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- 谷口 史奈 院長
谷口 史奈 院長の独自取材記事
猫の診療室モモ
(品川区/荏原中延駅)
最終更新日: 2023/01/22
東急大井町線・都営浅草線中延駅から国道1号線を歩いて3分ほど、ピンクの壁一面に書かれた「猫の診療室モモ」のロゴに驚かされる。「病院ということではなく、『あそこに猫の何かがあるな』と思っていただきたくて」と語るのは、院長の谷口史奈先生。普段から交流が少なく、インターネット検索しては「うちの子」の具合を心配しすぎて、切羽詰った状態で来院することの多い猫の飼い主に向けて、とにかく気楽に相談のできる場所をめざしたと言う。そんなこだわりを詳しく聞いた。(取材日2016年8月8日)
猫好きが集って安心できる、コミュニティの場として
こちらは猫専門のクリニックですね。
猫の飼い主さんというのは、ちょっと猫の調子がおかしいかなと思われても、猫自身が外出を好まない場合も多いですし、つい悩まれて病院に行きそびれる方が多いんです。それでとにかく、お友だちの家に遊びに行くような感覚で来ていただける雰囲気を心がけています。待合室に設けたキャットウォーク型のシェルターは見飽きないことと思います。この中には、保護団体から預かった里親募集中の猫に入ってもらっています。こうやって、一般の方々の目に触れる機会を持ちたかったのです。エイズや白血病の検査で陰性の子ばかりなので、ご縁があれば興味を持っていただければうれしいですね。また、猫の雑貨コーナーもありますので、病気の有無に関わらず、うちの子自慢でもよいので(笑)、猫好きのコミュニティの場として親しんでいただきたいですね。
入院舎とは別に、ホテルもあるのですね。
入院舎は奥の静かな部屋にケージを並べています。ホテルは2室、待合室に面して設けました。カーテンも引けますし、人に興味のある子であれば開けておくこともできます。高さが1.6mほどで、小柄な人であれば立つことができるくらいの広さです。キャットウォークもですが、猫は上下の運動が好きなので、縦長にしてあります。裏側はスタッフルームで、そちらからお世話をするのですが、休憩の間はそこに出てもらってもよいですし、週単位・月単位でも暮らすような感じでお預かりできます。飼い主さんが旅行や出張の際でも、また、猫自身が年を取ってきた時に、いわゆるデイケアや老猫ホームとしてもご利用いただけるよう考えています。
全体的にピンク色で、女子力の高いインテリアですね。
完全に私の趣味ではありますが、飼い主さんにも親しんでいただきたかったのと、医院名も「モモ」だから桃色でと思いました。「モモ」というのは児童文学の作品名に因んでいます。主人公のモモという女の子は、みんなの話を聞くのがとても上手で、いつもたくさんの人が相談に訪れます。そして、モモと一緒におしゃべりしているうちに、悩みが解決していくんですね。こちらでも、モモのようにゆったりお話していくうちに飼い主さん一人ひとりが答えを見つけていただければと思いました。あと、内装では同じピンクでも、トイレはちょっとビビッドな壁紙にしてありますよ(笑)。診察台や受付もネイルサロン用の家具から選びました。エコーなどの機材は普通の動物病院と同じですが、院内の雰囲気は柔らかくしてあるので、病気になる前から猫にも飼い主さんにもなじんでいただけたらと思います。
体調によるのか気分の問題か、猫の状態の見極めが肝心
もともと猫がお好きだったのですか?
出身は北九州ですが、物心付いた時にはすっかり猫好きでしたね。祖母の家などにいた猫の影響かと思います。自宅で猫を飼ったのは小学校5年生からで、庭に迷い込んできたのを飼い始めて、それ以来基本的にはずっと猫を飼っています。大学が山口県で一人暮らしでしたが、その6年間は住宅事情のため猫なし生活で、実家に帰るのが楽しみでした。獣医になる夢は、小学校の頃からぼんやりとはあったと思います。学科としての生物が好きでしたが、バイオにも興味があって、研究者もいいなと思った時期もありました。それでも将来を考えた時にはやはり人と接する仕事のほうがよいと思い、獣医学科に進んだのです。
卒業後は、どうされましたか?
