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渋谷正光 副院長の独自取材記事
渋谷動物病院
(八王子市/長沼駅)
最終更新日: 2023/01/22
京王線「長沼駅」から徒歩3分。のどかな田園風景を抜けた先に、「渋谷動物病院」はある。渋谷正光副院長の父にあたる保夫氏が、40年前にこの地に開業したのだ。建て替えや改装を重ねたという院内はモノトーンを基調としたシンプルなデザインで、飾り気のない、誠実な渋谷副院長の印象と重なる。大学では外科の研究室に所属し、早くから開業を見据えて学びの多い職場で技術を磨いてきた。現在の診療では、動物に本来備わっている自然治癒力を高め、体に負担の少ない治療を実践している。取材陣の帰り際には強風が吹きすさぶなか、院外まで見送りに来てくれた姿が忘れられない。「地域の皆さんに頼られる獣医師になりたい」と語る渋谷副院長に、診療でのこだわりや今後の展望について伺った。 (取材日2014年10月14日)
治療の目的を明確にし、飼い主に治療方針を選択してもらう
シンプルで落ち着いた、隅々まで掃除のいき届いた院内ですね。
ありがとうございます。動物病院だけに、清潔さを保つように日頃から心がけています。1975年に院長である父が自宅1階に当院を開院し、15年前に1度建て替えました。6年前に私がきてからは、更に待合室をリフォームし、白とベージュを基調にしたシンプルなイメージに変えました。余計なものを一切省いたので汚れが目立つようになり、掃除には手が抜けません(笑)。
診療の特徴を教えてください。
診療対象動物は犬と猫に限定しており、基本的にその他の小動物の診療は行っていません。トリミングルームとペットホテルが併設され、看護師兼トリマーが健康状態をチェックしながらトリミングを行い、皮膚疾患のあるペットには薬浴も実施しています。私の専門は外科ですので、地域の皆さんの幅広い主訴に対応する身近な動物病院である一方、これまで培った外科の技術や経験を生かし、個人病院で可能なさまざまな手術を行っています。診療では、本来動物に備わっている自然治癒力高め、身体に負担のかからない治療を実践しています。
診療の際、最も心がけているのはどんなことですか?
自分の診療スタイルを押しつけるのではなく、飼い主さんに求められている診療を優先することです。また、治療にはある程度の選択肢をもって臨む必要がありますが、その選択肢は選びやすいものでないと飼い主さんも検討できませんよね。当院ではまず、実施する治療の目的を明確にし、飼い主さんが病気の根治を望まれるのか、今より少しでも改善させる治療にするのかをお聞きしています。根治を望まれた場合には当然、「手術」という選択肢もありますが、中には開腹などに抵抗を持たれる飼い主さんもおられますし、逆に、内科的治療を選択されても、継続的な薬の服用が困難な飼い主さんであれば、別の選択肢を提示しなければなりません。治療には必ずメリットとデメリットがあり、それを飼い主さんに明確に示すのが獣医師の務めです。特に手術のデメリットは、外科の経験を数多く体験していなければ正確に伝えるのが難しいものです。街の動物病院は、ペットが病気になった際の最初の窓口ですので、大学病院をお勧めする症状であるかなどを含め、獣医師には的確な判断が求められます。
開業を見据え、各地で臨床経験を積む日々
昔から獣医師になろうと思っていたのですか?
当院の院長が父で、もう一人の獣医師は母です。自宅が動物病院という環境ですから、祖母や親戚にはよく「いい跡取りができたわね」と言われ、次第に私もいずれは自分が跡を継ぐものだと思うようになりました。今は住宅地として開けてきたものの、幼い頃のこの辺りは田んぼと畑ばかりで、オタマジャクシを捕まえて遊ぶような日常でした。反抗期には「獣医師になりたくない! 」と意地になった時期もありましたが、飼っていた犬が道路に飛び出して車に轢かれ、すぐに病院に運んで父が手際よく治療する姿を見て、獣医師という職業もいいなと思うようになりました。私は獣医学部のある大学へ進み、外科の研究室に入りました。そこには常時100頭ほどの動物がおり、研究の傍ら臨床の手伝いなどもあってとても忙しかったのですが、腎泌尿器科を専門とする指導医の元、避妊去勢や整形外科、眼科に至るまでの技術を幅広く学ぶことができました。大変でしたが、学びの多い大学時代を過ごしたと思います。
その後は、どちらで経験を積まれたのですか?
