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北澤 功 院長の独自取材記事

五十三次どうぶつ病院

(大田区/平和島駅)

最終更新日: 2023/01/22

京急平和島駅より徒歩5分にある「五十三次どうぶつ病院」。医院名の「五十三次」とは、旧東海道五十三次の美原通り沿いにあるため命名されたとか。窓が大きく明るい院内は、清潔感がありアットホームで落ち着く雰囲気。北澤功院長の生き生きと動物のお話をされる様子から、獣医師という仕事にかける情熱がひしひしと伝わって来た。北澤先生は、動物園に勤務されていた経験をもとに、「動物たちの不思議な生態の秘密」というブログに体験記を連載中。動物をこよなく愛する北澤先生の、動物医療、そして野生動物保護活動へかける熱い思いをお伺いした。 (取材日2011年1月20日)

動物園の獣医師として得た豊富な知識と経験を、身近な動物にも広く役立てたい

動物に興味を持ち始めたのはいつでしたか?

僕は、長野県の生まれなんです。自然が豊かで近くに山や川もあり、たくさんの生き物に囲まれた環境で育ちました。ですから、幼い頃から動物が大好きでした。特に昆虫が好きだったので、カブトムシやクワガタをたくさん飼っていましたね。カブトムシは、幼虫から捕まえて育てていました。昆虫がよく採れる自分だけのテリトリーというのがありまして、河川敷でクワガタがよく集まる場所を知っていましたね。ミヤマクワガタやノコギリクワガタなど、珍しいものが採れると友だち同士でよく交換していました。そうやって生き物に接していくうちに、繁殖、飼育法、餌の与え方など自然と生態の知識が身についていったのだと思います。いつしか、ずっと大好きな動物に関する仕事がしたいと思うようになり、いろんな動物に関わることができる獣医師を志したんです。

医学生時代のお話をお聞かせください。

北海道の大学だったので、牛や馬などの大型動物をよく診ていましたね。そこでは、学生が一人一頭ずつ病気の牛の担当をするんです。毎日、朝早く起きて、授業前に牛舎の掃除をして牛の体を拭いてあげました。その後、搾乳の作業があるんですが、病気の牛には搾乳機が使えませんので、手で搾るんです。そして、授業が終わった後も、また牛の世話をするんですが、検査や点滴などの治療も行っていましたね。少しでも手を抜くと牛の具合が悪くなってしまいますので、たいへんでした。僕は、馬が好きだったので、乗馬クラブによく手伝いに行っていたんですよ。馬の世話をするかわりに、無料で乗馬を楽しませてもらったりしていました。ですから、僕は馬の調教もできるんですよ。大学時代も、動物に囲まれた生活でしたね。

開院までの経緯を教えてください。

僕は、大学卒業後は動物園に勤務していました。そこで得た知識や経験を、今度はみなさんの飼っている身近な動物にも広く役立てたいなと思ったんです。僕の友人が平和島に住んでいて、この辺りには動物病院がないことを聞きました。そして、ちょうど場所的にも良いところが見つかりましたので、2010年10月に開院しました。病院の目の前が、東海道の五十三次街道沿いの美原通りなんです。せっかくそのような素晴らしい場所にある医院なので「五十三次」と命名しました。

野生動物の保護活動を通じて、生物同士が仲良く共存していける世界を創りたい。

動物園に勤務されていたときのエピソードを教えてください。

大学卒業後は、長野市の茶臼山動物園に獣医師として勤務していました。仕事内容は、基本的に治療がメインなんですが、治療以前にその動物の生態を考えて病気を予防することが大切なんです。病気予防の大切な仕事の一つに削蹄(さくてい)があります。牛・ヒツジ・ヤギ・チンパンジー・オランウータン・フクロウなど、爪が伸びる動物は全部、切っていましたね。トラやライオンは危険なので、麻酔をかけてから爪を切りました。馬の削蹄が一番難しいんです。失敗すると脚部不安などさまざまな病気を引き起こしてしまうので、技術が必要になります。さらに削蹄する間は、馬を大人しくさせないといけませんから調教もできないといけません。僕は実際に馬に蹴られたことがあるんですよ。危険な目にもいっぱい遭いましたね。オランウータンの麻酔が途中で醒めて、動き出したことがありました。オランウータンは握力が強いので、人間など簡単に殺されてしまいます。しかし、幸いなことに、日頃からすごく仲良くしていたオラウータンだったので、大事には至りませんでしたけれど。そして、動物が死んだら原因を調べるために解剖します。解剖をしながら、病気の予防方法や体に負担のかからない治療方法などを考えるのです。ゾウの解剖もしましたよ。大きな体ですから、雨合羽を着てゾウの肋骨の中とかに入るんです。ゾウのデータは貴重なので、調べた結果を発表することによって他のゾウの治療にも役立つんです。動物園の獣医師には繁殖も大切な仕事です。サンショウウオは、野生では絶滅しそうなので、ちゃんと許可を得てから動物園で繁殖させるんです。生態を調べながら、微妙な温度管理をしなければなりませんでした。温度が失敗する病気になってしまう恐れもあるんです。しかし、難しいと言われるサンショウウオの繁殖が成功できたときは嬉しかったですね。

