―動物に麻酔を掛けずに行うことは可能なのでしょうか?
人は歯の治療をするのに全身麻酔をしないですよね? 麻酔がどれだけ体に負担の掛かるものかというのは考えたら誰でもわかることですし、動物の医療も人の医療に近づけるべきであり、それが僕の理想です。ですから当院では、歯の治療でできるだけ麻酔を掛けません。動物の歯石除去には全身麻酔を掛ける、ということが当然のように大学でも教えられますが、麻酔に頼る一辺倒な治療だけでなく、飼い主さんへ選択肢を与えることも医療であり、我々の仕事だと思います。僕は、飼い主さんへ正しい情報を提供し、望みを叶える医療を提供してあげたい、という思いが常にあります。
―実際、どのようにして麻酔を掛けずに行っているのでしょうか?
それは処置のやり方を知っているかどうかの問題ではありません。歯石の除去は誰にでもできることなんです。それを麻酔を掛けずに行うには、揺れ動く白衣に犬が驚いてしまわないように裾の長い白衣を着用しないなど、さまざまなノウハウがあり、その1つにまず、犬との信頼関係を築くことにあります。当院では診察台を低くし、僕は椅子に腰掛けることで犬と同じ目線に合わせ、頭を押さえながら目と目を合わせます。それから、徐々に首、胸、お腹、と触れていき、最後に生殖器を触らせてくれたら自分を受け入れてくれたサインなので、そこで初めて口の中を見ます。いきなり口を触ると噛みつきますが、この場合、ほとんどの犬が口を見せてくれますね。
―どのような症状での来院が多いですか?
一番多いのは歯周病予防のための市販のヒヅメやガムによる破折です。そうならないために、歯を磨いてあげなければならないのをわかっていながら、そうしたお菓子を与えることで責任を果たした気になってしまうのが人間というものです。自分がいいと思ってやっていることを、同じようにペットにもしてあげるべきで、自分も噛み砕けないようなものをペットに与える、自分は歯ブラシで歯を磨いているけどペットにはやらない、というのは責任のある飼い主の行動とは言えず、そうした責任逃れを是正していくのも僕の役割だと思っています。僕はペットに対しては優しいです。ペットは飼い主さんに左右されてしまうものですからね。ですが、飼い主さんへもきちんとお話をすると、理解していただけます。僕はヤマザキ学園大学でも教えているのですが、関心を持たれた飼い主さんが僕の授業に聴講生としていらっしゃることもありますね。
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