北海道の動物病院で3年半学びました。広大な自然環境の中、地域には動物病院が少なく、地元の野鳥の会の方とも密接に関わりました。そのお影で、都内では接する機会のない国の天然記念物に指定されているオジロワシを始め、いろいろな動物の治療を経験しました。電話で幼いエゾ鹿の治療を頼まれ、小さなエゾ鹿なら大丈夫だろうと治療を引き受けると、あまりにも大きくて診察台に乗りきらなかったこともあります(笑)。まさに大自然です。月に1度行われていた、出身大学の先生による治療が素晴らしく、私たちには厳しく接する凄腕の先生が、親身になって飼い主さんや動物たちの話しを聞き、スペシャリストの技術を駆使して治療を行う様子に衝撃を受けました。私は、確かな技術を持って臨床の場に立つ必要をひしひしと感じたのです。最初の窓口でそれができれば、ペットや飼い主さんは病院をたらい回しにされることなく、最小限の負担で最善の結果をもたらすことができます。その後は、外科に特化し、県内屈指の手術件数を誇る三重県の「なるかわ動物病院」で、最新の設備と多くのスタッフに囲まれながら働きました。特に院長の外科技術が秀逸で、他院に出向いて手術を行うこともよくありました。私はここで多くの手術経験を積み、生死のかかった際どい手術での引き際を体得しました。「これ以上手を進めると命にかかわる」という線引きは、経験でしか身につけることができません。2つの病院で合わせて7年半に及ぶ貴重な経験を経て、私は父の待つ当院に戻りました。
その後、ご実家の動物病院に戻られてからはいかがでしたか?
30年以上ものギャップがある二人の獣医師が同じ場所で働くわけですから、診療スタイルの違いなどに戸惑うことはありました。ですが、触診などを重視し、経験による勘に長けている父と、医学的根拠を大切にし、検査で裏付けを取りながら治療を勧める私はある意味、バランスがとれていたのかもしれません。どんな形であれ、患者さんにご満足いただける治療を行うのが最終的な目的ですよね。それに父は、新しいものに寛容で、戻って来た当院には、他に劣らぬ最新の医療機器が取りそろえられていました。今はほとんど両親が診療を行う機会はなくなり、私はこれまでの経験を信じて本当のジェネラリストになれるよう、日々研鑽を積んでいるところです。
飼い主こそ、動物たちの主治医
お忙しいと思いますが、休日はどのように過ごされているのですか?
私は画家や料理人に憧れていた時期があるほどクリエイティブな作業が好きで、昨年からはカメラを始めました。院内のモニターにも、昨年撮った紅葉狩りの画像を映し出すように設定しています。今は妻が妊娠中で、6歳になる息子がいるので、自分の趣味より家族サービスを優先していますね。ですが毎週土曜日だけは、健康づくりを兼ねてテニスで汗を流し、気分転換をさせてもらっています。
今後の展望を教えてください。
同院は、昔からつき合いのある地域の人々のお陰で40年もの間この地で開業できています。ですからまずは私自身が、専門分野・得意分野に限らずジェネラリストとして地域の皆さんに頼られる獣医師になるよう精進しなければなりません。病院としては、今後はもう少し獣医師の数を増やし、治療の幅を広げていければと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
動物病院に対するハードルの高さは飼い主さんによって随分異なります。できれば、今よりもっと飼い主さんやペットとの距離が縮まればいいですよね。当院には爪切りや体重測定だけをしに来てくださる方も多く、ときにはペットを連れずにお話しをしに来られる方もおられます。ですが、そうやって気兼ねなく足を運んでくださることが、動物の病気予防・早期発見に繋がるのだと思います。ペットの主治医は、一番身近におられる飼い主さん自身です。飼い主さんの勘やちょっとした気づきがペットの命を左右することもありますので、何か違和感があった場合にはすぐにご相談いただければと思います。当院でもきっとお力になれるでしょう。