―獣医師ならではの苦労について聞かせてください。
例えば、人間相手だと言葉でコミュニケーションがとれます。しかし、動物相手の場合はそれができない。そこが、獣医師が最も苦労するところですね。開業当時に比べると断層撮影や放射線療法など、検査や治療の進歩は目覚ましいものがありながらも、ワンちゃんのお小水ひとつ取ることに苦労する現実に変わりはありません。ペットに対して「今、注射するから痛いかもしれないけど、これで良くなるんだよ」と伝えることができない。ペットにしてみれば、治療の前後でどれだけ優しくされても「この人は痛いことをする人だ」という認識は消えない。言葉で理解してもらえないので、それ以外の部分でペットと分かり合う努力が獣医師には求められる、ということです。
―ペットの治療で大切な資質とはなんでしょうか。
学問を追求するだけでは、命を追求できない。これは、獣医師になるため、必至に勉強をしていた学生時代には気付かなかったことです。獣医師は医学以外に必要なものがある。治療を嫌がって暴れるペットに対し、毎回力づくで押さえつけるやり方は必ずしも正解とは言えないでしょう。私を指導してくれた先輩方は、動物への接し方がとても自然で、治療以外の技術に長けていました。これは機器や技術が進歩した今だからこそ見直されるべきところだと思います。自分の魂胆だけを押し付けても、相手は思い通りに動いてくれない。愛情があって、そこに獣医師としての知識を持ってペットと接する技術が必要です。動物がどんなことに怖がり、どんなことに喜ぶのか。それを知っているのがプロの獣医師だと思います。私自身も苦労していることですが、若い獣医師と、この部分について一緒に考えたいですね。
―先生にとって、獣医師とはどんな仕事ですか?
ペットの一生を診てあげるのが私の仕事です。ペットが生まれてから、その命が尽きるまで。ご家族から、ペットが息を引き取った報せを受ける時は悲しい。でも、その時家族の方から「ありがとうございました」と声をかけてもらえた瞬間、どこかホッとする部分もあるのです。「あの子の一生に自分も寄与できたかな」と。ペットの生涯が良きものであり、それに貢献できたなら、私は獣医師としての役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。先ほどもお話した通り、ペットは言葉が通じませんが、皆可愛く、素直な存在です。初対面では怪我した足を引きずっていたワンちゃんが、治療を終える頃には駆け足で診療室に飛び込んでくる姿を見るのは感無量です。当院に慣れ親しんだ子には、できるだけ当院で治療を行いたい。地域のかかりつけ獣医師であり、より踏み込んだ治療までを行う2.5次診療を実現することが今後の目標です。
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