東京メトロ・平和台駅を降り立ち、徒歩5分ほど。環八通り沿いに構えるアースカラーのビルに『田柄動物病院』を訪ねた。入口横にある大きな窓からは、通りがかりにも院内の様子がうかがえ、一歩中に入るとイメージカラーでもあるオレンジ色を効かせた明るい空間が広がる。出迎えてくれたのは、よく通る声と朗らかな表情が印象的な院長の池田丞先生。開業医として多くの動物たちの命に対峙する中で、けっして最期を諦めることのない、動物たちに本能的に備わった生への固着を目の当たりにしてきた。常に動物の気持ちに思いをはせ、過剰なストレスを与えない診療を心がけているという池田先生に、獣医師としてのこれまでの歩みを踏まえ、救えなかった命に対する思いや、ペットと飼い主のあるべき姿など、動物たちへの愛にあふれた持論をたっぷりと語っていただいた。
(取材日2014年6月9日)
―今年1月に移転されたそうですね。院内の明るい雰囲気が印象的です。
練馬区内の貸店舗で開業してから19年。今回で2度目の移転になります。開業した当初は医院のロゴなんかもあえて作らず、特に宣伝もせず、私の腕だけで勝負する、いわば「味のうまいラーメン屋」のような医院を作りたいと考えていたのですが、より多くの飼い主さんに信頼していただくには、まずは当院を知っていただくことが第一歩。今回の移転を機に、医院のイメージカラーをオレンジに決めてロゴの製作をプロにお願いしたり、医院の内装にも少しこだわってみました。どなたにとっても、中の様子がよく見えないところに入っていくのは不安でしょうから、通りからも院内の様子がよく見えるように、窓を大きく取ったり、診療室やトリミング室も中の様子が廊下から見えるように、窓のついたドアを使っています。怖がり屋の猫たちが犬の吠える声におびえてしまわないように、入院用の犬舎と猫舎を別々に設けたほか、薬品や検査機器、診療に使う器具、資料などすべて引き戸の中に収納することで、すっきり整然とした空間で診療できるようになりました。
―どんな種類のペットが来院しますか?このエリアならではの特徴は?
犬が6割、猫が3割強、そのほかはウサギやハムスターなどの小動物といったところでしょうか。症例としてはワクチン、フィラリア、ノミなどの予防のほか、皮膚病や耳の疾患、ここ数年は高齢化による心臓病や腫瘍、歯の不調で訪れるペットも増えています。かかりつけでいらっしゃる飼い主さんの世代としては、私と同じ40代か、少し上の世代の女性が中心。このあたりは都内でもまだまだ畑も多いですし、ゆったりと穏やかな環境で飼われている動物が比較的多いように思います。
―診療時にどんなことを心がけていらっしゃいますか?
来院した動物は、私たち獣医をどう見ているでしょうか?診療台に乗せられ、いったいこれから何をされるのか、飼い主さんがそばで見ているとはいえ、相当な恐怖とストレスを感じているに違いありません。当院はペットホテルもやっていますが、ホテルと言えば何だか聞こえはいいけれど、要は檻に入れられて自由を奪われてしまう場所。吠えたり、噛んできたりする子がいるのは至極当然のことと言っていいでしょう。ですから、ここへやってくるペットたちのそうしたストレスを少しでも理解しようと努め、ささいなことですが、初めからあまり強く押さえつけたりせず、よく撫でてあげながら診察を始めるようにしているつもりです。また飼い主さんとじっくり対話することも、信頼関係を築いていく上では大切なこと。できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明し、治療によるメリットもデメリットも包み隠さずお話して、大事なペットの治療方針について飼い主さんと本音で話し合い、時間をかけて選択していただくようにしています。決断を急がせるようなことはしたくないので、急を要するものでなければ、一晩自宅でゆっくり考えてから再度来院していただくことも多いかもしれません。
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