風祭泰一 先生の独自取材記事
風祭動物病院
(練馬区/新桜台駅)
最終更新日: 2023/01/22
西武有楽町線新桜台駅から徒歩約5分、東京メトロ有楽町線氷川台駅からも徒歩圏内にある「風祭動物病院」。風祭泰一先生は、父の仁院長の代から50年続くこの医院で、地域の動物たちの健康を日々サポートし続けている。「人と同じでペットにも個性がある。個々の性格を見抜き、飼い主の話をじっくりと聞くことが何より大切」と語る風祭先生。飼い主の生活環境を知ることは、ペットの病気や健康状態をはかる大きなポイントにもなるので、診察は飼い主とのコミュニケーションを非常に重視しているという。そのためか、先生はとても気さくで聞き上手。話をうまく引き出してくれ、また優しい語り口で何でも打ち明けやすい雰囲気を作ってくれるので、飼い主にはとても心強い存在となってくれるだろう。取材をしていた休診時間中にも、ご近所の飼い主さんが「先生、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」と勝手口からご相談に立ち寄られた。ご近所づきあいのようなコミュニケーションからも、このクリニックが信頼されていることが良くわかる。この春に21歳を迎える愛猫のさくらちゃんにも同席してもらい、クリニックのこと、治療方針についてなどのお話を伺った。 (取材日2013年2月5日)
命を守る仕事をクラスメイトとともに志して
獣医師をめざされたきっかけは何だったのでしょうか?
私は二代目なのですが、父がこちらで動物病院を開業して今年で半世紀になります。獣医師を志したのには、父の影響も確かにあると思います。現在の医院は建物を立て替えていますが、私が子どもの頃は、家に帰ると医院を通って部屋に行くような構造だったので、父が診療している姿や動物たちはとても身近なものでした。ただ本格的に意識し始めたのは高校生の頃です。同級生に医師の息子の友人がいて、進路を決めるにあたって、彼がお父さんの跡を継いで医師になると決意したんです。医師と獣医師という違いはありますが、親が医者という同じ環境で同じ年齢の友人が、命を守るという重責のある仕事を志していることに感銘と影響を受けました。その友人の志しを見て徐々に自分の気持ちも固まり、獣医師をめざそうと決めたんです。
先生のご経歴を教えてください。
高校を卒業してから日本獣医生命科学大学に進み、卒業後は恩師の紹介で埼玉県蕨市の青砥先生のもとで半年ほど経験を積みました。先生は厳しいお方でしたが、現場の仕事に対してとても熱意があり、短い期間に一からいろはを教えていただきました。獣医師は動物の命を助けるという使命はもちろんありますが、それ以外にも臨床の場で大切なことはたくさんあります。例えば衛生面。動物はとてもにおいに敏感ですから、においのする医院は絶対に駄目だということ。また飼い主さんとの接し方など、獣医療を提供するために必要な基礎を学ばせていただき、とても感謝しています。その後は青砥先生の紹介で墨田区にある亀戸動物病院に3年半勤務したのち、1995年にこちらに戻りました。現在は私を中心に、代診で院長である父と妻とで受付から診察までをやっています。
どのような症状を訴えての来院が多いですか?
やはり見てわかる症状ですね。ご飯を食べない、お腹を壊している、脱毛など。現代病ともいえる肥満も増えています。また高齢化に伴ってがんも増加しています。動物のがんも人間と同じで、治療の大前提に切除があり、最終的には制がん剤や抗がん剤を使用する道があります。ただ動物は体も小さいですから、薬で体にダメージが出ることも多く、最近私は制がん剤をあまり使わなくなりました。あくまで私の意見ですが、治療によって寛解に至るというデータがはっきりわかっている症例は別として、「やらないよりは良いんじゃないか」というような場合は、無理に薬を使わなくても良いというスタンスを持っています。その分、何か違うかたちでのサポートをしていきたいと考えています。
小児科の医師は獣医師にとってのお手本
診察で心がけていることを教えてください。
動物を診る、飼い主さんの話を聞く、さらには言葉の奥にあることまでじっくり診るように心がけています。現代は高度医療が可能な二次診療施設も増え、獣医療環境のレベルも上がってきましたが、私は一次診療施設としてやれるところまでしっかりとやりたい。患者さんがまず行くのは一次診療施設ですから、病気を見過ごさないためにも初診はとても大切です。診察にあたっては、飼い主さんの意思も尊重して治療方針を決めます。とことん治療したいのか、とりあえず診てもらいたいだけなのかから始まり、徐々に話を引き出していきます。特に初診の場合、言葉は悪いですがごまかす飼い主さんもいるんです。例えば昨日から具合が悪いと連れてきて診察をしたら、どう考えてももっと前から良くなかっただろうとわかります。それで話を聞いていくと、「正直言うと1週間前から……」とお話されたり。それで怒るわけではありませんが、やはり信頼関係ができれば深くお話してくださるようになりますから、コミュニケーションは一番重視しています。
察する部分が多いというか、五感を使って診察する感じですね。
第一印象、体型や年齢、どういう環境で飼っているかで見えてくるものもあります。しかし細かい部分は、最終的には検査をしないとわかりません。でも私はやみくもに検査はしたくないんです。最初から疑いがあれば別ですが、お腹を壊しているからすぐに内視鏡検査というのは適切とはいえないと思うんです。やはりある程度の過程は必要でしょう。最初は様子を見て、治っていけばそのほうが良いに決まっています。でもうまくいかない、長引くようであれば何か病気があるということですから、飼い主さんに説明して納得してもらい、状況によっては検査や手術へと進むのが理想的だと思うんです。飼い主さんも高度医療を望まれる方、ここでやれる範囲で治療して欲しいとおっしゃる方とそれぞれの事情があります。ですから飼い主さんの希望を聞き、そのうえで最善と思われる方法を提案するのが我々の役割だと思います。
印象的だったできごとはありますか?
