武内雅道 院長の独自取材記事
麻布動物病院
(港区/麻布十番駅)
最終更新日: 2023/01/22
都営大江戸線、東京メトロ南北線の麻布十番駅、都営バスの仙台坂下、二の橋停留所どこからも徒歩5分以内というアクセスが便利な場所に「麻布動物病院」はある。開業は昭和40年、先代そして武内雅道院長が親子2代、半世紀にわたって、地域の動物医療に関わり続けている。武内院長が大切にしているのは「動物も人間も幸せになれる治療」。医学的には延命が可能な場合も、そうすることが飼い主や動物にとって幸せなのかを常に自問自答しながら治療に当たるという。そのために自らの知識や技術の向上を怠らない。そんな武内院長の真摯な姿勢や人柄を慕って、ほとんどの飼い主が長きに、そして定期的に「麻布動物病院」に通い、院長と共に動物の健康を守っている。 (取材日2014年10月8日)
時代の変化と共に室内犬の増加へ
獣医師をめざされた理由を教えてください。
この麻布動物病院は父が開院、私で2代目です。子どもの頃から、いつも動物が側にいる環境でしたね。当時はまだ動物病院やペットホテルも少なかったので、お盆やお正月の休みには私の部屋に組み立てゲージを置いて、えさをやったりトイレの始末をしたり、犬や猫の世話をしていました。ですから、獣医師になるのも、病院を継ぐのも、あまり抵抗はありませんでした。また、私は機械いじりが好きなので、そちらの方向に進みたいと思ったこともありますけれどね。でも今は、獣医師になって本当によかったと思っています。
麻布で生まれ育ったそうですが、子どもの頃と今と変わった点はありますか?
昔は一戸建ての住宅がたくさんあり、同級生もいっぱいいましたが、バブルの頃の地上げでずいぶん郊外に人が引っ越していきました。しかし近年、空き地になっていた場所にマンションが立ち始めて、こちらに移り住む方たちが増加してきたと感じています。また、庭で飼うような大型犬から室内で飼えるような小型犬が増えているのも特徴的ですね。
時代や地域の変化と共に、病院に訪れる動物にも変化が見られるということですね。
そうですね。当院に来るメインの動物は、犬猫が半々の割合ですが、最近はうさぎも増えています。やはり、室内で飼えるからでしょうか。動物業界では、いわゆる団塊の世代が退職された後にペットを飼う方が増えるだろうと予測していたのですが、リーマンショック以降はペットより自分の余暇にお金や時間を費やす方が増えていったこともあって、一時はペットを飼う方が減っていました。しかし、最近ペットの数が増え始めています。この辺りも例年より引っ越されてくる方も多く、当院でも新しいカルテが増えていますよ。
人間と動物が幸せになれることを考えた診察を大切に
環境も変わったことで、病気の傾向も変わってきたことはありますか?
昔の病気と今の病気はずいぶん違います。昔は猫の尿道結石でによる尿路閉塞がとても多かったんです。オスは尿道が細いので結石があると詰まって、おしっこが出なくて苦しむんですけどね。でも最近は結石に配慮したペットフードのおかげで、本当に少なくなりました。また、この辺りはほとんどが室内飼いで、熱中症の危険性が周知されていて、夏の暑い日はワンちゃん用にエアコンを使用される方も多くなりました。外で飼っている犬に多かった熱中症などはほとんど見られませんね。反対に多く見られるのは、犬の場合ですと、心臓病やアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど免疫疾患での病気ですね。
最近は動物の高齢化という話も耳にすることがあります。
そうですね。最近は確かに動物も高齢化し、それに伴いいわゆる老齢病が増えています。ペットフードが良くなったことに加えて、予防医学などの動物医療も進んできたこともあって、歳をとってから出る病気が増えてきましたね。例えば、犬猫に限らず、心臓疾患が増えました。癌も歳をとってから発症することが多いですね。他にはホルモンや内分泌系の病気もあります。乳がんに関しましては避妊手術が大きく関係しています。犬は乳腺腫がとても多く、発情することで乳腺腫のスイッチが入ってしまうといわれています。発情の回数と乳がんの発生率については、かなり明確な統計が出ています。
こちらにはどんな目的でいらっしゃる飼い主さん、動物が多いのでしょう?