博多の動物病院に勤めました。猫専門のところへの勤務も考えましたが、当時はまだ九州では猫専門の医院は少なかったですし、幅広い動物を診る経験も大事だとアドバイスもされましたので、一般的な動物病院です。犬猫のほか、うさぎ、ハムスター、フェレット、鳥も診ていました。3年ほど勤めるうちに、むしろ猫を診たい気持ちが強まって、ちょうど募集のあった名古屋で、猫専門のクリニックに勤めるようになりました。猫の魅力はやはりその接し方でしょうか。犬の飼い主さんというのは、幼稚園くらいのお子さんの子育てのような感覚で犬に接してらっしゃると思うのです。でも猫の場合は、同居人のようであったり、人によっては自分が猫様に家を提供している奴隷のような気分だったりもするものです(笑)。
人間と動物の関わり方というのは、いろいろですね。
私はもともと、動物にはなるべく気ままで居てもらいたいんです。人間の事情に合わせるのではなく、その子の自然の状態で、ということですね。昔から「犬は人に付き、猫は家に付く」という言い方をします。実際には猫も人のことをよく見てはいますが、人間に寄り添いながらも、猫には猫の人生がある、という感じなのでしょう。猫には自分があり、ミステリアスで、それこそが魅力なのだと思います。ただ、診察する上では、食べ物に対してのこだわりや選り好みも強い生き物なので、今日これを食べないというのが体調のせいなのか、単に気分の問題なのかを見極めるのが難しかったりはしますね。ご飯中に何か嫌なことがあると、その食べ物自体がもう嫌いになることもあります。単純に気が乗らないという理由でご飯を食べなくなることもありますし、それが病気の引き金になることもあります。
セミナーやイベントで、飼い主同士がつながる機会を
東京で開業されたのは、なぜですか?
自分のやってみたい形での開業を考えた時にちょうど、両親が転勤で東京大田区に来ていたのが縁ですね。それに、動物に限らず人間でも医療は年々細分化・専門化してきていますが、猫専門で開業を考えた時には、いろいろな専門機関のある東京がよいと思いました。動物も人間と同じで、病院は使い分けるべきと思うんですね。こちらでは、ごく一般的な内科診療を行っていきますが、大きな病気の時には、細分化したそれぞれの専門病院にできる限り一緒に出向いて、連携を取りながら診てまいります。病気と寄り添いながら過ごす選択をされれば、往診や送迎などできるだけのことをさせていただきます。
交通の便のよい場所ですね。
目の前が国道1号線で、車も2~3台停められます。電車でも中延駅、荏原中延駅から4~5分ですし、戸越銀座駅からもぶらぶらと歩いてこられますね。猫自身が乗り物を嫌がる場合もありますし、飼い主さんの手間を考えても、こういった便利な場所で開業できて良かったです。看板も、わかりやすく壁一面をピンクにしました(笑)。ロゴの猫のイラストは、美術教師をしている大学の友人に描いてもらったんですよ。駐車場の床のコンクリートには、遊び心で猫の足型スタンプを押したところ、近所の保育園のお子さんたちがその足跡に沿って歩いて遊んでくれています(笑)。今後は、休診の日曜午後を活用して、待合室のスペースでセミナーやワークショップを開きたいと思っています。猫好きが集まって、ちょっと楽しみながらつながり合ったり、知識を深めたりしていきたいですね。
イベントはどのようなものになりそうですか?
まず考えているのは、猫の問題行動を考えるセミナーです。猫の本能や習性のプロが知り合いにいますので、トイレの失敗や噛み癖、多頭飼いでのいじめなどについて、元になっているストレスを取り除くなどの対処法を、皆で学べたらと思っています。災害時の同伴避難も、皆で考えたいテーマですね。地震の際にペットをどうすればよいかについて備えるべきと最近、実感しています。あとは、楽しいワークショップとして、例えば猫の毛で作るフェルトのアクセサリーですね。これは、自分の猫の毛で自分の猫のマスコットを作っておいて、亡くなった後も手元に置いて慈しんでいこうというものです。診療だけではなく、これらをきっかけにわいわい集まりたいですね。駐車場スペースを使えば、チャリティーのフリーマーケットやガレージセールもできそうだと、ワクワクしています。