などで家畜診療に従事。しかし、家畜として価値がなくなると治療を続けられない家畜診療に違和感を感じたため、両親が高齢になったのを機に、自宅で診療所を開業した。院内には赤外線レーザーやレーザーメス、心電図、エコーなどの設備がある。飼い主が大切にしているペットを納得いくまで診てあげたいとの思いから、設備を充実させてきた。実直な語り口から、犬や猫に対する愛情の深さが感じられる長田先生の、動物たちに寄せる思いを聞いた。
(取材日2016年9月20日)
―開業までの経緯を教えてください。
もともと馬が好きで、日本大学の農獣医学部在籍中もアルバイトで大井競馬場へ通っていました。当時は、大井競馬場で働くのが夢でしたが、残念ながらそれはかないませんでした。実は馬の世界はとても狭くて、中央競馬会に入ったのは同級生で1人だけでした。そこで、福島県などで家畜診療に従事する道を選びました。当時の獣医大学では、牛や豚などを主体にしており、産業動物関係に進む学生もかなりいました。今でこそ動物病院が増えて、犬や猫などの小動物を診るケースが増えていますが、当時はその過渡期だったのかもしれません。そんな時代の流れもあったので、私も当然のように産業動物診療の道に進みました。
―産業動物の診療から開業に至った経緯を教えてください。
産業動物としての価値がなくなってしまうと、それでかかわりが終わってしまいます。最後まで病気やけがを治してあげたいと思っても、飼い主さんからもういいと言われてしまうと、そこで終わりになってしまいます。仕方ないのですが、つらい世界ですよね。一方、犬や猫などの小型動物は愛玩動物なので、飼い主さんといっしょになって、納得いくまで診てあげられます。獣医として動物たちとかかわったら、最後まで診てあげたいっていう思いがもともと強かったので、動物病院を開業することに決めました。開業前には横浜市内の動物病院に勤務したり、麻布大学付属病院で研修医として働いたりしてきました。開業を考えた当時は両親も高齢になり、そろそろ介護のことも考えなければならない時期でしたので、働きながら両親の面倒もみてあげられる自宅を選びました。
―普段はどのようなことをして過ごしていますか。
昔は休みの日にセミナーに参加するなど活発に動いていましたが、最近はこれといった趣味もありません。というのも、一時期体調を崩して、療養に専念していた時期があったからです。ただ、自分が大病を患って、実際にその痛みを経験したことで、体調が悪い動物たちの気持ちがものすごくよく分かるようになりました。ちょっとした病気やけがだと、大丈夫だって思いがちですよね。でも、自分で痛みを経験すると、そのつらさを自分のことのように感じてしまいます。だから、診察した動物たちを、なんとしても治してあげたいという気持ちが以前に増して強くなりました。
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