「終末期医療に対する考え方は、ペットも人間も一緒です」。そう話すのは、横浜市内で合計5院の動物病院を展開する兵藤哲夫先生。「あえて延命治療を行わず、穏やかに死を迎えさせるのも一つの方法」と続けるのは、相鉄線「希望ヶ丘駅」の近くに位置する「兵藤動物病院」本院の家入(いえいり)庄一郎院長だ。共通しているのは、「動物にも福祉を」という発想。生かすのではなく、天寿を全うすることによって動物のQOL(生活の質)を高めようというねらいが、その根本にある。したがって、治療面に限らず、飼養放棄の告発や里親を探す活動にも力を入れているのだとか。同院をあえて病院と言わず「地域一番店」と表現する両先生に、人と動物の新たな関係について取材した。
(取材日2015年8月31日)
―まずは、この道をめざされたきっかけを兵藤先生から伺わせてください。
【兵藤先生】私の実家は、静岡県の袋井市で個人商店を営んでおりまして、人間よりもむしろ犬や猫が利用するようなお店でした。また、田舎ですから動物病院も無く、昨日まで元気だった小動物の死に直面する機会が多かったんです。そうしたことから獣医師を志すようになりました。ところが、就職した県の衛生部では、殺処分が行われていたのです。さすがに「これは、違う」と感じ、横浜市にある「藤井動物病院」の藤井勇先生に弟子入りしました。藤井先生は当時、トップクラスの獣医師で、何より研究熱心。自分で開発した技術を現場に降ろし、業界の発展に尽力されていた方です。命に対する姿勢も真剣そのもの。基本は無休で、深夜まで仕事に取り組んでいた姿が印象的でした。ともに、今の自分につながっています。
―家入先生はどうだったのでしょう?
【家入先生】私は、熊本県の農家で生まれました。農家といっても牧場を経営していて、100頭ぐらいの牛に囲まれていたことを思い出します。病気の治療や出産などの場面を通じて、獣医師の仕事をよく目にしていましたから、自然と興味が沸いたのでしょう。実務を始めてみてわかったのは、飼い主さんに2通りの考え方があるということ。一方は、ペットを家族と同様に扱い、病気にかかってもできるだけ手厚く治療するタイプです。他方は、天寿をまっとうさせるというのかな。心臓病やがんなどの重大疾患に限られますが、治療に高額な費用をかけなくてもいいのではと考えるタイプ。大切にしたいという思いは同じなんですよ。ただ、「生かされている状態」を是とするかしないかの違いなんですね。このときの経験が、当院でも生かされています。
―両先生に伺います。動物に関係した趣味などはお持ちですか?
【兵藤先生】2人とも乗馬が趣味なんです。私は乗るというより、お土産にニンジンなどを持っていったりして、一緒に散歩するのが好きですね。馬は素直ですから、いつ行ってもウエルカム。一緒に同じ景色を見ていると、「同じ事を考えているんじゃないか」という気さえしてきます。コミュニケーションのレベルが高いところがおもしろいですね。
【家入先生】学生時代に競技馬術をしていたのですが、先輩に厳しく注意されることもあり、大変でした。しかし社会人になって競技を離れたら、突然楽しくなりましたね。人間がコントロールするのではなくて、一体になる感覚。馬任せにしておいても、何となく行きたい方向がわかっているみたいですよ。
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