予防接種も多いですが、毎月定期的に健康診断に通っている方も一定数いらっしゃいます。当院は何を専門という形にしているわけではないので、健康診断から飼育相談まで、来院される理由はさまざまですね。飼育相談などは、病院に入る第一歩だと考えているので、できるだけ間口を広くとっておかなければと考えています。しかし、全部の治療が自分でできないとしても、専門的な知識を持っていないと、その先がなくなってしまいますからね。心臓の手術などの専門手術は、どこの病院がいいかを考えて振り分けています。そのコネクティングをするのも、獣医として重要な仕事だと思っています。もちろんそのために、正しく診断できる知識を身に付けています。他の病気を併発している場合は、どうやって治療していくかも常に判断する必要がありますからね。飼い主さんの事情も考えながら、どうすることが一番バランス良く、動物も人間も幸せになれるか考えるのが獣医師の役目だと考えております。
時代と共に変わる獣医師として必要な知識を学び続ける
最近、人間の間ではデング熱の感染が話題になりましたが、ペットにも感染するのでしょうか?
「散歩中に感染したら」と心配される飼い主さんから、ご質問を受けることが多いですが、犬や猫からウイルスが見つかったことはありませんし、東京都獣医師会の公式見解でも、基本的に犬や猫には感染しないとされていますので、ご心配には及びません。東北地方太平洋沖地震のときも、放射能の影響についての問い合わせがかなりありました。ボランティアの方が東北地方に出かけて動物を保護してきたり、その間ご自分が飼っているペットを当院に預けていかれたりということもありました。動物が好きな方は黙って見ていられなかったんでしょうね。またお家で小型犬を飼われている方が放射能の影響を心配されていました。人間の場合、赤ちゃんや若い人は、放射能によって遺伝子が傷つけられ、60年、70年経って癌が発症する確率があると言われたこともあって、小型犬を飼われている方が心配されて相談にみえました。しかし小型犬の寿命は長くて20年なので、発症する可能性は極めて低いとお話ししました。また、当時は放射能を心配してペットを連れて海外に行くために証明書を発行して欲しいという患者さんもいらっしゃいましたね。そのくらい皆さんペットを大切に思われているのだと感じました。
お忙しい毎日だと思いますが、休日にはどのように気分転換されていますか?
趣味はバイクです。1999年に大型バイクの免許を取りました。10年くらい前までは、小さいバイクのレースにも参加していました。今は年に2回か3回乗るかどうかですけれど。それでも年に1度は、仲のいい四日市の獣医師の友人とツーリングに出かけます。夜中にここを出発して三重県まで走って、翌日から台風の中を一緒にツーリングをしたこともあります。バイクが好きな理由としては、やはり機械をいじるのが好きなことが関係しているのだと思います。獣医療の中で検査器具や手術の道具を使いこなさなくてはなりませんが、その点はバイクも同じです。バイクは車以上に自分で操作しなくてはなりませんから。また、旅行も好きで、暇ができると出かけています。
診療において大切にされることをお聞かせください。
飼い主さんとしっかりと話合いをすることです。例えば、「ペットがこのままの状態だと助からない」という場面では、飼い主さんが納得されるまでしっかりとお話をします。医療はどんどん進歩していますから、延命しようと思えばいくらでも延命ができる時代です。しかし一方で飼い主さんの介護疲れという問題も出てきているのが現状です。とてもシビアな問題ですが、このときに忘れないようしているのは、飼い主さんと動物の幸せです。この治療すれば延命にはなるけれど、この子のために本当に延命することが幸せなのか、飼い主さんとしっかり話合って決めています。
獣医師としてめざす姿はありますか?
医療は時代によってスタイルが変わっていきます。獣医師として勉強して知識を習得し続けることが何より大切だと思っています。当院には犬、猫に関わらず、ありとあらゆる病気や症状をもった動物がやって来ます。他の病院を紹介するにせよ、決して見立てを間違うことはできないんです。そのためには勉強することしかありません。よく「もっと病院を大きくしないのですか?」と聞かれることがありますが、やみくもに広げようとは思っていません。まずは、来てくださる飼い主さん、動物を患者さんを大切にしていきたいんです。時間をかけてコミュニケーションをとって、信頼関係を基に診療していくことが何より大切だと思っています。