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井上 平太 院長の独自取材記事
井上動物病院
(上尾市/北上尾駅)
最終更新日: 2023/01/22
上尾駅より車で12分、夕日が丘通りから、ゆとりある戸建ての並ぶ住宅地に一歩入ると現れる「井上動物病院」は、入口にある手入れの行き届いた草花が印象的。中に入ると、6畳ほどもある待合室で、懐かしさを覚えるようなほっとした空間になっている。こちらで受け入れているのは犬・猫はもちろんのこと、ハムスターの骨折手術から鳥の開腹手術、大型犬の腫瘍、循環器などの開胸手術にまで対応しているのだとか。上尾市丸山公園嘱託獣医師でもある院長の井上平太先生に、この地での長年の診療についてや、動物たちへの思いについて話を聞いた。 (取材日2016年6月15日)
ペットも飼い主もリラックスできる、温かみある医院に
開院されて26年にもなるのですね。
1972年に家族でこちらに引っ越しをし、1990年に自宅を建て替えてこの動物病院を開院しました。このあたりの動物病院としては古いほうだと思います。飼い主さんや動物たちが緊張しないよう、あまり病院らしくしたくなかったので、一般家庭のような雰囲気を心がけました。入り口には花壇、窓にはブラインドではなくカーテンで居間の雰囲気を出してみたり。待合室の全面窓は特注で、このRの曲線にはこだわっているんですよ。今はもう同じものを作ろうとしても難しいのではないでしょうか。ハーフミラーで紫外線もある程度カットできるのですが、それでも夏は暑くなるので、窓の外には背の高いバラを新たに植えました。5月にいったん花が咲いて、今は、次のつぼみがついていますね。バラは暑い時期には日よけになりますし、冬は葉が落ちるので日を遮らないんですよ。
先生にとって愛着のある建物なんですね。
知り合いの設計事務所に頼んで、設計図から考えて作り込みました。当時は大型犬が多かったですし、待合室や診察室で粗相をする犬も多かったので、床はタイル張りで排水溝も付け、掃除がしやすいようにしたんです。診察台も床から30センチくらいの高さまで下げられるものにして、大型犬が自分で上がれるようになっています。レントゲンも大型犬に対応できるよう、動物用ではなく、人間のものを入れました。昔はフィルムでしたが、今はもうデジタルにして、診察室のモニターで飼い主さんにも見ていただけるようにしてありますよ。常に新たな機器を取り入れ、時代に合わせた治療の提供をめざしています。手術室も、麻酔中の血圧や酸素分圧などをきちんとモニタリングしながらできる設備です。私はもともと腫瘍外科が専門なので、ある程度大掛かりな開腹手術も当院を卒業した獣医師が集まって、こちらで夜間に行っています。
犬猫以外も診ていただけるのですか?
はい。今は猫が5割、犬が4割で残りの1割がハムスターやうさぎなどです。開業前に2年ほど勤めた葛飾区の穴沢動物病院というところが、当時としては大きな病院で、いろいろな動物を診ていたので鍛えられました。また、上尾のこの辺りは70年代に大規模開発された住宅地で、大きな団地もあるのですが、住人も歳を取って今は世帯主の平均年齢が75歳くらいなのです。なおかつ一人暮らしも増えていますから、犬も世話を考えると小型犬になりますし、それよりは手間のかからない猫を飼われるようになってきているので、猫が一番多いのだと思います。
飼い始めにはしつけとともに、薬を飲ませる癖づけを
どういう病気で来院されることが多いですか?
ペットも高齢になって慢性病がなかなか治らなくてとか、内臓の腫瘍の手術をはじめとする難治性の病気でいろいろな動物病院を転々とされて当院にたどり着かれるといった方が多いです。腎臓病、心臓病や抗がん剤治療を含む、がんなどで8割ほどでしょうか。猫は腎臓病が多いとよく言われますが、私の感覚値では6割くらいの猫が腎臓病になると思います。猫は他の動物に比べて、心臓や肝臓や腎臓など、いろいろな弱いものなのです。その中でも腎臓だけが突出して弱いんです。だから高齢になっていくと、腎不全になることが多いことから、ワクチンも打って感染症にさせず、家の中で飼って交通事故にも合わせず、と大切に飼われてきた猫は、最後には腎臓病になる場合が多いのです。
飼い主さんに常々アドバイスされていることはありますか?
