山下 諒 院長の独自取材記事

多摩大塚どうぶつ病院
(八王子市/大塚・帝京大学駅)
最終更新日: 2025/12/12

多摩モノレール大塚・帝京大学駅徒歩3分、野猿街道沿いにある「多摩大塚どうぶつ病院」。長年、この場所にあった「にしき動物病院」を山下諒院長が承継開業したクリニックだ。「早く一人前になりたい」という思いから、獣医師1年目はあえて新規開業の動物病院で武者修行のように経験を積むというキャリアを選択。以後、大学付属の動物病院や救急動物病院での経験、専門としてきた腫瘍に関する知識と技術のすべてをプライマリケアの現場で役立てたいとの熱い思いを持つ。その根底には、幼い頃からともに過ごした愛犬をがんで失った経験がある。地域に根差し、動物たちとの幸せな暮らしを一日でも延ばす診療をめざす山下院長に、診療にかける思いなどを詳しく聞いた。(取材日2025年11月17日)
ともに育った愛犬への思いを胸に研鑽を積む
まず、獣医師になったきっかけから教えてください。

子どもの頃、犬を飼っていたのがきっかけです。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの男の子で、名前は両親がつけたルイ。漢字では類と書きます。私が小学生になる頃に飼い始めて一緒に大きくなりました。近所の動物病院によくお世話になりましたが、院長が同級生のお母さんで、とてもすてきな獣医さんでしたね。心臓病にかかりやすく短命種といわれる犬種ですが、15歳まで長生きしてくれました。ただ、背中のできものを皮膚病と油断していたら、実は悪性腫瘍だったのは悔やまれるところではあります。獣医師になったところを類に見せることはできなかったのですが、「命に関わる病気を絶対に見逃さない」という強い思いを胸に刻んでくれました。
大学ではどのようなことを主に学ばれましたか。
3年次からは腫瘍に関する研究をしている研究室に所属しました。人気の高い研究室で尊敬できる先輩方がそろっていて、刺激的な毎日だったのも懐かしいですね。学部生ながら外部の勉強会・学会に参加したり、新しい治療を行っている動物病院を見学したりと、多くを学んだ学生時代でした。現在も腫瘍を専門として診療をしていますが、この研究室で土台をつくってくれたおかげだと感謝しています。大学時代の友人たちとは今も仲良くしていて、開業祝いに肉球などをデザインしたバルーンアレンジを贈ってくれました。受付に飾っていますが、「手入れの手間がないものを」という気遣いもうれしかったです。
大学卒業後のキャリアについてお聞かせください。

早く一人前になりたかったので、あえて1年目は新規開業したクリニックで経験を積む道を選びました。大きな動物病院では3年間は下積みで診療にもなかなか出られないと聞きますからね。多様な症例にあたることができたのも良かったです。その後、当初の予定どおり大学付属の動物病院に戻って幅広い診療科での研鑽を重ね、二次診療もしっかりと学びました。研修後は1.5次診療施設といった立ち位置の地域の中核的な動物病院に3年間勤務。CTやMRIも備わっていて、さまざまな手術を担当し、学びを重ねました。勤務医として最後の1年は救急動物病院に所属し、夜間救急の実践経験も積んで現在に至ります。1.5次診療に携わる中でかかりつけ医としての役割にやりがいを感じ、いつかは開業したいと考えるようになりましたが、良いご縁に恵まれてうれしく思っています。
前院長の温かくきめ細かな診療を受け継ぎたい
こちらに承継開業した経緯を伺えますか。

現在は第三者承継サービスを行っている会社がいくつもあり、私も複数の仲介業者に相談しました。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県と広範囲にわたって探していましたが、何よりも重視していたのが院長のお人柄です。どの先生も素晴らしかったのですが、前院長の西木千絵先生に出会って気持ちが固まりました。約30年間診療してきたにもかかわらず施設全体をとてもきれいに保たれていたこと、きめ細かな診療に心惹かれました。ちょうど親の世代で、獣医師への道を開いてくれた友達のお母さんを思い出したところもあるかもしれません。近隣に動物病院は少なく、閉院してしまうと地域のたくさんの方々が困ってしまうとも聞いて承継開業を決意しました。
現在の診療体制について教えてください。
基本的には私が1人で診療にあたっていますが、診察室が2つあるので二診の日もあります。時間をかけて丁寧に引き継ぎを行うため、現在も西木先生に金曜日と土曜日に来ていただいています。また、私と同年代でもある西木先生の娘さんも獣医師で、非常勤として参加してくれていることもあり、院内はとてもアットホームな雰囲気です。もともといてくれた愛玩動物看護師さんたちが残ってくれたのも助かっています。長くいるスタッフも多いのですが、2022年に愛玩動物看護師という国家資格が新しくできた時、働きながら資格を取得した勉強熱心な方々です。
こちらの診療の強みは何でしょうか。