野生動物の保護活動について教えてください。

ハクバサンショウウオというのをご存知ですか?小型のサンショウウオなんですが、生息地での生息条件が著しく悪化してきているので、個体数が危機的水準まで減少しているんです。このように今、地球上から人知れず消えようとしている動物がたくさんいるんです。保護活動もされていますが、あまり力が及んでいないのが現状です。僕は将来的に、絶滅危惧種の動物たちを救いたいと思っています。今はまだ開院したてなので、時間的に厳しいものがあるんですが、少し落ち着いたらそういう活動を積極的に行っていきたいですね。いろんな生物が存在している状態が、健全で強い社会なんです。たとえば、森の中には、風に強い木や火に強い木などが混ざりあって生えています。そうすれば、森に強風が吹いても、火事が起こっても、それぞれの強みを生かして守れるので、全滅をまぬがれることができるんです。人間社会でも、勉強が得意な人だけ、運動が得意な人だけでは成り立たないと思います。いろんな性質のものが混ざり合った多様性があるからこそ、強い社会になるんです。そう考えれば、動物が絶滅していくことにより、地球からもどんどん多様性が失われていくでしょう。最終的に、地球上に一部の生物だけしか存在しない状態になれば、やがて崩壊が始まります。だから、生き物を守るということは、人間を守ることにも繋がるんです。地球上の生物は人間だけではありません。生物同士が手と手を取り合って、仲良く共存していける世界を僕は創りたいのです。

わかりやすい説明とやさしい治療。気軽に寄れる「動物のお医者さん」を目指して

往診もされているんですね?

来院が難しいワンちゃんや猫ちゃんの往診を承っています。往診は、基本的に猫が多いですね。あとは、足腰が弱っている老齢犬や飼い主さんがお年を召されていて、医院に連れて来るだけでもたいへんなケースにも対応しています。医院にいる時は、ワンちゃんや猫ちゃんはおとなしくしているから治療しやすいんです。しかし、自分の家の場合だと威張っていますから、なかなか思うように治療させてくれません。だから、生態によってできる方法を考えていきます。例えば、猫ちゃんの往診の時は、できるだけ隠れ場所のない部屋に閉じ込めてくださいと事前にお願いしています。往診の場合は、まずはお電話でご相談ください。

先生のブログを拝見していますが、たいへんユーモラスな内容ですね。

僕は、文章を書くのが好きなんです。動物園に勤めていた時は、地元新聞に連載をしていました。今は、「動物たちの不思議な生態の秘密」というブログで体験記を書いています。自分では当たり前と思っていたような体験が、普通の人からするとすごく面白かったりするみたいです。パソコンが見られないという人のために、「五十三次動物病院たより」も配布しています。動物のイラストは、私が描いているんですよ。機会があれば将来的に書籍化して出版し、より多くの方に読んでもらいたいですね。

お休みの日はどのようにお過ごしですか。

家で飼っている動物の世話をすることが最高のリフレッシュになります。猫、犬、ハムスター、ヘビ、フクロウなどいろんな種類の動物を飼っています。夏にはクワガタなどの虫も飼いますね。プライベートでも動物に囲まれた暮らしが好きなんです。体を動かすことが好きなので冬はスノーボードを楽しむこともありますが、最近は忙しくてなかなかできないですね。

どのような医院を目指しておられますか?

わかりやすい説明と小さな体に負担をかけないやさしい治療を心がけています。やさしいということは、ストレスを与えないということです。たとえば、注射がストレスになるのだったら、投薬でできる治療方法も考えます。注射する方が治療効果が高くても、その子にとって飲み薬の方がストレスが少なくて良い場合もありますから。そして、散歩の途中に気軽に立ち寄れる「動物のお医者さん」を目指しています。ペットの健康について不安なことは、どんな些細なことでも結構ですからご相談ください。相談したからと言って、絶対に治療を受けなければならないということはありませんから、ぜひ、当医院に足を運んでいただけたらと思います。「五十三次動物病院たより」を取りに来ていただくだけでもいいですよ。新しいエピソードをどんどん紹介していきますから、ブログの方もぜひ読んでください。

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