獣医療とは直接関係ありませんが、自分の子どもを病院に連れて行った時に気づいたことがあります。小児科に行ったのですが、小さな子どもは自分で症状を説明できませんから、連れてきた親が医師に様々なことを伝えますよね。つまり子どもが患者の場合は親に話を聞き、医師は親に治療方法や助言を伝える。そこは飼い主とペットの関係に通じる部分があると思ったんです。ですから私は、人気のある小児科の先生から獣医師が学べるものは多くあって、お手本なのではないかと考えています。もちろん、憧れるような立派な獣医師の先生もおられますが、自分が患者の立場になった経験から得たことはとても大きいものでした。この気づきは私の財産になっていますし、機会があれば小児科の先生にぜひお話を聞いてみたいと思っています。
自身が築いたペットとの幸せな関係を、多くの患者に提供していきたい
さくらちゃんはおとなしくて良い子ですね。患者さんからも人気者でしょうね。
今年の春で21歳になります。性格もあるのでしょうが、ひっかいたり噛み付いたりしたことは1回もありませんし、今も皆さんからかわいがってもらっています。出会いは私が新米の時に勤めていた動物病院。医院のスタッフが公園で風邪をひいた子猫を保護してきて、その治療を担当したことがきっかけで引き取ったんです。昔はどちらかというと犬派だったのですが、さくらや他の猫と医院で接しているうちに猫の魅力に目覚めちゃって(笑)。数年前からは腎臓を患っているのですが、薬と処方食で元気に過ごしています。さくらは私にいろんなことを教えてくれた大切なパートナーなので、今後もできるだけのことをしてあげたいですし、来院されるペットと飼い主さんも、自分とさくらのように長い間一緒に過ごせるお手伝いをしていきたいですね。
医院ではイベントなども開催しているとお聞きしたのですが?
不定期でパピーパーティーを開いています。特に犬はある程度のしつけが必要ですが、日本では習慣がないため、飼い主もどうやれば教育が入るか知らない方が多い。そういった部分を学ぶために企画していますが、中でも一番の理由は、診察の時になかなか見せてくれない子が多かったからなんです。最悪は麻酔を打って処置をしなければいけませんから、その子にとっても不利益ですよね。トレーナーの先生はカナダで訓練校に通われた方で的確なアドバイスをしてくださいますので、積極的に参加していただき、できるだけ多くの方にわんちゃんと良い関係を作って欲しいと思います。私もパピーパーティーからはヒントを得て診察に活かしていますので、続けていきたい活動の一つです。
今後こちらの医院をどのように発展したいとお考えですか?
当院の患者さんはほとんど地域にお住まいの方です。この桜台エリアには土地に根づいたご家庭が多く、先代の犬を父が診ていた方も来てくださいます。動物の町医者という存在はまさに当院のめざすところなので、何かあったらまず風祭動物病院に行ってみようと思っていただけるようになりたいです。また、診ていたペットが亡くなったあと、飼い主さんがご挨拶に来てくださることも多々あります。治療では葛藤することも正直ありますが、飼い主さんにひとつの区切りが見受けられると、間違っていなかったとほっとします。そして新たな命を飼われて連れてきてくれると本当に嬉しくて、幸せを感じます。当院は医師の人数や設備も少なく、規模的に大きなことはできません。しかし、うちのような町医者を求める方がいてくださるのはとても励みになっています。今後とも、できるだけ敷居を低くし、何でも相談できる、おつき合いを大事にする医院でありたいと思います。また一次診療施設としての設備をさらに充実させ、1匹でも多くの動物を救える獣医師になるために、日々研鑽していきたいと思ってます。