一般的な診療だけではなく、腫瘍診療を専門としてきた強みがあります。腫瘍診療に関する資格として獣医腫瘍科認定医II種も取得していて、町の獣医師でありながら専門的な知識と経験を生かしながら日々診療にあたっています。皮膚にできものができた時、炎症や感染症か、がんかどうかの正確な診断は非常に重要です。もし、がんなら転移を阻止するため一刻も早い治療が必要ですが、しっかりとした診断がなければ正しい治療に進めません。犬や猫もがんと診断された場合、外科手術、放射線治療、抗がん剤などの化学療法が三大治療となるのは人間と同じです。放射線治療は大学付属の動物病院などを紹介していますが、外科手術と抗がん剤治療は院内で対応しています。「大学付属動物病院に通う余裕がない」という方も、ご相談ください。また整形外科や高難度外科に関しては、専門の先生をお呼びしてともに手術を実施できる体制を整えていますので、ご安心ください。
専門とする腫瘍の手術や治療に強み。予防にも注力
承継開業後、新たに設備投資も行ったそうですね。

がんの手術が必要になるのは主に高齢の子です。年齢を重ねている子たちでも安心して麻酔をかけられるよう、先進の動物用麻酔器や術中モニターを導入しました。より精密な人工呼吸管理も可能になり、手術の安全性により配慮した環境を整えられたと思います。また、大きな血管でも糸を使わずに切って結ぶことができる血管シーリングデバイスも新しく取り入れました。やはり、体内に糸などの異物はできるだけ残したくありませんからね。また、動物用内視鏡検査装置もぜひ設置したかった装置です。犬も猫も異物を食べてしまう子が多く、これまでは胃切開や腸切開が必要でした。当院の内視鏡は消化器官内視鏡下生検だけではなく異物摘出も可能で、動物たちの負担を大きく軽減できるのではないでしょうか。
診療にあたって大切にしているのは何ですか。
飼い主さんにはもちろん、犬や猫にも笑顔で接するようにしています。動物たちは人間よりも敏感に表情を読み取ることも少なくありません。こちらが真顔では震えてしまう子もいます。「よく遊びに来てくれたね」くらいのムードで迎えてあげたほうが、彼ら・彼女らにとってはいいのかなと考えています。
今後の展望についてお話しください。

現在も超音波検査装置を備えていますが、より高性能な機種へのリニューアルを予定しています。その他の医療機器に関しても少しずつ新しくしたいと思っています。また、現在も稼働中のICUは1室ありますが小型犬しか入れません。近隣は庭つきの戸建ても多く大型犬を飼っている方も少なくないので、大型犬にも対応できるICUの導入を検討しています。さらに、今回の承継開業時には内装には手は加えなかったのですが、院内動線も含め、より受診しやすい環境に整えていきたいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
これまでお通いの方も初めての方も、ぜひ足を運んでください。何もない時でも散歩の途中でワンちゃんが立ち寄りたくなってしまうような場所をめざしています。また、同じ犬種や猫種で、同じ病気だったとしても、ご家族ごとに望まれる治療は違うでしょう。検査や治療に関して、できるだけ多くの選択肢を提示して、納得いただけるまで丁寧に説明することも大切にしています。通院可能な頻度、入院の可否、かけられるコストなどについても遠慮なくご相談ください。春の予防接種の時期は混み合いますが、秋冬なら時間をかけて検査をすることもできます。犬や猫は人間の約4倍の速さで年を取るといわれています。がんの早期発見のために、年に2回の検診を習慣にしてはいかがでしょうか。

