川嶋 博士 院長の独自取材記事
川嶋ペットホスピタル
(草加市/獨協大学前〈草加松原〉駅)
最終更新日: 2023/01/22
草加市の国道4号と県道34号の交差点から西へ100mほど。2005年に川嶋博士院長が開業した「川嶋ペットホスピタル」は、10年来地域の人々に親しまれてきた「町の獣医さん」だ。広い院内は大きなガラス窓がはめられた明るい待合室、診療室、手術室、レントゲン室、入院室などがあり、膝蓋骨脱臼などの外科手術も実施。アレルギー性の皮膚病治療にも力を入れている。「大事なのは、動物を早く元気にしてあげること」という信念を持つ川嶋院長に、動物や治療への思いを聞いた。 (取材日2016年5月11日)
大事なのは、リラックスして何でも話してもらうこと
獣医師になったきっかけを教えてください。
小さい頃から犬や猫を飼っていたのですが、一番長くいた犬が僕が小学生ぐらいの時にフィラリアにかかってしまって。自転車の前カゴにその犬を乗せて、近くの動物病院まで何度も連れて行きました。そこの先生にフィラリアの虫を顕微鏡で見せてもらい、また治療のおかげでうちの犬が元気になって走り回れるようになったのを経験して、「この仕事はすごい!」と、獣医師に憧れを抱くようになりました。ただ、僕はそんなに勉強が好きじゃなかったので、なりたい気持ちはあっても無理だろうな……とも思っていたのです。だから、獣医学科に合格した時はとてもうれしくて。なれると思っていなかった憧れの職業になれたこと、動物と関わって仕事ができることをとても幸せに感じています。
開業から約10年。変化を感じることはありますか?
開業前は川口市のクリニックで約7年インターンとして働き、都内の病院にも5年ほど勤めていました。変わったなあと思うのは、フィラリア症の予防率が上がりこの病気をほとんど見かけなくなったこと。また、開業当初は「お金がかかるなら検査はいいです」と言われることも多かったのですが、最近では必要だと思う検査についてお話しすると、すぐに「やってください」という方が多くなりました。本当に動物を愛していて、かつ飼い犬・飼い猫に対して理解の深い飼い主さんが増えてきているという印象があります。
診療にあたり、大事にしていることは何でしょうか?
とにかく飼い主さんの話をよく聞くことですね。初めての病院は誰でも、「どんな先生だろう」、「治療費はどれぐらいかかるんだろう」と不安なもの。不安で言いたいことが言えなかったり、話してもらえないことも出てくると思うので、診療ではあまり難しい言葉は使わず、世間話のようなリラックスした雰囲気で、気楽にできる限りたくさん話してもらえるように心がけています。あとは当たり前ですが、検査が必要な理由や病名、治療法などについて細かいところまできちんと説明して、飼い主さんに病気についての理解を深めてもらうこと。知らないことが不安の一番の原因ですし、知ることで行動が変わることもあると思うので、飼い主さんに病気の知識を教えるというのも僕たち獣医師の大事な役目だと思っています。
動物にできるだけ負担をかけない迅速な治療をめざす
皮膚疾患の治療に積極的に取り組んでいらっしゃると聞きました。
川口時代に皮膚科専門の先生から、皮膚科の何たるかを教わりました。それが7年勤めた中で一番の財産だと思います。だからこそ皮膚科で恥ずかしいことはできないというこだわりを持って取り組んでいます。犬の皮膚病で一番多いのはアレルギーです。まず検査をしてアレルギーの原因を特定し、それに対して治療を行っていくのですが、細菌性の感染症と違い、アレルギーが原因の皮膚疾患は治療が長引くことや完治はしない場合もあるので、飼い主さんの理解がとても重要になります。たとえ完治しなくても、原因がわかって治らないなりに処置をするのと、何もわからないままひどくなるのではストレスも全然違うので、早く原因をはっきりさせて飼い主さんも動物も治療を受けられるようにしています。
整形外科手術も行われているのですね。