ペットを飼い始めた時に、お手やお座りを教える飼い主さんは多いのですが、それに加えて、飼い主さんが口を開けて入れようとしたら、それは無条件に食べなくてはいけないんだと、しつけられるようにお願いしたいですね。動物の治療では投薬の占めるウエイトが大きいので、薬をちゃんと飲ませられる癖をつけてあげてほしいのです。よく、薬は食べ物に混ぜればいいと言いますが、元気なうちに飲ませるフィラリア予防薬などはそれで良いけれど、病気になってしまうと食欲がなくなるのです。そうなると何を食べさせようとしても食べませんから、薬を飲ませようとして噛まれてしまう飼い主さんも少なくありません。ぜひ、小さいうちから飼い主さんに口の中を触られても平気なよう、慣らしてあげてください。
これから飼おうという方へは、何かありますか?
飼う前に、10年後、15年後のご自身のことを想像していただきたいです。例えば、定年を迎えて大型犬を飼いたいという方に、70歳、80歳になられて、散歩や通院をさせてあげられますか、ということです。また若い方でも、子どもを産んで育てたいと思っていませんか、ばりばりと仕事をして寮に入ったり転勤したりといった可能性はありませんか、ということです。そういった方にも飼ってもらうため、特定非営利活動法人高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワーク(VESENA)があります。VESENAは、将来的に大切なペットへの不安を軽減しようと集まった獣医師が中心団体です。そこで私は、主に飼育支援やマッチングをすべく活動しています。飼い主さんだけでなく、ペットも不安なく一緒に暮らせるようにしていきたですね。
ペットの診察を通して、飼い主の生活を支えたい
診療に当たって、心がけておられることは何でしょうか?
ある治療で死亡率が4~5割だった時に、がんばって治しましょうと言ってお預かりしたら、入院中に亡くなってしまったことがあるんです。助かる確率のほうが高ければ最善を尽くすのが当たり前ではありましたが、後になって飼い主さんから「せめて最期は自宅で看取ってあげたかった」と言われたんです。確かに、入院させた方が治療は効果的に行えますが、例えば朝連れてきてもらって治療して夕方にお返しするのを続ければ、一緒にいられる時間は少しでも持てるわけです。このやり方が良いと決め付けずに、治療方針はご相談しながら決めていかねばと思っています。また、治療には費用がかなりかかるものもありますから、飼い主さんの状況も見ながらご提案をする必要もあります。動物の診療を通じて、生活を支援する気持ちを忘れないようにと思います。
獣医師を志した経緯を教えていただけますか?
出身は池袋なんですが、今の東口に、60年代初めにはまだ牧場があって、牛がいたんですよ。そこを三輪車で走り回っていました。動植物や魚介類はずっと好きで、動物園に勤めたいなと漠然と考えていましたね。高校で獣医師という仕事を知り、すぐに獣医学部をめざそうと決めました。それからは獣医麻酔学会には発足当時から会員になり、犬の開頭手術・腎結石摘出手術で学会発表をしたり、またその他にも日本獣医師会・日本獣医学会・獣医麻酔外科学会・上尾伊奈獣医師協会などに所属し、患者さんにより良い治療を提供できるように日々勉強しています。
現在のご趣味は何ですか?
ダイビングと貝を収集することですね。自転車もダイビングに向けての体力作りで乗っています。なので、夏は海に行ったり、マウンテンバイクで富士にあるスキー場などの斜面を滑走したりします。林間や崖っぷちを走るので、防具もつけて怪我のないようにしますが、虫には刺されまくっています(笑)。冬はロードタイプの自転車で荒川のサイクリングコースを基点に、1時間でも2時間でも走り回っています。雨の時も体を動かしたいので、院内でローラー台を組み立てて漕ぐんです。スタッフからは、ハムスターみたいと言われてますが(笑)、前は子供の高校までスポーツの試合の応援などに、往復約50kmでも自転車でよく行きました。また犬(シェパード)を連れて行くと、喜ばれて友だちにも紹介してくれたり、動物というのは潤滑油的に場を和ませてくれますよね。落ち込んでいると近づいてじっと話を聞いてくれますし、ペットは大切な仲間ですね。