特に、膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)という膝の関節のお皿がずれてしまう病気があるのですが、この手術は都内に勤務していた頃、10ヵ月先まで予約が埋まるぐらい行い、かなりの数を経験してきたという自負もありますので、必要なら随時手術を行っています。膝蓋骨脱臼は予備軍も多く、実際に足を挙げたり足をひきずったりと症状が出る犬は約半分ぐらい。症状がひどければ手術になりますが、そうでなければ経過を診ていく場合もあります。椎間板なども同じなのですが、原因の一つはフローリングの室内で走ったりボール投げをしたりしているうちに、足が変な方向に滑って無理な力がかかること。狭い室内で遊ばせるのは動物本来の習性ではないので、運動させるならけがの心配のない滑らない広い外で、ゆったりと遊ばせてあげることをお勧めしたいですね。
他の医療機関との連携についても教えてください。
難しい手術のときは友人の獣医師3~4人と助け合いながら行ったり、難易度の高い手術については専門医や大学病院、高度医療センターなどへ紹介したりと、一人で抱え込まないようにしています。獣医師にもそれぞれ得意・不得意分野があり、例えば僕の場合、皮膚科や膝蓋骨脱臼の手術は得意だけれど眼科はあまり得意ではありません。無理をして慣れない分野に手を出して治療時間が長引けば、飼い主さんにも迷惑ですし、動物にも負担を強いてしまう。そんなことにならないように、眼科では専門医を紹介したり、逆に皮膚疾患は他のクリニックからの紹介を受けたりと、それぞれ専門の違う先生たちと連携しながら治療にあたっています。一番大事なのは、動物を早く元気にしてあげることですからね。
「来て良かった」と言われる地域の獣医師でありたい
先生ご自身もたくさん動物を飼われいるそうですね。
妻が動物が大好きなのと、下半身不随で安楽死を頼まれた猫やペットショップで売れ残ってしまった犬などを引き取っているうちにどんどん増えてしまって。今では10匹以上の大所帯になっています(笑)。自分の犬や猫が病気になったときの、早く治ってほしいと願う気持ち、治ったときの喜びは僕もまさに体験していることなので、つらそうな飼い主さんを見ているとこっちもつらくなってきて、早くそのつらさから解放してあげたいと思います。同時に検査などで治療費が高くなると、たとえお金の心配はしなくていいからと言われていても、「高くなったけど大丈夫かな」と考えてしまいますね。「どれぐらいかかるんだろう」は正直どの飼い主さんも考えることだと思うので、手術などで治療費が高くなるときは見積もりを出して、治療費もオープンにするように気をつけています。
飼い主さんの気持ちになってしまうわけですね。
悪い癖だとは思うのですが。少し前に飼っていたチワワ1匹が死んでしまい、自分の犬を亡くすのはこんなにつらいんだな、と改めて感じました。10匹中の1匹だったのですが、たくさんいるからといって感覚が鈍ることはありませんね。「この子が死んだら、もう飼いたくない」という人もいますが、あんなにつらい喪失感をもう味わいたくないという気持ちはわかる気がします。開業から約10年が経ち、死んでしまう犬や猫も多いのですが、最期はお家で、飼い主さんの下でまっとうしてほしいので、なるべく病院で最期を迎えることはしないようにしています。ペットを飼うときから死んでしまったときのことまで考える人はいませんが、アクセサリーみたいに飽きたら捨てるのはとんでもない話。動物を飼うというのはそれぐらい重大なことなので、責任持って飼ってほしいと思います。
地域の中で、どんなクリニックでありたいですか?
動物をわが子のようにかわいがっている人はたくさんいます。そういう飼い主さんたちを前にして、中途半端なことや、傷つけるようなことは言えません。気づかずに飼い主さんや動物を傷つけてしまうことがないように、僕らの発する一言一言はすごく重要なんだという意識を持っていなければ。どんなことも常にオープンにして飼い主さんに包み隠さず伝え、納得して治療を受けてもらえるクリニックであり続けたい。「この病院に来て良かった」と思ってもらえるような獣医師でありたいと思います。治療技術は日進月歩なので日々勉強を続けることは当然ですが、自分一人の知識には限界があるのも確かなので、不得意な分野は専門の病院や大学病院と連携しながら。「町医者」の領分の中で、なるべくレベルの高い治療を提供していきたいです。